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第二十六話「波乱の誘拐事件」

「はぁ。どうしたものかな」


 ブガイを取り逃がした後、ボクはショウさんと共に古小屋に戻り、じっと考えていた。


 ブガイは正義なのか悪なのか、そしてボクのとった行動は間違っていなかったのかと。


 たしかにデビレンだけでなく人間を殺すのは紛れもない犯罪だが、それは普通の人から見ればの話。


 犯罪で家族や友人を失った人たちから見ればブガイは間違いなく救いの神であり、ボクなんかが否定していいものではない。


 なぜなら、ボクは被害者遺族の気持ちというのを芯から理解してはいないから。


 理解するためには、自分も同じ立場になるしかない。


 いくら口で「分かるよ」とか「加害者を憎んでもしょうがない」などと論破しようとしても、「お前に何が分かる」と一蹴されてしまうだろう。


 ボクは次にブガイと対峙した時にどう動けばいいのか分からず、悩み続けた。


「うー、うう」


「おっさん、あんたが何を考えているのかは分かる。だが、そこまで考え込むようなことじゃねぇよ。忘れろ」


「ショウさん、でも!」


「奪われたミミッギュは幸い一つだけ。それにブガイが狙うのは死刑になってもおかしくないほどの生きたゴミみたいな奴だけだ。今日の一件で善人が犠牲になる事はまずねぇよ」


「う......ん。あ、そういえば、ショウさんも過去に何かあったの? ほら、ブガイが言ってたでしょ。恋人がどうとかさ」


「ああ、それか。その話はまたいずれな。とにかく、ブガイとは戦力を潰し合ってまで争う事はない。少しやり方が過激な正義の味方くらいに思っとくんだな」


「そうだね。じゃあ、マンジイはどうお、ん? あれ?」


 ボクはここで目の前の異変に気づいた。


 となりの部屋に座っていたのはマンジイではなく、白髪で痩せたレベルスリーのデビレンだった。


 なぜか薄ら笑いを浮かべており、ショウさんとボクが飛びかかって押さえた後もそれは変わらなかった。


「フ、フフ」


「何を笑っている! マンジイはどこだ!」


「お前ら、ホントに間抜けだよな。ここに戻ってすぐ気づくと思ったら、話に夢中で今まで気づかないんだからよ。笑いこらえるのが大変だったぜ」


「てめぇ、この状態でよくそんな口がきけるな。レベルスリー如きがこんなマネしてただですむと思ってんのか?」


「なーに、やれはしないさ。俺をやればジジイの居場所が分からなくなるからな」


「てめぇの目的は何だ?」


「もう分かってんだろ。お前らはこのアボトルタで暴れすぎたんだよ。放置してないほどにな」


 白髪デビレンは黒火を手に纏わせて暴れ、ボクたちをふり払って逃走した。


 その後は激走しながらの攻防が続き、大きな木のある草原へ突入した。


 だが、ここで白髪デビレンと入れ替わるようにして坊主頭のレベルフォーと雑兵たちが前に立ちはだかった。


「そろそろ来る頃だろうと思ってたぜ」


「てめぇは......たしか前に見たリストに載ってたな。レベルフォーのドリゴドール。魔性具は剣型のゴルブタだったっけか?」


「ちっ、ネタバレ済か。自己紹介くらいさせてくれよ」


「マンジイをさらったのはキミか?」


「何の話だ? 俺はただここで待っていればいい獲物がかかると聞いて待っていたただけだ」


 ドリゴドールはこのときすでに剣型の魔性具ゴルブダを出していた。


 一番気になるのは、それにどんな能力が秘められているかということだ。


 しかし、今はゆっくりと様子見していられるような状況じゃない。


 ボクは小刀ザクメルを持ってドリゴドールに向かっていった。


「ショウさん、雑兵たちをたのむよ」


「フフ、威勢のいいデブだな。来い」


「よし、まずは」


 ボクは真っ先にゴルブダを狙い、攻撃した。


 もちろん、ドリゴドールも応戦し、しばらく武器同士の押し合いになった。


「フフ、効いてきたな」


「あ? うわっ!」


 ザクメルの一部は石のようなものに変化していた。


 おそらく、ゴルブダの有している能力によるものだろう。


 ボクは一旦距離をとり、すぐに小銃イアチャをかまえた。


「石化とは厄介だ。はぁ、はぁ、ここは遠距離戦しかない」


「フフ、甘いな」

挿絵(By みてみん)

 ドリゴドールはゴルブダを前方に向け、刃先を伸びて攻撃してきた。


 さすがにこれでは反応が間に合わず、ボクは右腕を切りつけられてしまった。


「ぐ、うそだろ。伸びるのか、その剣」


「これだけ離れていれば大丈夫、近づかなければこわくない。そんな油断が死を招くんだぜ」


「う、うう」


 切りつけられた右腕はすでに石化していた。


 幸いにもこの石化は周りに広がっていくタイプのものではない上、一度に石化できる範囲は小さく、右腕がこのままでも戦い続けるのに大きな支障はない。


 だが、動くために必要な足や考えるために必要な頭が石化してしまえば、事実上の負けといっていい。


 ここはゴルブダの体積が増えて狙いが定めやすくなった事をチャンスと考え、短期決着を狙うべきだろう。


 ボクはザクメルを持って高速移動しながらゴルブダが伸びたときを狙い、イアチャの弾を浴びせ凍結させた。


 そして、すぐに重い蹴りとパンチを連続で浴びせて粉砕した。


「や、やった」


「あ、あ、俺のゴルブダがぁ、なーんてな」


 ドリゴドールが手を軽くひねると、壊れたゴルブダの破片は自然に集まり始め、何事もなかったかのように再生してしまった。


 予想外だったが、考えてみれば不思議はないといえた。


 魔性具というのは、武器といっても持ち主であるデビレンの分身のようなものであり、それにより完全不死である持ち主同様に破壊されてもすぐに再生できるというわけなのだろう。


 ボクは考察の甘さを悔いながらも、戦闘を続行した。


 すでにゴルブダの追撃がすぐそこまで迫っていたのだ。


 やはり、動く事と考える事を封じるために頭部や足をおもに狙っているのが分かる。


 このまま必死にザクメルを使ってガードをまぜながら避け続けるも、やはり限界がある。


 ザクメル自体はいくら石化しようと性能そのものが失われるわけではないが、やはりこれ一本ではいずれ力負けしてしまうだろう。


 もうどうしていいか分からなかった。


「くそ、心を乱してはだめだ。冷静に対処法を考えるんだ」


「へへ、まぁそういやがるなよ。石化した後はアジトのすみっこにでもディスプレイしてやるからよ」


「うう」


 ボクはイアチャの冷気で全身を包んで防御しようとするが、ゴルブダの風圧だけで軽く突破されてしまった。


 前回は軽くて小さい矢が相手だから防げたが、さすがにあんなでかい剣は無理なようだ。


 次の手を考える間もなくゴルブダの追撃が迫るが、間一髪のところで飛んできた銃弾がそれを阻んだ。


 ショウさんが援護に駆け付けたのだ。


「遅くなったな」


「ちっ、使えない雑兵どもめ」


「おっさん、こっからは俺もやるぞ。おっさん?」


「う......ん」


 ボクはさっきゴルブダに当たって落ちた銃弾を見て、石化していない事に気づいた。


 そして、よく見るとザクメルの方もあれだけゴルブダと押し合ったというのに、まだ完全に石化していない部位がある事に気づいた。


 石化した部分と石化していない部分の違い。


 それを今までの戦いを思い返しながら、考えた。


「今まで石化した箇所は、ん? そうか。そうなってたのか」


「何を一人で納得してるんだ。今更何をしようとおそい」


「はっ!」


 ボクはその場から動こうとせず、目の前に迫っていたゴルブダの刃先を両手でガッとつかんだ。


 そして、力を込めてドリゴドールごとぐるぐるふりまわし、地面に叩きつけた。


「どうやら、読みが当たったようだ」


「あれだけゴルブダをガッチリつかんでんのに石化してねぇ。おっさん、どういう事だ?」


「ショウさんのおかげだよ」


 ボクはついさっき、ゴルブダに当たったのに石化しなかった銃の弾を見て、ただゴルブダに触れただけでは石化しないということに気づいた。


 石化するのはゴルブダが切ったと判定するものだけであり、ゴルブダにこちらから攻撃したり、つかんだり、軽く触れた程度では石化にはいたらない。


 押し合ったザクメルの方にも所々石化していない部位があるのも、おそらくはそのためだ。


 ドリゴドールはどうやらこの事実を今まで知らなかったらしく、激しく動揺していた。


「くそ、この状態でまさかそんな事を見抜くとは。しかしなんてやつだ。一歩間違えば両手が石化したかもしれないのに」


「さてと、仕組みが分かればこっちのものだ。キミを倒すまでこの手ははなさないぞ」


 ボクは左手でゴルブダをつかんだまま、右手でイアチャの弾を連射した。


 片手で戦わなければならなかったが、それはゴルブダを持つドリゴドールも同じ。


 魔性の火を飛ばしながら、イアチャの弾を撃ち落していくしかなかった。


「くそ、いいかげん手をはなせ」


「その様子じゃ、魔性具を遠隔操作するなんて事はできないみたいだ。どうやら、勝機が見えてきたようだね」


「こいつらはミミッギュを持っているはず。ぐぐ、このままじゃまずい」


 ドリゴドールは全身に魔性の火をまとい前進し、ボクから力ずくでゴルブダを奪った後で逃走した。


 本当なら追いかけなくてはいけないところだが、ボクもショウさんも時間と体力を使いすぎてしまった。


 この後に待ち受けるマンジイ救出のため、ここで戦い続けることはできなかった。

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