第二十四話「人質はどこ?」
「うう、いい。うう」
ボドモルでの戦いを終えたボクは、マンジイとスズに支えられてスバゲスタン大学に運ばれ、治療を受けていた。
無理をしたせいで 体の一部が凍傷になりかけており、まともに動かせない。
ドクターからは完治するには一カ月ほどかかり、傷痕は残るだろうと告げられた。
しかし、それ以上にショックだったのは一緒に運ばれたマジェリーの件だった。
スズによると、彼女の肉体はアマに施された改造で複雑に作り変えられており、この世界の技術では生身の人間に戻すことは不可能らしい。
つまり、今の段階では改造人間として生きていくしかないという事だ。
ボクは何と言って詫びていいのか、分からなかった。
「ううう」
「ニシさんは悪くないわ。これは彼女が改造を施されてしまった時点で避けられなかったこと。あなたはむしろいい事をしたのよ。彼女をデビレンの呪縛から解放したんだから」
「そう、かな?」
「そうよ。あのままデビレンとして悪事を重ねてしまう方がよっぽどかわいそうよ。マンジイもそう思うでしょ?」
「その通りじゃ。ところで、あの子はどこの子なんじゃ? 生まれた故郷や親は?」
「今のところ、実年齢が十代後半というくらいしかわかってないわ。調べによると、アマは無作為に人をさらってたようだし」
「かわいそうだよね。マジェリーも他の実験体にされた人たちも」
「あたしね、あの子を旅に連れて行こうかと思うの。大学内には少し危ない考えの研究者たちがいるし、置いておけば狙われると思うの。それじゃあ、また辛い思いをさせてしまうわ」
スズの言う事はもっともだ。
なので、まずはマジェリーの修復を待ち、それから外へ連れ出すという事で話はまとまった。
しかし、ただ時間がたつのを待っていては金欠という地獄に繋がるのは目に見えているため、ボクとマンジイは一足早く旅を再開する事になった。
「それじゃあ、待っているから」
「ええ。マジェリーと一緒に必ず追いつくわ」
「さてと、ひさしぶりの二人旅じゃの。どうするかの」
「依頼を受けるっていうのはどうです? 雑兵をちびちび倒していくよりは効率的だと思いますよ」
ボクはマンジイと共に大学内の掲示板コーナーに移動し、張り付けてある依頼に目を通していった。
そして選んだのは、アボトルタ西にあるソゲン町からのデビレン討伐の依頼。
まずは依頼主に連絡をとり、指定されたソゲン町の空き地に向かった。
着いたときにはすでに屈強そうな人たちが多数集まっており、その中には前に行動を共にしていたショウさんもいた。
「ん? よう、おっさんも依頼を受けたのか」
「うん、ひさしぶり」
「何じゃ、ニシくんの知り合いかの?」
「ああ。よろしくな、じいさん」
「しかし、ずいぶん人が集まっているね。そんなに強いデビレンが相手なのかな?」
「最近、卑劣の素を飲んで力を手に入れた野郎だとよ。俺も話に聞いただけだがな」
ショウさんによると、そのデビレンはアホロトという分厚い唇と細目が特徴のレベルフォーで、けっこう前に組織を抜け、単独で行動しているらしい。
アホロトが現在行っているのは健康な人間を捕え、臓器を奪う事。
これは彼がまだ人間だった頃からやっていることであり、それにはある理由があるのだという。
彼にはバカでろくでなしの息子がいたのだが、ある日酒を大量に飲んで車を運転した挙句に民家に突っ込み、死亡。
どうしてもそれを受け入れる事ができなかったアホロトはできる限りの事を考えた末、息子の亡骸を冷凍保存し、未来の医療技術で蘇生させようと考えたというのだ。
だが、そのためには莫大な費用がかかるため、彼は闇に身を落とし、人間を拉致して臓器を奪って闇のルートで売りさばく悪行を続けているらしい。
「要するに、デビレンになったのも、そういった行為をスムーズに行えるようにするためであり、組織の人間デビレン化計画に興味などはないんだろうな」
「そうか。息子さんのためにの」
「おいおい、間違っても同情なんてするなよ。奴は自分たちの幸せのために他人を不幸にしてんだ。とても許されることじゃない」
「それで、そのアホロトの能力は分かっているの?」
「正直、冷や汗もんだな。俺らの前に集められた連中は全滅したそうだ」
ショウさんは依頼主に渡されていたアホロトの資料を見せてくれた。
それには、アホロトが持っているのはザボテンという金棒型の魔性具で、敵を殴りつけると同時に体内にトゲを埋め込み、使用者自身が受けたダメージを肩代わりさせる能力だと書かれていた。
つまり、アホロトが攻撃を受けても、そのダメージはすべてトゲを埋め込まれた者が負う事となり、アホロト自身はまったくの無傷というわけだ。
この能力は、そもそも不死であるレベルフォーのアホロトにはあまり必要でないものだったのだが、ミミッギュという攻略法がある事を考えれば話は別。
手傷を負う事がなければ、スキをつかれてミミッギュをうたれる心配もないし、まさに不死の能力を補完する貴重な能力といえた。
ちなみにトゲを埋め込まれた人間が死ねば能力は一旦解除されるが、このトゲは複数の人間に埋め込み、順番に効力を及ぼす事ができるだそうだ。
例えば、トゲを五人の人間に埋め込んだとして、一番最初に埋め込まれた人間が死ぬと、次は二番目にトゲを埋め込まれた人間に効果が及ぶという事になる。
もっとも、それ以前に敵側に前もって能力を話してさえおけば、トゲを埋め込まれた人たちの事を考えてうかつに攻撃できないだろうという事も計算済みだったのだろう。
結果、前に集められた討伐隊は反撃する事も一切できずにアホロトの容赦ない攻撃を受け、倒されてしまったというわけだ。
「こんだけ詳細な情報がそろっているのも納得だろ。奴は戦いの間、わざと防御も回避もせずに余裕をくずさず、自分の魔性具の能力を話しはじめたそうだぜ」
「ダメージを他人にうつすか。たしかにそうとう厄介な能力だね」
「情報じゃ奴はすでに何人かの人間にトゲを埋め込んで監禁している上、新たに若い男女を連れていたそうだ。臓器を奪うつもりか、またトゲを埋め込むつもりは知らねぇが」
「うう、どうするべきなんだろ」
もはや圧倒的に不利な状況になることは分かっていたが、アホロトをこのまま放置するわけにもいかない。
すぐにアホロト討伐のための作戦が立てられる事となった。
まず、集められた人たちのうちボクとショウさんを含む二十人が手分けしてアホロトを見つけ出し、連れていかれたという若い男女を救出する。
だが、それ自体が成功したとしても、また別の誰かが捕まるだけなので、アホロトを逃がすわけにはいかない。
そこで、できるだけ長くボクらが足止めし、その間にマンジイを含む残り五人はトゲを埋め込まれた人質たちを見つけ出す事になった。
とはいえ、人質たちを見つけ出すための手がかりは前の戦いで討伐隊の生き残りがなんとか手に入れたアホロトの魔性具ザボテンのトゲが一つだけ。
そして、一秒でもはやく答えを見つけなければ、足止めしているボクたちに負担がかかるというプレッシャーもそうとうなもののはずだ。
だが、マンジイは動揺を一切見せず、笑顔でボクたちを送り出した。
少しでも不安を与えてはいけないという精一杯の配慮だったのだろう。
「どうか安心して戦いに専念してくれ。無理して前の傷を悪化させんようにの」
「大丈夫ですよ、マンジイ。まかせておいてください」
「さてと、急ごう。アホロトは仲間をつけずに行動しているらしい。殺気をたどれば他のデビレンとの区別は容易だ」
「そういえば、他のデビレンたちも離反者であるアホロトを追っておるはずでしょ。最悪の場合三つ巴の戦いになるかもね」
「そうなった場合、奴らはトゲを埋め込まれた人質の事なんておかまいなしにアホロトを攻撃するだろうな」
「おそらくね。今はそうならない事を祈るしかない」
この不安はもうすでに的中しており、ボクらが駆け付けたとき、アホロトは追ってきたデビレンたちと戦闘をはじめていた。
取り囲まれ銃を向けられていたが、やはり余裕ぶってガードする素ぶりすら見せなかった。
「やれやれ、チィトもバカだな。こんな人間に毛が生えたような雑魚さんどもに俺がやられるわけないのに。俺は不死身のレベルフォー。それ以前にダメージすら受けないってのに」
挑発交じりに座り込むアホロト向けて一斉射撃がはじまろうとした寸前、何とかショウさんが割って入り、追手のデビレンたちを蹴散らした。
「はぁ、はぁ。間に、あったようだね」
「なんだ、不発か。まぁ、どっちでもよかったが」
「キミがアホロト?」
「ああ。そうだ、さらったアベックなら人質たちと同じところに監禁したところだ。もちろん、場所は教えないがな」
「く、今に見てろよ」
ボクは怒りを必死におさえつつ、戦闘態勢に入った。
とにかく、今回はアホロトに手傷を負わせることなく、足止めに専念しなければいけない。
アホロトを倒せてもトゲを埋め込まれた人質たちに死なれでもしたら、意味はないのだ。
こういう場合は何らかの方法で拘束するのが一番だが、レベルフォーの力はロープはおろか、手錠すら破壊できる。
となると、致命傷にならないような箇所を攻撃しながら時間をかせぐしかないだろう。
「口で言うほど簡単じゃない。強すぎず、弱すぎずだね」
「ああ。もし、トゲを埋め込まれた人質が子供や病人だった場合、流れたダメージが命にかかわることもありうるからな」
「フフ、うかつに攻撃できずにいるな。そりゃそうだ。俺を攻撃するということは善良な一般市民を攻撃するのと同じことだからな」
「行くよ、ショウさん」
ボクとショウさんはいっせいに走り出し、戦闘がはじまった。
作戦としては、ショウさんがアホロトに接近戦を挑み、ボクが遠距離から小銃イアチャで攻撃するというものだ。
しかし、弾をそのままアホロトに当てるわけにはいかないので、足場などを狙撃してうまく攻撃を妨害する作戦だ。
なんといっても、アホロトは致命傷を受けるはずがないという余裕なのか、防御も回避もろくに使わずひたすら攻撃に集中している。
なので、少しでもアホロトの集中力や注意力を散漫にする戦法をとった。
「うう」
「まったくいらない知恵を使いやがって。こんなことしたって、いずれ体力が尽きるだけなのに」
「それはキミが決める事じゃない」
ボクは諦めずに攻撃を続けるが、しだいにアホロトは相手にしなくなっていった。
いくらやったところで、足場ばかりを狙って直接当てるつもりはないと分かってしまえば、もう気にすることもないからだろう。
この状況についあせってしまって混乱し始めたボクは、あやまってショウさんの足元に弾を浴びせてしまった。
「あ! ごめん、ショウさん」
「大丈夫、かすっただけだ」
「ひでぇデブだな。うまくいかないからって仲間にやつあたりをはじめたか。ん? 見ろよ」
なんとタイミングの悪い事か、追手のデビレンたちが呼んだと思われる増援が来てしまった。
今度は人数も多いうえにレベルスリーも何人かまざっており、陣形もちゃんととれていた。
ここでアホロトはいきなりショウさんと戦うのをやめ、増援のデビレンたちの前に出て挑発をはじめた。
「撃てるもんなら撃ってみろ。ハハハ!」
「撃て!」
増援たちはいっせいにアホロトめがけて発砲し、それをかばったショウさんは背中に弾をくらってしまった。
「ぐ、うう」
「やはりかばったか。そりゃそうだ。俺を傷つけるわけにはいかないもんなぁ」
「てめぇ、わざとやりやがったな」
「おーい、おバカさんたち、もっと撃っていいよ。どうせダメージを受けるのは俺じゃなくてどっかのおバカさんだから。はっはっは!」
「く、いいかげんにしろ!」
「おっさん、安い挑発にのるな。それより、周りのデビレンたちを止めてくれ! たのむ」
「ショウさん」
「アホロトの卑劣さに怒っているのは俺も同じだ。だが、今は足止めに専念するしかねぇだろ」
「足止め? まだそんな事言ってんのか、お前はよ!」
アホロトは、負傷したうえに反撃できないショウさんを一方的にいたぶり始めた。
ボクは他のデビレンたちを倒していきすぐに止めに入るも、やはり二の舞。
同じようにしばらく攻撃を受け続け、耐え抜くしかなかった。
「くそ、こんなのないよ。こんな卑怯な奴に一撃もくらわせる事ができないなんて」
「フフ。さてと、そろそろお前らの臓器をいただこうかな。いい値がつくといいがな」
アホロトはボクを殴り伏せた後、動けないショウさんの方に狙いを変えた。
だが、直後に飛んできた槍がアホロトの右足をかすめた。
続けてマンジイが別れて行動していた仲間たちを引き連れてボクたちの前に立った。
「ニシくん、ショウくん、待たせてすまんかったの。もう大丈夫じゃ」
「う、うう。クソジジイが」
「槍がかすめた方の足から出血してんな。魔性具の能力が解除されたってのか?」
「うむ、人質たちに埋め込まれていたトゲはすでに摘出した。もう遠慮はいらんぞ」
「貴様、どうして人質たちの居場所が分かった?」
「お前さんが前の戦いで残したトゲじゃ。これには一つ一つに伝達能力があっての、トゲを埋め込まれた者同士は自分が今見ているものを頭の中で共有して見る事が出来るんじゃ」
「マンジイ、それじゃあ、トゲを自分の体に?」
「うむ。それにより頭の中に流れてきたのは人質たちが見ているごく一部じゃったが、発見するには十分な情報じゃったよ。さてと」
マンジイは懐からミミッギュを取り出すと、向かってきたアホロトを受け流して投げ飛ばした。
続けてボクとショウさんも追撃を加え、逃げられないように威嚇した。
「もうやめようよ。これ以上罪を重ねてはいけない」
「ば、バカが。今更能力を解いてもおそいんだよ。虫の息のくせによ。全員まとめて臓器を奪い取ってやるよ」
アホロトは魔性の火を身にまとって前進するも、背後からマンジイに槍で突き刺された。
そして振り向くと同時にショウさんに殴られ、ついに倒れた。
「ぐ、ががが」
「虫の息だなんて勝手に決めてんじゃねぇぞ、能力にたよってばかりのチキン野郎が。次の一撃で終わらせてやる」
「く、いちいち抵抗しやがって。おとなしく臓器を差し出せばいいんだよ、ゴミ共!」
「下衆下郎!」
「うぉぉぉぉぉ!」
アホロトはショウさんのパンチとマンジイの槍を腹部に同時に受け、敗北。
その後、すぐにミミッギュをうたれて人間の姿に戻った。
しかし、完全に再生を終える前にデビレンの力を失ってしまったため、皮肉なことに臓器の一部を損傷してしまうこととなった。
「ぐ、ぐぐ。俺をこんなにしやがって。ちくしょう。なんでこんな仕打ちを受けるんだ。俺はただ息子を救いたいだけだったのに」
「てめぇに臓器をとられた者の中には衰弱して死んだ者もいるんだぞ。誰かを救うために他の誰かを犠牲にするなんてのは許されないんだよ」
「うう」
「しかし、てめぇの能力にあんな抜け穴があったとはな。俺らに魔性具を使わなかったのはそういうわけだったんだな」
「普通は気づくはずもない。マンジイ、お手柄でしたね」
「いや、ワシの手柄ではないんじゃ。捜索が難航しているワシらに助言してくれた者がおっての。ん? おかしいの。一緒にここに来たはずじゃったが」
マンジイが周りを見渡し始めた瞬間、アホロトの悲鳴が辺りに響き渡った。
彼は仮面をかぶったあやしい男に背負われ、連れ去られようとしていた。
ボクは阻止しようとするも、ケガのせいでうまく動けずに殴り飛ばされてしまった。
「う、ぐ」
「あ、あの仮面の男じゃ。彼がワシらに助言をくれたんじゃ」
「それが何でこんなマネをするんだ。ま、捕まえて聞くしかねぇか」
ショウさんは仮面の男を追い、ボクとマンジイもすぐに続いた。
しかし、進んだ先で見たのは全身に銃弾を無数に浴びて息絶えているアホロトの姿だった。
その横には、赤い文字で死者を愚弄するような文が長々と書かれており、無残としかいいようがなかった。
ボクは少し迷いながらも上着をアホロトにかぶせ、深く合掌した。




