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第十七話「最初の鬼門」

「ここでやっと半分くらいってとこかな」


 スキンヘッド男と戦い始めた後、ボクはうまく逃げ切り、先に進んでいた。


 今のところ、罠との遭遇はない。


 というのも、先を進んでいたサイオンジさんの後ろをちゃっかりついていっていたからだ。


 しかし、見失わないようにと近づきすぎてしまったことが災いし、捕まってしまった。


「あ、いや、これはね、キミの優秀な判断を信じていれば間違いないかなって」


「はぁ。何で素直に一緒に行きたいと言わないんですか。こそこそするのはやましいところがある証拠ですよ」


「あ、ああ、そうだね。悪かったよ」


「まぁいいでしょう。あなたは悪い人じゃなさそうですし、手を組んでおくのもいいかもしれませんしね」


 サイオンジさんはそう言うと、端末を素早く操作しながら再び進行をはじめ、ボクも後に続いた。


 それからしばらく進むと、来た道を戻り始めている出場者や負傷して倒れている出場者を見かけるようになった。


 そろそろこの大会も佳境に入ってきたという事だろう。


 ここからは本格的にデビレン側との戦闘になるはず。


 と思われたが、意外にもいくら進んでもデビレンたちとの遭遇はなく、冷静だったサイオンジさんに動揺が見え始めた。


「変ですね。雑兵がわんさか待ち構えていると予測してたんですけど」


「先に通った人たちが倒していったんじゃないかな?」


「それにしては、戦闘のあった形跡があまりない気がするんですけど」


「え? うん、まぁ、それはそうだけど」


 結局、疑問は解けないまま、アジトの前まで進んでしまった。


 しかし、ここでもなぜか門が開いたままという予想だにしない光景が待っていた。


「見張りもいませんし、鍵もかかってません。たしかに変ですね」


「とりあえず、先に進んでみれば何か分かるよ」


「待ってください、ニシさん。罠が!」


「え? 罠」


「ないんです」


「な、ないの! だったらいいじゃないか」


「いえ、この流れだと罠の一つくらいあっても。でもどの端末にもなんの反応もありませんし」


 ここでも疑問を抱いたまま門をくぐり、特に何事もなくアジトの入り口前へ進んだ。


 だが、その先で待っていたのは、山積みになった出場者たちの上に座り込むレベルフォーのデビレンだった。


 角刈り頭でニコニコしているが、発せられる殺気は前に戦ったギュバと遜色ない。


 ボクはすぐに戦闘態勢をとった。


「なるほど、キミがここの門番ってわけか」


「いいや、俺はこのアジトの者じゃねぇ。近くで楽しそうなイベントがあるって聞いたから遊びに来ただけだ。ま、拍子抜けだったがな」


「何にせよ、やるしかないようだね。覚悟はできているよ」


「ああ。だが、その前に、オラ!」


 角刈りデビレンは魔性の火を連続で飛ばした。


 それはぐるりと半回転しながら、後ろで端末を操作していたサイオンジさんに命中した。


 ボクは駆け付けようとするも、すぐに角刈りデビレンに追撃されてしまった。


「く、サイオンジさん」

【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】

「う、うう。熱い。あ、あああ」


「フン、その端末にいろいろ入ってんだろ。知らないとでも思ったのか?」


「な、なぜだ? なぜ、キミがそんな情報を知ってるんだ?」


「俺らレベルフォーの持つ千里眼はな、極限まで鍛えればターゲットの心の中まで読めちまうんだよ。もちろん集中力が必要だから戦闘中はうかつに使えないがな」


「それじゃあ、他の出場者たちを倒してからボクたちがくるまでに」


「そうだ。ま、見たのはそっちのガキだけだが、問題はないよな。普通に戦ってもお前に負けるわけはねぇしな」


 角刈りデビレンはへらへら笑って見下しながら、挑発を続けた。


 しかし、ボクは冷静さを失わず、真っ向から角刈りデビレンに殴り掛かった。


 一発目は避けられたものの、すぐに繰り出した二発目が角刈りデビレンの腹部にヒットした。


「ぐうう、いいパンチだ」


「どうだい? 見下してたやつにやられる気分は」


「やられる気分? やられるっていうのはこういう事をいうんだ!」


 角刈りデビレンは口から魔性の火を一気に放出した。


 そして、立て続けに両手からも魔性の火を放出し、直後にジャンプ。


 上空から勢いよく、膝蹴りを繰り出した。


 ボクも拳をかまえ相殺にかかるが、腕をわずかにひねってしまった。


「うう、このっ!」


「フフ、必死だな。もっと戦いを楽しまなきゃ」


 ボクと角刈りデビレンの戦いはその後も続くが、拮抗しているとは言い難かった。


 真剣に拳をふるうボクに対し、角刈りデビレンはへらへら笑ってふざけている感じだという事だ。


「フフ、ハハ、レベルフォーの情報を知っているなら、よく分かっているはずだ。必死に動けば動くほど無駄になるという事を」


「ちっ、遊んでいるね。不死ゆえの余裕ってやつか」


「さぁ、ガンガン攻撃して来いよ。これじゃあ暇つぶしにもならないぜ」


「まぁ、あまり気分のいいものじゃないが、そうしたけりゃするがいいさ」


 ボクは今、ただやみくもに攻撃を繰り返しているのではなかった。


 ここに来る前にどういう手順でレベルフォーに対抗するかは考えていたのだ。


「今か。いや、まだだね」


「ちっ、こんだけなめきった態度をとってもキレないとは、だったら」


 角刈りデビレンは変顔をしながら横歩きし、再び挑発をはじめた。


 そのあまりに人を馬鹿にした態度にボクはついに怒りを爆発させた。


「馬鹿にすんのも大概にしろ!」


「はーはは、怒ったか。いいぜ、それでいい」


 スキップしながら身構えもしない角刈りデビレンは、ボクの棍棒ガドッグの一撃をモロに受けて吹き飛んだ。


「あーっはっはっは」


「笑いながら殴られる奴なんて初めて見たよ」


「へ、へへへ」


 角刈りデビレンはそのまま床へたたきつけられ、頭を強打。


 体をピクピク震わせながらダウンした。


「す、すごいパンチもらっちゃったぜ。なめてたよ、お前の事。きっちりお返ししないとな」


「お返しだって? この状態でそんな事ができると思うかい?」


「はは、だからこっちは不死身、ん?」


 すでに角刈りデビレンの両手には、ボクが用意した手錠がかけられていた。


 倒れて動きが止まり無防備になったその数秒をボクが見逃すはずはなかったのだ。


「何の考えもなしにボクがここに来ると思ったのかのかい。さてと」


「うう、まさか最初からこれを狙って。だが、甘いんだよ!」


 角刈りデビレンは立ち上がり、飛び蹴りしながら前進してきた。


 わずかに反応が遅れてしまったボクは額を攻撃され、激しく流血した。


「うぐ」


「ちぇ、はずれたか。脳をつぶすつもりだったのに」


 薄ら笑いする角刈りデビレンの手についていた手錠ははずれていた。


 そして、もちろんさっきの戦いでボクに受けた傷もきれいに消えており、角刈りデビレンにとってのさっきまでの戦いはなかったこと同然になっていた。


「フフ、こんな状況はじめてだったから正直あせったけど、力を込めたら簡単に引きちぎれたよ、こんな手錠なんか」


「ぐっ!」


「その表情だと他に手は考えてなかったみたいだな。まぁ、バカにしてはいい作戦だったよ」


「こいつは一本とられちゃったな。なめてたよ、レベルフォーの力を」


「その結果がこれさ。さぁ、今度はふざけなしで戦ってやるぜ」


 再び、ボクと角刈りデビレンの戦いがはじまった。


 しかし、さっきまでとはまるで状況が違う。


 ボクは額にダメージを負っているうえ、手錠で拘束するという対処法も破られてしまった。


 他に何かいい手はないだろうかと考えるも、もちろんすぐに思い浮かびはしない。


「どうすればいい。どうすれば不死身のこいつを」


「ホラ、戦闘中に何をぼさっとしててんだ!」


「ぐう」


 ボクは肩とわき腹をざっくり斬られてしまった。


 戦いに集中しなければならないのは分かっているが、戦ったところで相手が不死身ではどうにもならない。


 まずは冷静さを失わないのが一番だ。


 もし、無駄だと諦めて抵抗をやめれば、そこで死は確定してしまう。


 何とか乱れ始めた心を支え、戦い続けた。


「ったく。何やってんだ、ボクは。こんなに簡単にあきらめるなんてどうかしてたよ」


「へぇ、この状況でまだ戦意喪失しないとはなかなかのモンだ。だが、ここまでにしとくか。これ以上ここで遊んで、上にばれたらひどいお叱りを受けるだろうからな」


「上? お叱り?」


「いや、こっちの話だ。ああ、一つだけ忠告しとくよ。この先には進まない方がいいぜ。後悔する事になるからな」


 角刈りデビレンは謎めいた笑みを浮かべながら、走り去った。


 かなり気になったが、今はサイオンジさんの救助が最優先。


 ボクは持っていた布と消毒液を取り出し、応急処置を開始した。


「少ししみるけど、辛抱してね」


「ニシさん、すいません。私はもうこの先には進めません」


「え? ど、どうして?」


「あんな化け物みたいなデビレンと戦うなんてできません。常識の通用する相手じゃなかった。少しくらい頭がよければどうにかなると思ってたのが間違いだったんです」


 サイオンジさんはうつろな目に涙を浮かべながら震え、治療が終わっても立ち上がろうとはしなかった。


 今まで挫折を知らなかったであろうエリートに下手な慰めなど何の効果もないだろう。


 ボクは少々不安を抱えながらもサイオンジさんと別れ、一人でアジト内へ入っていった。

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