第三十四話「決戦に向けて」
「さぁ。もう、後戻りはできない」
ジェリラ戦が終わった日の夜、ボクは仲間たちに同意を得たうえでブガイのアジトを訪ねていた。
彼と手を組み、チィト討伐に手を貸すことにしたのだ。
すでに恐怖も迷いも捨ててきた。
ただ、仲間たちとの平和で明るい未来を実現する事だけを胸に秘めていた。
「ブガイ、ボクにできる事なら何でも協力するつもりです」
「お前なら来てくれると思っていたよ、ニシ。ワシを信用してくれるんじゃな?」
「あなたとはやり方は違っても、平和を望む気持ちは同じです。ボクはデビレンとして生き残るつもりなんてない。人間として未来を生きたいんです」
「よく言った。こっちじゃ」
ブガイはボクを連れて、本アジトがある千キロ先の地下シェルターに移動した。
そこにはブガイの仲間たちが武器を手入れしている傍ら、科学者たちが慌ただしく動いていた。
何やら、左右二チームに分かれてアイテムを製造しているようで、まずは右側に移動して説明が行われた。
「ここでは次元切断カプセルというアイテムを作っておる。チィトを倒すために必要な物の一つじゃ」
「え? この前に話していた武器だけじゃないんですか?」
「あれはあくまでも奴にダメージを与えるためのもの。奴はレベルフォー同様に不死身の肉体を持っている。その点はどうするつもりじゃ?」
「それはいつものようにミミッギュで、あ!」
「気づいたようじゃな。奴の持つデビレンの力は桁違いで、普通のものでは通用するはずもない」
「そう......ですよね」
「まぁ、理論上はミミッギュですべてのデビレンの力を奪って無効化するのは可能じゃ。しかし、チィトクラスになると、高層ビルほどのミミッギュの塊があっても足りるか分からんじゃろうな」
だが、ブガイはちゃんとこのチィトの不死に対抗する手を考えていた。
それが右で作っている次元切断カプセルだった。
これは対象者の体内に埋め込むことで、別次元に飛ばして幽閉するためのもの。
別次元というとピンとこないかもしれないが、とにかく自力では帰ってこれないような場所の事だという。
ブガイはチィトを倒すためだけに長い時間をかけて仲間たちと共にこのアイテムを作り続け、ようやく今の段階まで仕上げたそうだ。
「すでにテストはうまくいったし、十分に使用できるレベルじゃ。じゃが、戦いに必要な物はもう一つある。それが左で作っているダクカットじゃ」
「これは一体?」
「一定の間、特殊なフィールドを作り出し、デビレンの力を一時的に弱めるものじゃ」
「こんなものまで! いや、たしかにチィトは人間が到底生きられないような年月をかけて力を蓄えてきた正真正銘の化け物だし、これだけの準備は大前提といえますよね」
「分かっているじゃないか。じゃが、チィトと戦うために必要なものが実はあと一つある。ある意味、一番大事なもの。お前なら分かるな?」
「恐怖に屈しない心なら、もちろん持ってここにきましたよ」
「それでいい」
ブガイはボクの肩をポンと叩いた後、仲間たちを連れて奥の訓練場へ入っていった。
ボクも最後にめいっぱい訓練するために河原へと戻り始めた。
しかし、途中で殺気のようなものに気づき、逆走。
姿を隠そうとしていた角刈りのデビレンを攻撃した。
「気づかないとでも思ったのかい?」
「やるな。前に戦った時よりも強くなったようだな」
「今回はチィトの命令かい?」
「ああ。あの方も誘いを蹴られ続けてそろそろ限界らしくてよ、はっきり言われたよ。もし、次にお前らが誘いを蹴ったら消していいってよ」
「そうか。じゃあ、ボクもはっきり言うよ。デビレンの仲間になるつもりなんてない。絶対にだ」
「言いやがったな。よし、だったら俺は今から街の奴らを襲う。ボスに勝つつもりなら、止めてみろよ」
角刈りデビレンはボクを挑発しつつ、色の薄い霊体のような姿で街の方へと飛んでいった。
そういえば、似たような能力を持ったレベルフォーのデビレンがいるという情報を前に聞いたことがある。
そのデビレンは霊体となった後に人間に憑依してそのままの状態で二十四時間いれば、肉体を奪っていつでも自由に動かせる器に変える能力を持っているという。
これは必ずしも一人だけにしか使えないというわけではなく、霊体化後に最大十人にに分身して一度に十人の人間の肉体を奪って操ることができるというから厄介だ。
敵の能力が分かったのは良いが、器として選ばれているのは老人や子供などデビレンとはとても縁遠い雰囲気をした者ばかりだそうだ。
それに加え、人間が密集した場所ばかりを中心に活動しているらしく、存在をとらえることは非常に困難だといえる。
仮にとらえたとしても、霊体化を解く対抗策までは分からない。
分かっているのは、角刈りデビレンが憑依している間はその人間にはうかつに手出しできずに歯がゆい思いをするだけということだ。
そんな窮地の中、殺気を根気よくたどって憑依されている人間たちを発見するも、予想通りすぐにこちらの劣勢となった。
角刈りデビレンの力は憑依状態でもレベルスリーと同じかそれ以上はある上に反撃など気にしないかのようなノーガードでバンバン攻めてくるので、人間に遠慮して手加減していられるほど甘くはない。
それに追い打ちをかけるように、残りの憑依されている人間たちが加勢に現れた。
そして、言葉を交わす間もなく、持っていた火炎びんであたりを火の海にした。
角刈りデビレンの「巻き込まれたところで、自分の体じゃないんだから」という悪意が込められた実にえげつない戦法だ。
だが、ボクはとっさにある作戦を考えながら逆転のチャンスを待ち、耐え続けた。
「はぁ、あ、ぐ」
「見苦しく粘りやがって。さぁ、観念しろ」」
「うう」
「俺の勝ちだ!」
角刈りデビレンが勢いよく前進しはじめたその時だった。
憑依されている人間たちの動きが急に止まり、うずくまりはじめた。
ボクはこの機を逃さず、憑依されている人間たちを次々と押さえこんで拘束していった。
同時に憑依していた角刈りデビレンは苦しみながら逃走をはじめた。
「ちくしょう。ぐ、ぐ、なぜ弱点が分かった」
「逃がすもんか」
「う、うう」
角刈りデビレンはなすすべなく元の姿へ戻ってしまった。
すぐに再び霊体化しようとしていたが、動きがだんだんと鈍くなっていった。
「な、何の悪夢だ。俺がこんなやられ方するなんてよ」
「どんなに強力な能力も使いすぎればツケがが回ってくる。それは人間もデビレンも同じだ」
「それをお前はあの戦いの中で見抜いたというのか?」
「簡単ではなかったさ。でも、冷静に観察すれば決して不可能じゃなかった」
ボクはさっきの戦いで憑依されている人間たちの動きが少しずつぎこちなくなっているのが分かった。
加えて、なんとなく余裕が消えていくのが感じられた。
そこから、おそらくは角刈りデビレンが能力を連続使用するには制限があるのではと考えたのだった。
「戦いで必要なのは戦闘技術だけじゃない。人間をあまりなめない方がいいよ」
「ううう、ふざけるなぁ! 人間がデビレンに説教とはどんな不届き千万だ! 天罰だ、天罰を与えてやる」
角刈りデビレンは奇声を発しながら、猛烈な勢いで突進してきた。
しかし、それは隙だらけで本当に力任せに動いているような状態。
冷静さをちゃんと保っていたボクによけられないはずはなかった。
「哀れだね。能力が使えなくなった途端にこれか」
「はははは、言いやがったな。そんな安い挑発、もちろん乗ってやるぜぇぇぇ!」
「はっ!」
ボクは角刈りデビレンの攻撃をかわしていき、至近距離から渾身のジャブを浴びせた。
そして、すかさず拘束するとともにミミッギュを撃ちこんだ。
「ボクはチィトと戦わなくちゃいけないんだ。ここで負けるわけにはいかないさ」
「けっ、仮にレベルフォーを何体も倒し続けたところでボスには勝てねぇよ。ボスは全知全能。その辺の強者とは次元が違いすぎるんだよ」
「それでも戦うんだ。たとえ生きて帰れないような戦いでもあっても。もう決めたんだ」
「人間らしい考えだな。バカだ、お前は」
「それでいい。バカでもデビレンのような外道に身を落とすよりマシだからね」
ボクは力を失った角刈りデビレンを近くの換金所に引き渡した後、河原へと入っていった。
ここから意識するのは、迫るチィトとの戦いの事のみ。
持っているすべての力を注ぎ込むつもりで訓練を開始した。




