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第十六話「一発逆転の大イベント」

「う、うう。ここは?」


 ギュバの光を浴びた後、気がついたボクはグリル村の中央広場の隅に寝かされていた。


 横ではショウさんと村人たちが何やら忙しく動いている。


 とりあえず、ギュバとの戦いが終わった事だけは確かなようだ。


 しかし、それでも心身に負ったダメージがしばらく残ることになるだろう。


 ボクはギュバの顔を思い浮かべながら、涙を流した。


「う、うう」


「ん? 何だ、おっさん。起きて早々べそかきか。大の大人がみっともねぇぞ」


「ショウさん、キミはすごいよね。ギュバ相手にあそこまで戦えるなんて。ボクは歯が立たなかった」


「村の奴らの話じゃ、かなり手負いの状態で奴と戦い始めたそうじゃねぇか。むしろ、健闘した方だと思うがな」


「そうかなぁ」


「ああ。正直、レベルフォー相手にびびらず向かっていけただけでもこの世界じゃすげぇ事なんだぞ。オラ、いつまでもメソメソしてねぇで立て。まだ仕事が残ってんだぞ」


「うん。うんうん」


 ボクは涙を拭い、立ち上がった。


 よく考えてみれば、落ち込んでいる時間などありはしない。


 こうしている間にもマンジイの命が危険にさらされているのだから。


 この時点で約束の期限までの残り時間はあと六日。


 ボクはすぐに荷物をまとめはじめた。


「もう行くね。仲間がボクの助けを待ってるんだ」


「そうか。俺は村人たちを安全な場所まで逃がした後、またギルゴムを追うつもりだ」


「ギルゴムか。そういえば、前に話してたもんね」


「おっさんは仲間を失うなよ。俺みたいに復讐に生きるなんてろくなもんじゃねぇからな」


「うん。縁があったらまた会おうよ」


 ボクはショウさんに手を振りながら、グリル村を出発した。


 ここからまた孤独な戦いが始まるのだ。


 まずは、残された時間でどうお金を集めるかをよく考えなければならない。


 いくら時間がなくても、無計画にデビレンに挑んでは序盤の二の舞になってしまう。


 かといって、慎重になり過ぎて避け続けては前に進めない。


 正直、頭の中がパンクしそうなくらい考えても、どうすればいいか分からなかった。


「決められた時間内に決められた額を。えーっと、うーん。あー、もう!」


 ボクは悩み続けながら足を進めた。


 すると、少し舗装された道にたどり着き、その近くに掲示板があるのを見つけた。


 掲示板にはデビレンの手配書の他、個人や組織からの依頼も貼られていると聞いたことがある。


 依頼なら、デビレンを換金所に引き渡した時にもらえる報奨金の他、依頼主からの謝礼ももらえるし、お金が効率よく稼げるとも思ったが、ここは守銭奴だらけの異世界。


 謝礼などほんの申し訳程度のものでしかなく、タマゴ一個とか何の価値があるのか分からないような石ころなんてパターンがザラだった。


 そんな中でまともなものといえば、右端の方に掲載してあるスバゲスタン大学のものくらいだった。


 これは依頼と言うよりイベントのようなもので、賞金百万ザディンと破格なものの、参加費として十万ザディンをとられる。


 はっきりいってギャンブルに近く、下手をすればただ時間、お金、労力の無駄遣いとなってしまう。


 しかし、期限内に二百万ザディンを集めるには他にいい方法はないし、迷っている時間もない。


 ボクは決心を固め、スバゲスタン大学に向かう事にした。





「フーッ、ここか」


 掲示板エリアから半日ほど歩き続けたボクは、ようやくスバゲスタン大学に到着していた。


 前に広がる講堂前には、イベント開催前だというのにすでにたくさんの出場者たちが集まっていた。

挿絵(By みてみん)

 数はパッと見て千人くらいで、やはり全体的に若い人が多い。


 ボクはなめられないようにと気を引き締めながら、エントリーを済ませた。


 このとき受け取ったパンフレットに書かれていたのは、イベントの詳しい内容だった。


 この先にあるデビレンのアジトを破壊し、捕まっている人たちを救出すれば賞金百万ザディンがもらえる。


 さらに名のあるデビレンを生け捕りにすれば、ボーナスとしてプラス五十万ザディンとあった。


 しかし、途中で逃げ帰ったり戦闘不能になった者には一ザディンも支払われず、ケガの治療も一切しないと続けられている。


 ボクは今更とは思いながらも、迷い始めてしまった。


 エントリーを取り消して地道にデビレンを倒し続ける方がいいかもしれない。


 少なくとも時間とお金と労力が無駄になるという事はないし、目標額を期限内に集められる可能性もゼロというわけではない。


 だが、じっくりと考えている内に開会式が始まってしまった。


 これではもう引き返すことはできない。


 こうなった以上はもう持っている力をすべて使うつもりで目的を達成するしかない。


 ボクはあらためて決心を固め、開会式が終わるとすぐに走り出した。


 もし、倒れたり逃げたりすれば、それはマンジイを見殺しにするのと同じ。


 そう自分に言い聞かせながら、前列へと進んだ。


 しかし、千メートルほど進んだところではやくも異変が起こった。


 出場者たちが次々と足を押さえて、うずくまりだしたのだ。


 どうやら、ところどころにばらまかれているまきびしを踏んでしまったようだ。


 ボクは何とか道の端を沿うように歩いて前に進むも、今度はドロドロした液体のようなものが飛んできて炸裂。


 そのさらに前方では爆薬のようなものが炸裂し、走っていた出場者たちをまとめて吹き飛ばしていた。


 そして、とうとう出場者同士での乱闘騒ぎまではじまってしまった。


 いくら全員が競争相手とはいえ、さすがに度が過ぎる。


 ボクはドン引きしながら、物陰へと隠れた。


 しばらくすると、静かになったので先に進もうとするが、あとからやってきた細目の少年に止められた。


 彼は前方をたまに見つつ、小型の端末をすばやく起動させていた。


「ええと、ここはなし。ここもなしと」


「あの、キミは?」


「ああ、邪魔をして申し訳ない。私は スバゲスタン大学二年のサイオンジ。今は先に進まない方がいいと思います。罠がしかけてあるようですから」


「わ、罠。誰がそんなものを?」


「おそらく、前方を走っていた不良風の男でしょうね。開会式前にそれらしいものをいじってましたし」


「へぇ。ん? うわわわ」


 何と、出場者たちが黒焦げになりながら、ロケットのように飛んできた。


 おそらく、前方で出場者同士の潰し合いが激化しているのだろう。


 ボクはこの大会に対する考えが甘かった事を強く感じた。


「少しくらいは協力し合えると思ってたのに」


「あまり期待はしない方がいいと思いますよ。出場者の中には殺人犯や窃盗犯も混ざってたみたいですから」


「そっか、殺人犯に窃盗犯、ん? ちよっと待って。そんな人たちが何で野放しになってんの!」


「知らないみたいですね。この世界では窃盗は無期の禁固刑、殺人は被害者に落ち度がなかった場合は年齢や動機に関わらず死刑と厳しく決められています。でも、その先に大きな穴があるんですよ」


「大きな穴?」


「罰金を多く収めた者、デビレン狩りで大きな功績を残した者は減刑、もしくは無罪になるというものです。いかにもデビレンと守銭奴の多い世界らしいでしょう」


「は? じゃあ」


 ボクは少しずつ今の状況を理解し始めた。


 この先にいるのはデビレンだけでなく、理不尽な法に守られた凶悪な人間もいるという事だ。


 目障りだからと爆薬や銃弾が飛んできても何ら不思議はない。


 もはや、サバイバルのようなものといってもいいだろう。


 となると、前に戦ったホサカやアゴヒゲ男のように殺さずに止める余裕はない。


 ボクは複雑さを払拭できないまま、物陰から飛び出した。


 しかし、すぐに後方から迫ってきたスキンヘッドの男に攻撃され、行く手を阻まれてしまった。


「できれば人間同士で争いたくないんだ。通してよ」


「争いたくなければ荷物を置いて大学へ引き返すんだな。先に忠告しといてやるが、俺は人間を殺すのに何の躊躇もしねぇからな」


「キミもいかれた法に守られた犯罪者ってわけか」


「いかれたとはずいぶんだな。優れた戦士や資金援助してくれそうな金持ちを処罰すればデビレンと戦ううえで大きな損失になる。そんなものもわからねぇのか」


「分からないよ。罪を犯すことが合法だなんて間違ってる」


「けっ。オレはなぁ、おめぇみたいにつまらん正義感をふりかざす奴が大ッ嫌いなんだよ」


 スキンヘッド男は武器を装備して振り回し、戦闘が開始されてしまった。


 ここからはこんな展開が続くことになる。


 たとえ善人が相手だとしても、優勝するためには戦わなければならないのだ。


 ボクは迷いを完全に断ち切れないながらも棍棒ガドッグを装備し、力一杯前進していった。

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