第二十五話「私刑王」
「そっか。こんな事が起きてたんだね」
アホロトとの一件の後、近くの古小屋に移動したボクはショウさんから借りた端末でデビレン絡みの情報を調べていた。
それによると、どうやらアホロト惨殺のような事件が最近よく起こっているらしい。
おもにレベルツーの雑兵デビレンが次々と殺され、死体が人前にさらされる事件が各地で続出。
はじめはデビレン側に恨みのある民間人の仕業とも思われたが、ついにはレベルスリーのデビレンが犠牲になる事態にまで発展してしまった。
レベルツーならまだしも、レベルスリークラスとなると、民間人がどうこうできる相手じゃない。
この事からデビレン狩りとは別の目的で何者かが計画的にデビレンたちを殺害していっていると推測された。
ただデビレンを倒していくだけならボクたちもやっている事だが、アホロトの時のように力を失った人間まで手にかけるのはさすがに見過ごせない。
ボクたちは十分に警戒しながら、行動することになった。
だが、はやくも危機的状況が迫りつつあった。
黒い煙が少しずつ古小屋内に入ってきて、視界を悪くしていったのだ。
ボクはすぐに奥にいるショウさんとマンジイに知らせようとするも、後ろから飛びかかってきた何者かに布袋に入れられ、連れ去られた。
そして、解放されたときはどこかの薄暗い建物の中にいて、黒い包帯のようなものを巻いた男の前に引き出された。
「キミは?」
「ワシはブガイ。名前くらいは聞いたことあるじゃろ?」
「ブ、ガイ? 残虐私刑王の異名を持ち、世界中の犯罪者たちを次々と処刑しているグループのリーダーの名前だ。え? じゃあ、あなたが?」
「そうじゃ。目的は言うまでもないな。金や戦績によって罪が免除されるような腐った世の中を正すため、生きたゴミ共を消す。ただそれだけじゃ」
「生きたゴミ? デビレンもですか?」
「最初のうちは戦闘能力の差ゆえにうかつに手が出せんかった。しかし、勢力を拡大した今なら渡り合う事が可能じゃ。ある問題を除いてな」
「ある問題?」
「ミミッギュじゃ。あれはワシらの力でも作り出せはせんからな。じゃからワシらを信じて託してほしい。さぁ! 命をかけてまでワシらの邪魔をするか?」
たしかにボク個人の本音としては、悪党を粛正する行為を命がけで邪魔をするのは何だか気が引ける気がするし、ブガイのおかげでデビレンたちの数が減っているのも分かる。
この考え方はボクだけでなく、街の人たちも同じ。
ブガイたちを支持し、「よくやった。デビレン共、ざまぁみろ」と賞賛する者もいるようだ。
特に犯罪により家族や友人を失った人たちの中には彼の事を慕う者が多いらしく、今回の件でその数はさらに増える事になるだろう。
しかし、ブガイの要求をのんでしまえば、それがどういう結果になるか目に見えている。
情報通りだとするなら、ターゲットになった者は長時間をかけてひどい拷問を受け、挙句の果てには「もういっそ殺してくれ」とさけぶほど苦しみながら殺されていくだろう。
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噂では凶行の一部は意図的に配信され、まるで見せしめのように世界中の人の目にとまるらしい。
ボクは以前にそのうちの一つと思われるものを偶然見ていた。
内容は六十くらいの老人とまだあどけなさが残る少年が縛られた上になんと四十九時間もかけて殺されていくものだった。
その映像の最後には「これはまだ序の口だ」というブガイのメッセージが込められており、もはや狂気すら感じられた。
「あのときの事は一生忘れることができません。二人が犯罪者だという事を忘れてつい同情しました。いくら何でもあんな人権を無視した拷問なんて許せないです」
「フン。その映像に出ていた年寄りの方はいい年をして若い娘をストーカーした挙句に両親もろとも殺し、ガキの方は親に叱られてイライラしていたという理由で飲酒運転し、幼子二人をひき殺したクズじゃ。これでも人権なんてりっぱなものがあるといえるのか?」
「でも、何も殺さなくても、別の方法で罪を償わせれば」
「甘い事を言うな! そんな事ばかり言っているから世の中に悪というバイキンが繁殖するんじゃ! いいか、悪は根絶やしにするしかないんじゃ!」
「ひ、ひいいいいい」
「貴様は考えたことがあるのか! 何の落ち度もないのに殺された者の無念が! 残された家族の怒りと悲しみが! もう会えなくなるという事がどれほどの事なのかわかっているのかぁ!」
ブガイはついに強硬手段に出た。
ボクの背後に回り込み頭を押さえ、ロープでぐるぐる巻きにした後、ミミッギュを奪いとった。
だが、直後に駆け付けたショウさんが攻撃してきたため、体をのけぞらせた後に態勢を立て直した。
「フー。ん? 貴様は最近このあたりでデビレンを狩っている若造じゃな。たしか、裏側の大陸からやってきた......」
「フン。よくご存じで」
「貴様も邪魔をするのか?」
「どうかな。俺は正直、私刑なんてものに賛同するわけじゃないが、別に邪魔をするつもりもない。悪人やデビレンが何人殺されようと知った事じゃないってのが本音だな」
「じゃったら、それでいいじゃないか。ワシがやろうとしてる事はお前らにとっても得なはずじゃ」
「そうだな。だが、少なくともミミッギュは人殺しの補助具じゃねぇんだ。分かるだろ?」
「分からん!」
ブガイはさっさとその場を立ち去ろうとするが、ショウさんはくらいついてきた。
お互い不本意な形ではあったようだが、戦いは避けられそうになかった。
「バカが、こんな事をしても、互いに何の利益にもならないのが分からんのか!」
「だったら、少しは他人の意見を尊重しろよ。我を通すだけじゃ納得できないだろ!」
「貴様」
ブガイは両手に装着したカギ爪とガトリング銃を装着した。
どちらも派手さはないものの、扱いやすく、暗殺することに特化しているようだ。
少なくとも、ブガイはショウさんを殺そうというような様子ではなかったが、話を聞き入れてくれないとわかったのか、目の色を変えて猛攻を開始した。
「いいかげんにしろ、貴様! もうどうなっても知らんぞ!」
「それは俺が言うことだ! さっさとミミッギュを返せ!」
「本当にそれが今お前がやるべき事なのか? 遠い土地に残してきた恋人に申し訳ないと思わないのか?」
「ぐ! てめぇ、どこからそんな話を!」
「ワシの情報網を甘くみらん事じゃ。知っているぞ。お前は許していないはずじゃ。恋人を傷つけた奴らも守れなかった自分の事も」
「う、うう」
ショウさんは急に頭を抱えて動かなくなってしまった。
ブガイはそのスキをつくように後退し、退却をはじめた。
「フン」
「ま、待って。これからもずっと人殺しを続けるつもりなんですか? あんな見せしめのような事を」
「デビレンを含むすべての悪がこの世から消えるまでな。お前もワシの考えが分かるときはくるはずじゃ。自分が愚かだったと気づくはずじゃ。大切な者を殺された絶望を味わえばな」
「大切な仲間を? え?」
ボクはブガイをこれ以上追いかける事ができなかった。
その後は自問自答のように考えはじめた。
もし、自分の仲間が殺されたら、復讐に走らないと言い切れるだろうか?
さっきと同じような事をブガイに向って言えるだろうか?
答えは見つかりそうもなかった。




