第三十六話「決着の時」
「はぁ、はぁ。うぐ」
「ニシ、まだ倒れるな。倒れては今までのすべてが無駄になる」
「は、い」
チィトの弱点を見つけたボクは、ブガイと共に終わりの見えない長期戦を続けていた。
戦闘開始からどれだけの時間が経過したか分からない。
まるで隔離された別の次元にいるような感覚がする。
本当に苦しくて苦しくてしかたない。
不本意にも、いっそはやく倒れて楽になりたいという気持ちさえ芽生え始めていた。
だが、膝をつこうとしたところで何とか気持ちを押さえ、戦闘を続行した。
「はぁ、はぁ」
「す、こし、まずいかもしれん」
「お前ら、ばててるヒマはないぞ。デスビルの能力はまだ発動中だ」
チィトは上空から容赦なく魔性の火や雷、雹で攻撃してきた。
ボクは長時間の戦闘が続いた影響で体が悲鳴をあげ、ブガイも限界に近かった。
かといって、立ち止まったりすれば、また例のゲルにつかまるし、もしくは別の能力がとんでくるかもしれない。
そう考えている内にも、避け損ねた攻撃が次々とこちらの肉体を傷つけていった。
「う、ぐ」
「ニシ!」
「さぁ、もうあきらめろ。苦しみが長引くだけだぞ」
「ニシ、動きながらでいい。ワシの話を聞いてくれるか」
「手短にお願いします」
ボクはブガイから話を聞くと、その場に立ち止まり、迫ってきたチィトにカウンターを狙い応戦した。
しかし、それも簡単に見切られてしまい、さっきの二の舞となってしまう。
さらには、体勢を立て直すヒマもなく、デスビルの猛攻に圧倒された。
「ぐ、うううう」
「変だな。右肩を狙ってくると思ったが、そうしない。フェイクのつもりか。ん?」
次の瞬間、ブガイが死角からはなったミミ弓がチィトの右腕に命中した。
ボクはそれとほぼ同時にミミナイフでチィトの右腕を切りつけ、ひるんだスキにデスビルを奪い取った。
「はぁ、はぁ」
「よくやった、ニシ。絶対にはなすなよ」
「なるほど、狙いはデスビルか。でも、お前が使ったところで能力は使えないし、発動中の能力を解除する事もできないぞ」
その言葉通り、上空から降り注ぐ雷や雹はまだ止む気配はない。
しかし、ボクの狙いは別にあった。
「魔性具はデビレンにとって分身のようなもの。だったら、こうすればいいんだ」
ボクは右手にミミナイフ、左手にデスビルを装備し、チィトの右肩を力一杯貫いた。
デスビルに宿る能力こそ使えなかったが、単純に武器として使用するだけなら話は別。
強固なチィトの皮膚も自分の分身であるデスビルの攻撃は防ぎきれなかった。
「ちっ、まさかな」
「思ったとおりじゃ。自分の魔性具で自分を傷つける事なんてありえないし、おそらくこれはチィト自身も知らなかった事じゃ」
「今、チィトの心は乱れ始めているはず。このチャンスは逃さない」
もはや、ボクもブガイも限界などとっくにこえていたが、気力だけで持ちこたえ、戦い続けた。
今度はちゃんと急所である右肩を狙われていると分かっているのか、チィトの余裕ぶった遊び心は消えているようだ。
しかし、それでも持ち前のパワーとスピードで応戦するなど決して押されているわけではなかった。
「ハンデがあるとはいえ、ここまでオレを追い詰めるとはな。はははは!」
「やはり、こいつはワシたちより格段に強い。じゃからこそこの機会を逃すわけにはいかない」
「絶対に勝つ」
ボクは激しく流血しながらもデスビルをふるい、気迫でチィトを押し始めた。
そして、ミミナイフとの同時攻撃をあびせた直後に倒れ込んだ。
「ぐ、げ、んかいだ」
「よくやった、あとはワシが」
「うう、低俗人間共が」
ふらついたチィトの右肩にブガイのミミナイフが突き刺さる。
そして、傷が再生しきる前に続けて次元切断カプセルを埋め込まれた。
「これは、そうか、俺を別次元へとばすつもりか」
「これでキサマも終わりじゃ」
「ぐ、ぐおおおおおおおお」
チィトの右肩周辺の空間が少しずつ裂けていき、肉体を飲み込み始めた。
ブガイはふらつきながらも、倒れているボクをかついでその場からはなれた。
「はぁ、はぁ。勝ったぞ、ニシ」
「やり......ましたね」
「くだらない。何か秘策を考えているとは思っていたが、こんなくだらないものだったとはな。どうせ、時間限定だろ? その場しのぎにしかならないぞ」
「十分じゃ。その間に我々はキサマが帰ってきたときに備えて戦力を整えられる。今回と同じ状況になると思うなよ」
「いいさ、楽しみはとっておいたほうがいいから。でも、残念だよ。お前たちともっと楽しく遊びたかったのに」
チィトは笑いながら別次元へと消えていった。
それと同時にデスビルも消滅し、ボクとブガイの命を賭した戦いはようやく幕を閉じたのだった。
「ずいぶん、時間がたったように感じる」
チィトとの戦いの後、ボクはブガイのアジトに運ばれてベッドの上で傷を癒していた。
今、一番気がかりなのは別行動していた仲間たちの安否。
新たな怪我人たちが運ばれてくる度に不安が頭をよぎった。
「ああ、もうだめだ。じっとしてられない」
ボクは耐え切れず、傷を押さえながらベッドからおりた。
そのまま外へ飛び出そうとしたが、出口の前でブガイに押し戻されてしまった。
「はなしてください。仲間が、仲間が心配なんです」
「聞け。ショウとマンジロウにはさっき会ってきた。深い傷を負ってはいたが、命に別状はないようじゃ」
「本当ですか! あ、スズとマジェリーは?」
「お嬢さん二人は軽傷だったので、負傷者たちの搬送を手伝っておる。じゃから、お前が心配する必要はないんじゃ」
「はぁ、よ、よかった」
「とりあえず、中に戻るぞ。お前の方が仲間たちよりもずっと重傷なんじゃから」
ブガイはボクをベッドに戻した後、改まって話し始めた。
それはボクを仲間として勧誘するものだった。
もちろん仲間たちも一緒でいいし、ずっと願っていた旧友への復讐も手伝ってくれるという。
今さらブガイの仕事を否定するつもりはないし、決して悪い話ではないように思う。
でも、私刑屋の仕事はボクには荷が重すぎる気がする。
今回はデビレンが相手だったからしっかりと共闘できたが、人間相手では詰めの甘さが露出してしまう可能性が高い。
おそらくは、遅かれ早かれ衝突して内部分裂してしまうだろう。
「そうなったら、また無益な争いが起こるでしょう。それは絶対に避けたいんです」
「お前らしいな。しかし、復讐はもういいのか?」
「ええ。正直、果たせなかったとしても仕方ないかなというのが本音です。あの事件のせいでひどい目にはあったけど、おかげでこの世界に来て大切なものを手に入れましたから」
「大切なもの?」
「強さと素晴らしい仲間。ボクにとって一生の財産ですよ」
「そうか。お前は今、幸せなんじゃな」
ブガイは少し落ち込んだ様子だったが、最終的には納得してくれたようで、話を無理に進めようとはしなかった。
その後はやってきた部下たちと話をしながら、淡々と武器をまとめ始めた。
「さてと、こうしちゃおれん」
「もう行かれるんですね?」
「そうじゃ。別の土地で戦っている部下たちの応援に向わなければならん」
「また会えますか?」
「お互いに生き残っていればな」
「もし、力が必要な時は言ってくださいね。必ず力になります」
「ああ。前に言ってくれた通り、ワシらは平和を望む者同士。共に戦った戦友なんじゃから」
ブガイはボクと固い握手を交わしたのち、遠征地へと旅立っていった。
ボクも負けていられない。
戦いはまだ終わっていないのだから。




