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第二十一話「不気味な声に導かれ」

「へぇ、ここがアホトルタ」


「アボトルタよ、ニシさん」


「ああ、そうそう。はじめてくる土地だ。気合いを入れないとね」


 アイーゲとの戦いから一週間後、傷の回復を終えたボクはマンジイ、スズと共にアボトルタに入っていた。


 アボトルタは卑劣の素の取引が多く行われている地区の一つで、取引護衛という形でレベルフォーのデビレンが他の地区以上に配置されていると聞く。


 ボクはアイーゲ戦での反省を肝に銘じ、自制しつつ足を進めた。


「うん。絶対に同じ轍は踏まない」


「たのもしいの。こりゃ、ワシも負けてられん」


「うーん」


「スズちゃん、どうした? 浮かない顔をしとるようじゃが」


「今、聞き覚えのないような声が聞こえた気がしたけど。うーん、気のせいよね。あ、街が見えてきたわよ」


「おお、それではさ、ぶ!」


 急にマンジイは何かにぶつかったようにバタリと倒れた。


 続けてボクがそこに近寄ると、何やら透明な壁のようなものがあるのを確認できた。


「なんだ、これ。固いね。バリアか何かか」


「よし、それなら!」


 マンジイはバリアめがけてパンチをはなつが、ひび一つ入らなかった。

 

 それでもあきらめずに何度も殴り続けるが、逆に拳に傷を負ってしまう。


「う、ぐ」


「マンジイ、これは素手じゃ無理があるわ。武器を使いましょ」


 スズはヘルジャムを装備するが、直後にバリアは消失した。


 敵が解除したのか持続時間があったのかは定かではないが、調査の必要がある。


 ボクたちは進行を止め、情報を整理する事にした。


「バリアを作る能力か。スズ、心当たりはある?」


「リストに載っていたわ。レベルフォーのヴァリザ。外見はドレッドヘアーに出っ歯。バリアを作り出す能力を持つ魔性具バッサシを武器に持つ」


「やはり、デビレンの仕業だったのか。しかし、なぜこんなところにバリアを張る必要があったんだろうね?」


「ふむ、南の方角で卑劣の素の取引が行われておる。そこへ邪魔者を入らせないためなんじゃな」


「え? マンジイ、あなた何でそんな事が分かるの?」


「いや、そこから声が聞こえてきて」


 マンジイは周りを見渡すが、ボクたち以外の誰かがいる気配はない。


 だが、ただの幻聴だったというわけではないようで、今度は数メートル先から謎の声が聞こえ始めた。


「はやく行った方がいいぜ。もう一般人が危険にさらされているぞ」


「誰なんじゃ、お前さんは! 姿を見せんか!」


「マンジイ、今はとにかく南の方角に向かうしかないわ。かすがだけど卑劣の素のにおいはするし、うそじゃないみたい」


「その通りだ。急ごう」


 ボクたちは戦闘準備を整え、途中にあったバリアを破壊しながら、卑劣の素のにおいをたよりに進んだ。


 そして、着いた先にいたのは、リストに載っていたヴァリザと雑兵、取引相手と思われる人間。


 後ろには、たまたま現場を見てしまったと思われる人間が小型のバリアの中に閉じ込められていた。


「く、るしい。息が、あ、だ、出してくれ」


「あたしはヴァリザの相手をするわ。ニシさんは雑兵たち、マンジイは後ろの人の救助と取引相手の確保をお願い」


「フン。てめぇも窒息死するか?」


 ヴァリザはバッサシを向って来るスズに向けてかざし、バリアで閉じ込めようとするが、なかなかうまく狙えない。


 そのまま刀で斬られそうになるが、すでにすでにバリアで身を守っていたため、無傷だった。


「フン、まぁ、近づかれたところで防いでしまえば同じか」


「やるじゃない」


「よし、だったら!」


 ボクは雑兵たちを倒した後、棍棒ガドッグを持ってバリアを攻撃した。


 しかし、二回の連打でようやくひびが入る程度であり、破壊には至らなかった。


 そのひびが入ったところでさえ、ヴァリザがバッサシをあてるとすぐに修復され、ふりだしに戻ってしまった。


「フフ、軽い攻撃だな」


「くっ、固いな。来る途中にあったバリアは軽く壊せたのに」


「ヴァリザ本人を覆っているバリアは特別製のようね。そして、一撃で破壊しなければ、さっきのように即座に修復されてしまう」


「その通り。お前らじゃ俺にダメージは与えられねぇよ」


「くそ、まだだ!」


 ボクは必死に棍棒ガドッグをふるうが、やはりバッサシの修復の方が速い。


 いくらフルパワーで攻撃しても、複数発叩かなければ破壊しきることはできないようだ。


「この、壊れろ、壊れろ!」


「ニシさん、一旦ひくわよ」


 スズはボクの手を引き、一時戦線離脱した。


 ここまでの戦いをふりかえり、スズはヴァリザのバリアについて特徴をとらえていた。


 おそらく、彼のバリアは大きさだけでなく、形状も自在に変える事が出来る。

挿絵(By みてみん)

 なので、ボクが棍棒ガドッグをふるいまくり、バテたところで中の人間がまともに動けなくなるような形状のバリアを作り出して閉じ込め、動きを完全に封じてしまうかもしれない。


「なるほど。そうなると、棍棒ガドッグをまともにふるう事もできなくなるね」


「あたしがヘルジャムの炎を解放するわ。そして、棍棒ガドッグと同時攻撃すればあるいはいけるかもしれない」


「今は二対一なんだ。わざわざ大きく消耗するようなまねはするべきじゃない」


「そこか、お前ら」


 ヴァリザが魔性の火をとばしてきた。


 何とも用心深い事で、バリアを張ったまま攻撃していた。


「作戦会議ならここに来る前にやっておけよ」


「ったく、向うからの攻撃は通るなんて。なんて厄介なバリアなの」


「いや、違う」


 ボクはこのとき、わずかだがバリアの一部に小さな穴が開いているのを見つけた。


 つまり、ヴァリザ側の攻撃が一方的に通っているわけではなく、この小さな穴から魔性の火やバッサシをかざして攻撃を放っているのだと思われる。


 だが、この小さな穴はさっきボクが棍棒ガドッグでバリアを破ろうとしていたときには見当たらなかった。


 これは近距離戦ではこの穴が見つかりやすいうえ、見つかったら困る理由があるからだろう。


「あの穴の周辺に重い一撃をくらわせればバリアが一撃で砕ける。そういうことか」


「うん。でも、近距離戦じゃあの穴は開かないみたいだし、どうするの?」


「んー。待てよ、いいこと思いついた」


 そうやって話しているうちに、またもヴァリザの追手がせまる。


 今度は動きの遅いボクの方をバリア内に閉じ込めようと、バッサシで攻撃してきた。


 反応がわずかに遅れたボクは右手をバリアで覆われ、やがて縮小が始まった。


「生成したバリアのサイズを縮めていき、中の者を押し潰す。まさか、ここまでのことができるとは」


 なんとか走りながら壁に右手を何度も叩き付けバリアを砕くも、今度はその破片で怪我をし、散々だった。


「くぅ」


「はっはっは、どちらに転んでもただではすまない。さぁ、もうあきらめるんだ」


「誰があきらめるか! スズ。これからボクが言うとおりにやって!」


 ボクとスズはしばらく話しながら走り続けた後、ようやく立ち止まった。


「今だ!」


「ごめん!」


 スズは、棍棒ガドッグを持ったボクをヴァリザめがけておもいっきり蹴り飛ばした。


 その勢いを利用し、ボクはそのまま飛んでいき、ヴァリザを覆うバリアの小さな穴を棍棒ガドッグで攻撃した。


「はあああああ!」


 バリアは少しずつひび割れていき、音をたてて半壊し、ボクはその破片で負傷するも、ひるまず戦闘を続けた。


 ヴァリザは明らかに動揺している様子で、動きが乱れ始めていた。


「くそ、穴の存在に気づかれていたか」


「さてと、もう逃がさないよ」


 ボクは近距離から棍棒ガドッグでバンバン攻撃した。


 これだけ接近すればバリアは張れないし、それ以前にバリアを生成するスキも与えずに済む。


 ヴァリザはすでに自分の体にもバリアを貼りつけていたが、動きが鈍くなることを考えて軽くしているようで、通常のバリアよりはもろい。


 棍棒ガドッグなら、ほぼ一撃で砕くことが可能だった。


 一見すると、ボクの方が有利に見えるが、ヴァリザに貼りついているバリアを砕けば砕くほどその破片が突き刺さる。


 それにより、もうけっこうな量の血を流していた。


「ぐ、うう。うっ、目がかすみはじめてきた」


「はぁ、はぁ」


 ヴァリザは、ボクがふらつきはじめた直後、また距離をとろうとするが、今度はスズに攻められた。


 すでにバリアを砕かれた部位を的確に攻撃され、反撃も間に合わなかった。


「く、くそ。卑怯だぞ。二対一なんて」


「どのクチがそんな事言うの。あなたたちも散々やってきたことでしょ」


「だ、黙れ。ぐ、うう」


 ヴァリザは貼りついたバリアを次々と砕かれながら攻撃され、ついに無防備になった。


 ボクはすかさず、棍棒ガドッグの一撃をふりおろし、押しつぶした。


「スズ、はやくミミッギュを!」


「うん!」


「うう、くそ」


 ヴァリザはスズにミミッギュを注射され、デビレンとしての力を失った。


 しばらくはそれが分からずにまだ戦おうとしていたが、今度はスズの平手打ち一発で倒れてしまった。


「な、なんだ、この皮膚の色は。何が起こったんだ」


 ヴァリザは何が何だかまったく理解できないまま、スズにロープで縛られた。


 ボクは卑劣の素を回収しようと近づくが、背後から魔性の火が数発飛んできて、腕を負傷した。


 振り向いたときには攻撃の主の姿はもうなく、何かがいたという痕跡すら感じられない。


 残っていたのは、薄黒い色をした謎の紙切れだけだった。

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