外伝二「私刑屋結成物語」
この外伝はブガイの視点で進行しますが、彼が若いころの記録のため、本編のもの
に比べて一人称、口調が若者風になってます。
木工所社長殺害が終わった一ヶ月後、俺は仮アジトから少し離れた場所にある墓地を訪れた。
目的は、この地で眠っている仲間たちへの近況報告のため。
気丈にふるまうつもりだったが、悲しい昔の記憶が頭に貼りついて離れなくなってしまった。
それは、母と兄の仇を討ち、旅していた頃の話。
死に場所を求めて旅していた俺は、ふと通りかかった町の酒場である噂を耳にした。
この近辺でも残酷な事件を起こした犯人が裁かれずに野放しになっていたのだ。
俺にはまったく無関係の話ではあったが、やはりいい気はしなかった。
その後、体は自然のような形で被害者遺族の元へ向かった。
最初に訪れたのは、不法侵入者に妻を殺された男性の家。
そこは亡霊が住んでいるかの如く薄暗く、中では男性と母親と思われる老婆のすすり泣く声が響いていた。
予想はしていたが、犯人は罰金を多く収めていたために無罪になっていたのだ。
しかも、今でも若い女性にわいせつ行為を繰り返したり、誘拐まがいのマネまでしているらしかった。
もはや、母と兄を殺したバカ息子と何ら変わらない。
俺は強い怒りをかかえ、犯人である男の元に向かった。
その時はターゲット宅に護衛らしい者はおらず、難なく侵入し拘束。
バカ息子の時と同じ方法で残虐にいたぶっていった。
その際にターゲットは「奥さんが就寝中にわいせつ目的で侵入したが、騒がれた気がしたので仕方なく殺した」とほざいていたが、何にせよ被害者に落度がなかったことに変わりはない。
欠片ほども同情する気はなく、虎視眈々となぶり殺した。
その後は死骸をこれでもかというくらい無残にして近くの底なし沼に投げ捨てた後、すぐにもう一つの事件の被害者宅に向かい、聞き込みを開始した。
それによると、被害者はあどけなさの残る十六歳の少年で、通っていた町の学校で優等生すぎた事を同年代の少年たちに妬まれ、ひどいリンチを受けて死亡したという。
こちらは、共犯たちが捕まっていたものの、主犯の少年は親のおさめた多額の罰金により無罪になっていた。
いくら子供でも、これは許されるはずがない。
俺はすぐに主犯の少年が住む町はずれの豪邸に向かった。
護衛はいるだろうが、今の俺なら苦にする必要はない。
そうタカをくくっていたのがまずかった。
突入した豪邸の中には、得体のしれない武器や再生能力を持った人型の化け物たちがうろついていた。
これが、俺が初めて目にしたデビレンだった。
存在そのものや遠い地方で猛威を振るっているという噂は聞いていた。
いつかはこの近くにもと思っていたが、とうとう勢力を拡大して攻めてきたのだ。
こうなっては仕方ないと果敢に戦う俺だったが、まさかの苦戦を強いられた。
一体が相手ならともかく、複数相手ではさすがに戦力差があり過ぎたのだ。
おまけにこちらが不安定な体なのに対し、あちらは強力な再生能力を有しているという有様。
しだいに限界へと追い込まれ、レベルスリー十体を倒したところで完全包囲されてしまった。
だが、とどめをさされる寸前、刀を二本持ったアホ毛の黒髪男が横壁を破壊して乱入してきた。
それが、後に俺の生涯の友となる二刀流のマツだった。
彼は故郷に甚大な被害を与えたデビレンたちを追って旅していた若者で、このときわずか二十一歳。
有している剣の腕はまさに達人級で、目の前にいたデビレンたちを次々と斬り倒していった。
その後は特に言葉を交わすこともなく俺と共闘し、奥に隠れていたターゲットを始末するところまで手伝ってくれた。
そして、自分の生い立ちと共に世界の置かれている状況を語り始めた。
それによると、この時の世界の治安は前とは比較にならないほど不安定になっていた。
原因は、デビレンの勢力がものすごい勢いで増してきていたから。
力の弱い子供や老人から命を奪われていき、まともな防衛すらままならない状態。
それに伴い、デビレンに対する戦闘技術を教える学校、デビレン狩りという職業が増えてきていたが、それはそれで問題だった。
効率を上げるため、デビレン狩りで優秀な成績をおさめた者は犯罪を犯しても減刑、または無罪にするという法が出来てしまったのだ。
そのせいで人間による犯罪も追い討ちをかけるように増えていき、ついにはデビレンと結託して悪さする人間まで現れる始末。
結果、デビレンや法で裁けない人間たちに被害者遺族が無茶な復讐をしようとして、返り討ちにされるケースも多々あるという。
当然、この時点でも世界のどこかで善人たちが無念の涙を流しながら散っていたかもしれない。
正義感の強いマツはこの事実に心を痛めており、独りで戦い続けていたのだ。
そんな話を聞いては、もう死に場所を求めてなどいられない。
俺は母と兄の復讐のためだけに手に入れた力を使い、世界の悪を一掃すると誓った。
まずはマツと共に犯罪者たちの粛清をメインにしつつ、デビレン狩りを行った。
二人だけではやれることは限られているし、本当に危険で先の見えない毎日が続いた。
だが、戦っていくうちに賛同者は自然と増えていき、勢力は確実に大きくなっていった。
活動開始から四年もたつころには、ついに仲間の数が一万を突破し、一つの組織として成り立つようになった。
そうなった以上は身勝手な行いをする者が現れないように徹底する必要があり、以下のような厳しい決まりを設けた。
一・ターゲットは何の落ち度もない人間の命を奪った人間とデビレンのみ。
二・たとえ巻き添えのような形であっても、ターゲット以外は傷つけてはならない。
三・ターゲットとする者が本当に裁くべき者なのかどうかは、徹底して調べ上げ、誤認殺害は絶対に避けよ。
四・懇願されたとしても、依頼主の手を汚させてはならない。
五・ターゲットを温情で見逃してはいけない。
六・あまりにも悪どいターゲットは最低でも百時間かけて殺害せよ。
七・ターゲット殺害を妨害する第三者が現れた場合、拘束して脅す程度に留めよ。
八・一度引き受けた依頼は、必ず遂行せよ。
九・いかなる状況下であっても、依頼報酬はこちらから請求しないようにせよ。
これらを破った者は絶対に許さず、徹底的に罰を与えた。
おかげで優秀な部下たちが次々と育っていき、俺たちは世界の無法者たちにとって大きな脅威と認識されるようになり、いかれた法を利用した悪質な犯罪は確実に減少していった。
一方でデビレンたちを牽制するにはまだまだ力不足で、撃破数は芳しくない状態。
しばらくは腕を磨きながら依頼をこなしていき、チャンスを待ち続けた。
その結果、勢力はさらに大きくなったものの、国からは本格的な犯罪組織としてマークされ始めてしまった。
いくら悪人限定とはいえ、人間まで殺しているのだから、どの道避けられない道だと覚悟はしていた。
しかし、ある問題が浮上した。
ちょうどこの頃、滞在していた村の中である噂が流れていた。
マツが酒場で働く美しい娘ミスズと相思相愛になっていたというのだ。
できれば一緒になりたいとまで考えていたようだが、私刑の旅に戦闘の心得がない者を同行はさせられない。
それ以前にマツは私刑を生業としている身であり、世間から見れば罪人だ。
別れるにしろ、結ばれるにしろ、光明など見えるはずもなかった。
悩みぬいた末、俺はマツを一部の部下たちと共にデビレン狩り専門の組織として独立させることにした。
マツ個人が国にマークされているわけではないし、まだ間に合う。
そう考え、村を出発する前夜に一対一で話した。
十時間にも及ぶ言い合いの末に殴り合いにまで発展したが、明け方になってようやく正式に独立の話がまとまった。
正直、俺個人としては辛い選択だったが、マツが幸せになるためだと信じ、別れを告げた。
たとえ離れていようとも、目指すものが同じだという事は変わらない。
そう自分に言い聞かせ、腕を磨きながら戦っていき、悪を裁き続けた。
その結果、俺は私刑王と呼ばれるようになり、国からは組織としてだけでなく一個人として本格的に狙われるようになった。
一方のマツは名のあるデビレンたちを次々と討ち取っていき、英雄のような存在になっていった。
家庭での生活もうまくいっていたようで、ミスズとの間に五人の子をもうけていた。
たまに送られてくる手紙には「五人目でやっとできた待望の女の子を溺愛する余り、息子達が拗ねて困っている」などほほえましい内容が書かれていた。
しかし、幸せは長くは続かなかった。
長い遠征の帰り道、マツは消耗していたところをレベルフォーのデビレンに襲撃され、命を落とした。
得体のしれない魔性具の力で悪夢の世界へと落され、苦しみながら息絶えていったという。
もはや、言葉にできなかった。
もっと気にかけていたら、助けられたかもしれない。
いや、それ以前に独立など勧めなければよかったのかもしれない。
あげればキリがなく、ただ後悔と悲しみに打ちひしがれた。
そこからは前以上に戦いに明け暮れる毎日となった。
悪を裁き続け、マツの遺族が住むこの世界を守る事が何よりの弔いになると考えたのだ。
しかし、現在に至るまで悪を裁き続けても、いまだに暗い時代の終わりは見えない。
我に返った俺はマツの墓の前でただ頭を下げた。
「マツ、今でもいかれた法はなくならないし、完全な平和は訪れそうにない。生き残ったのが俺でなく、お前だったら少しは変わっていただろうか? ん?」
何やらにぎやかな声が周りから聞こえてきた。
マツの妻ミスズが子供たちを連れてやってきたのだ。
彼女は急いで立ち去ろうとする俺に丁寧に会釈すると、マツの墓に手を合わせた。
「パパ、みんな大きくなったでしょう。よく見てあげて」
「ミスズさん、あの、いや」
俺は何と言っていいか分からず、下をうつ向いてしまった。
ミスズはそれを気遣うように目線を合わせながら話しかけてきた。
「ブガイさん、必ず来ていると思ってました」
「み、ミスズさん、しばらくだったな」
「ええ、子供たちに会うのははじめてでしたね。上の子なんてあの人にそっくりでしょ?」
「あ、ああ」
「私ね、ブガイさんには本当に感謝してるんですよ」
「え? どういう意味だ?」
「ブガイさんがあの人を独立させてくれなかったら、私と一緒になれなかったし、かわいいこの子たちも生まれなかったんですから」
「今、幸せ......なのか?」
「もちろん。だって、大好きな人の子供たちに囲まれて生きているんですから」
ミスズは満面の笑みを浮かべながら、子供たちと戯れながら帰っていった。
どうやら、気遣いのつもりで強がっているわけではなさそうだ。
俺は心から安堵し、救われた気持ちになった。
そして、同時に寂しさのようなものを感じた。
何かが違っていれば、俺も今頃は妻や子供たちに囲まれていたかもしれない。
殺しとは無縁の平穏で楽しい毎日を送っていたかもしれない。
しかし、私刑屋として名を上げてしまった今となってはそんなものはただの甘い夢。
それを捨てる事でたくさんの人が救われるなら、仕方ない事だ。
だから、俺はこれからもただ悪と戦い続ける。
それがこの世界に真の平和をもたらす唯一の道なのだから。




