第十九話「デビレンたちの悪しき計画」
「さて、体はもう大丈夫かな」
捕虜たちの手当てを始めた後、ボクは後からやってきたスバゲスタン大学の救護部隊に助けられ、手厚い施しを受けていた。
大学内でケガの治療を受けた後、十分な食事も与えられた。
そして、大会の賞金と討ち取ったデビレンの報奨金として百二十万ザディンを贈呈された。
ようやく、マンジイを救うためのお金がすべて揃ったのだった。
こうなると、もう手負いだからって休んではいられない。
すぐに出発の準備を整えた後、スズに大会でのお礼を言いに行った。
「えーっと。あ、いたいた。スズ、ちょっといいかな?」
「ん? あら、ケガはもういいの?」
「うん、仲間がボクの助けを待ってるんだ。はやくお金を届けないといけない」
「仲間? そっか、そういう事情があったのね。もし、よかったらだけど、そこまで送ってあげよっか?」
「え? そんな事できるの?」
「ええ。ついてきて」
スズはボクを巨大な格納庫に案内し、奥にあった戦闘機のようなものに乗せた。
まもなくパイロットと思われる壮年の男性が現れ、まさかの空の旅がはじまってしまった。
まではよかったものの、機内は武器であふれ、火薬と鉛のにおいが充満していた。
かなり落ち着かない状況だったが、スズは場慣れしているのか、ただ淡々と刀の手入れをはじめていた。
「さぁてと、着くまでに終わらせないとね」
「ねぇ、前から気になっていたけど、スバゲスタン大学って何を教えてるとこなんだい?」
「戦闘の技術よ。おもにデビレン狩りするためのね」
「デビレン狩りを? ああ、なるほど。こんな世界なんだし、そういう大学があっても不思議はないか」
「まぁ、大学といっても授業を受けたりするのは一年の時だけで、二年からはデビレン狩りしながらフィールドワークしてレポートを提出するのがメインなんだけどね。で、ノルマがこなせなければ留年か退学ってわけ」
「学生も大変なんだね。ん? そろそろみたいだ」
見覚えのある景色が窓の向こうに見え始めた。
その後、戦闘機が町に着陸すると、ボクは飛び出してマンジイのいる診療所へ飛び込んだ。
幸いにも借金取りと思われる人たちの姿はまだなく、すぐにマンジイの無事も確認できた。
ボクは床に手をつき、心から喜びの声を上げた。
「うう、よかった。本当によかった」
「まさか、こんな年寄りを救うためにここまでしてくれるとはの。ニシくん、本当にありがとう」
「お礼なんて。ボクがマンジイを必要と思うからやった事です。また一緒に旅をしてくれますか?」
「もちろんじゃ。世話になった分はちゃんと返さんといかんしの」
マンジイはすぐに出発を希望したが、傷の完治がまだだったため、退院許可はおりなかった。
まぁ、万全の状態でないのはボクも同じなので、旅はしばらくお預け。
まずは集めたお金をマンジイから教わった住所に送った後、スズの元に戻った。
「ごめん。今済んだよ」
「ええ。仲間の方は大丈夫だったの?」
「うん。送金も終わったし、後は傷が治るのを待つだけ。それで、その間に聞いておきたいことがあるんだけど」
「ええ、どうぞ」
「ジェリラと戦った時に言ってたミミッギュって何?」
「ああ、それね。ちょっと待ってね」
スズは懐からいかにも固そうな鉱石のようなものを取り出した。
これがレベルフォーのデビレンたちが唯一おそれるミミッギュなのだそうだ。
ボクが顔を近づけてみると、まるで周りを威嚇するかのような感じがするのが分かった。
「すごい力を感じる。まるで心の中を洗われるような感じだ」
「そうでしょう。ミミッギュにはね、生物の持つ邪気を消滅させる力があるの」
「邪気って、デビレンの力も?」
「ええ。今のところ、不死であるレベルフォーへの唯一の対抗手段といっていいでしょうね」
「そうか。やっぱりちゃんと対抗手段はあったんだ。よかった」
「でもね、そう喜んでばかりもいられないみたい。実はね、吹き飛んだアジトの残骸の中から文書が見つかったって教授から連絡があったばかりなの。これ」
スズは端末に保存してあったメール文をボクに見せてくれた。
内容は、デビレンたちが人間をデビレンに変える卑劣の素という薬を開発し、配っているという事。
卑劣の素とは、レベルスリーのデビレンが邪心の強い人間を吸収する事で逆に肉体を乗っ取られレベルフォーになるという現象を比較的簡易に実現できる薬。
具体的にいうと、飲んだ人間の邪心がすごく強ければ、それだけでレベルフォーのデビレンが誕生するという事らしい。
だが、それは過程に過ぎず、捕えた人間を使ってアジトで実験などを繰り返し、大幅な薬の改良が進んでいるそうだ。
おもな改良点としては、強い邪心にとどまらず、弱い邪心を持つ人間でもデビレン化できるようにする事。
この弱い邪心と言うのは具体的には書かれていないが、例えば軽い嘘をついた、ケンカで人を殴った程度の事も含まれるのかもしれない。
もし、そうなれば、今とは比べものにならないスピードでデビレンたちが増殖していく事だろう。
上級デビレンが何千人、何万人と増えるとなると、まさに地獄絵図だ。
レベルフォーの強さを体験した後だったこともあり、その内容はあまりに衝撃的過ぎたが、文書にはまだ続きがあった。
今でこそ、卑劣の素は秘密裏に取引されているが、いずれはその存在を公表してバンバン配布するつもりらしい。
そのためには、まず公共の電波を使ってデビレンの強さをアピールする。
それにより、邪心を持たない善人の中にもデビレンの力に魅了され、デビレン化するためにわざと悪い事をする人間が現れる事も予測されていた。
つまり、邪心を持つ人間に卑劣の素を配るのとは逆で、卑劣の素を飲んでデビレン化するためにわざと悪に身を落とし、邪心を持とうとする人間も現れるかもしれないという事だ。
実際、ボクが前にグリル村で戦ったアゴヒゲの男もそんな一人だったし、完全不死に千里眼と、魅力的な能力を得るためにデビレンになりたいと考える人間がいてもたしかにおかしくない。
こんな情報を聞いてしまえば、以前のボクなら、脅えて戦い続けようという気力が起こらなかっただろう。
しかし、今はもう違う。
脅えようが、逃げようが、その先に日本へ帰る道がないのは分かっているのだから。
「強くならなきゃいけない理由がさらに増えたってだけの話だ。マンジイが回復するまで時間もある事だし、やるかな」
ボクは棍棒ガドッグを装備し、さっそく訓練を開始した。
「少しでも、少しでも持続時間を長くできるようにしないと」
「ガッツあるわね。送ってきた教授は、最悪詰むかもしれないなんて大騒ぎしてたのに。ところで、その棍棒って覚醒丸を使って作ったもの?」
「あ、うん。そうだけど。どうしてわかるの?」
「においと雰囲気でなんとなくね。あたしの持っている燃える刀ヘルジャムも覚醒丸を使って作られたものだから。使用者の体内の熱を炎に変換して刀身に纏わせるってやつ」
「そうか。ジェリラ戦を見た感じ、使い手としてはキミの方が先輩だろうね」
ボクはいい機会なので、棍棒ガドッグを使いこなせているかどうかをスズに判定してもらう事にした。
まずは近くの森に移動し、出くわした雑兵の群れと戦闘開始。
少しも反撃を食らうことなく、全滅させた。
「はぁ、はぁ。どうかな?」
「うーん、そうね。中の下ってとこかしら」
「え? 中の下って。ちゃんと戦ったのに何がいけないの? ねぇ、ねぇ」
「まぁ、興奮しないで。順を追って話すから」
スズが指摘したのは、次の点だった。
それは、少しの間使っただけなのに、力を消費しすぎているという事。
さっきのは雑兵が相手だったからよかったものの、レベルフォークラスが相手となるとたしかに致命的だ。
そこは、序盤だけ温存しながら戦うとかいくらか方法はあるだろうが、ボクの場合はそれ以前の問題らしい。
「エネルギーの無駄遣いは明白。単純に敵を倒すだけなら、さっきの半分以下の力で十分なのに、かなりオーバーキルしてると言えるわ」
「それって、やっぱりまずいものなの?」
「まぁ、損しているのはたしかでしょ。例えるなら、千ザディンで買える物をわざわざ一万ザディンで買うとか、素手で壊せるものを爆薬を使って壊すとかね」
「な、なるほど。でもさ、覚醒丸って使用者の力を強制的に引き出すものなんだし、しかたないとも思うんだけど」
「あたしも昔はそう思ってた。で、力任せに使ってよく体の熱がなくなって凍えるような思いを繰り返すうち、うまく力をコントロールする術を身に着けていったのね」
「コントロールか。一回の攻撃に必要な力だけを引き出せるようになれば、過度な温存は必要なくなる。これからの戦いでは重要だと言えるね」
ボクは旅を再開するまでの間、棍棒ガドッグ、小刀ザクメル、小銃イアチャの力のコントロールを進めることにした。
戦いに敗北する事、そしてそれ以上にマンジイに辛い思いをさせることは絶対にしたくない。
そう心に誓いながら、さらに強くなる決意をした。




