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第十五話「恐怖の時間」

「はぁ、たったのこれだけか」


 グリル村で犠牲者たちの埋葬を終えたボクは、ショウさんと手分けして食糧を探していた。


 一刻も早くお金を稼がなければならないのは分かっているが、餓えた村人たちを放置して立ち去るのは無情すぎる。


 マンジイに心の中で何度も謝りながら、力一杯足を進めた。


 だが、くたくたになって集めたは、わずかな果物類、薬草、虫類だけだった。


「これじゃあ、焼け石に水だよ。はぁ」


 気落ちしながら村に戻ると、入り口のところで落ち合った耳たぶデビレンから食糧の入った大袋を渡された。


 聞くところによると、バヤンバに沈められた船の残骸の中から回収してきたというのだ。


 ボクは何というか唖然としながら、食糧を受け取った。


「あ、りがとう。でも、キミはデビレンなのにどうして?」


「自分でもよく分かんないんす。でも、オイラ少しだけ嬉しかったっす。今まで仲間や上司たちに物みたいな扱いばかりされてたから、その、あんたたちが生き物として接してくれつ、う!」


 耳たぶデビレンは何かを言いかけたところで頭を撃ち抜かれて倒れ、さらに上半身を数発撃たれ死亡した。


 とうとう襲撃部隊が村に攻めてきたのだ。


 先頭に立っていたのは帽子をかぶったアゴヒゲの男。


 普通の人間のようだったが、操られているような様子はなく、周りの雑兵たちに指示のようなものを送りつつ、ボクに近づいてきた。


「お前、この村の者か?」


「違う。それよりも、なぜ彼を殺したんだ? キミたちの仲間のはずだろう」


「ああ、その耳たぶか。裏切ったようだし、そりゃ始末するだろ。さて、まずは現状確認だな」


 アゴヒゲ男は後ろにいた雑兵たちから機関銃を受け取り、辺りを見渡した。


 やはり、今の村の現状は予想外だったらしく、やや困惑しているような感じだ。


「いるのは労働力になりそうもない年寄りや子供ばかり。ったく、別の隊に先を越されたようだな」


「労働力を集めているのか。何のために?」


「人手が足りねぇからに決まってんだろ。だが、こいつらも一応連れていくか。ストレス解消のサンドバッグ代わりにはなるだろうしな」


「や、やめるんだ」


「へへ。ブタや牛みたいな家畜でもいいんだが、人間の方がアホな命乞いを聞ける楽しみがあるから面白いんだよな」


「狂ってるな、キミは。人間だからって躊躇していられないようだ」


「やる気か。仕方ねぇな」


 アゴヒゲ男は雑兵たちとともに攻撃を開始した。


 ボクは村人たちを後ろへ下げ、孤軍奮闘した。


 雑兵たちは難なく倒すことはできたが、アゴヒゲ男だけは手強く、一筋縄ではいかなかった。


 おそらく、レベルスリーのデビレンより実力は上だと思われる。


「フフ。俺は強いだろ、おデブちゃんよ」


「なぜだ? なぜキミほどの人がデビレンの味方なんてしてるんだ?」


「知りたいか? フフ、まだデビレン狩りをしていた頃によ、ギュバ様に敗北して気づかされたからさ。デビレンに歯向かうのがどれだけ愚かな事かをな」


「デビレンと戦うのを諦めたとでも?」


「ああ。俺があの時抱いたのは復讐心じゃなく憧れの感情だった。そりゃそうさ。幼い頃から鍛えた拳法の技も愛武器もあの方たちにとってはちっぽけなものでしかなかったんだからな」


「キミって......ホントかわいそうだね」


「なぁーにぃ!」


 アゴヒゲ男は機関銃を滅茶苦茶に乱射してきた。


 それはボクだけではなく、周りにいた村人たちにまで向けられた。


 もはや、彼に人間としての誇りなんて微塵も残ってないようだった。


「何がかわいそうなんだ。いずれ、世界はギュバ様達のものになるんだ。どうせなら、今のうちに支配する側にまわりたいと思うのは当然だろう」


「ぐ、そんなの間違ってるよ」


 ボクは、弾を撃ちまくるアゴヒゲ男に少しずつ接近していき、機関銃を叩き落とした。


 そこからは壮絶な殴り合いが始まった。


 お互いに一歩も引かず、まさに意地と意地のぶつかり合いだった。


「はぁ、はぁ」


「俺は間違ってなんかいない。ギュバ様は約束してくれた。いずれ俺にもデビレンの力を分けてやるとな」


 アゴヒゲ男は攻撃をさらに激化させてきた。


 それは、まるで見えない鎧をまとったかのような重い一撃だ。


 しかし、ボクも負けじと攻撃を続けた。


「はぁ、はぁ。キミは強いよ。なのに、どうしてそのギュバってデビレンに負けた時にもっと強くなろうと思わなかったんだ?」


「人間の力の限界なんて知れているという事を俺はギュバ様から教わった。だから、だから、黙って俺に殺されろ!」


 アゴヒゲ男は奇声を発しながら飛び上がり、ボクに掴みかかった。


 奇声を発しながら暴れるその姿は、狂気そのものだった。


 目を血走らせ、よだれをたらし、いかに必死かが見てとれた。


「こんなところでお前なんかに野望を砕かれてたまるか! あ、あああ」


 いきなりアゴヒゲ男の動きがピタリと止まり、なぜか震えながら涙目になってひれ伏した。


 そして、その直後に凄まじいほどの殺気がボクの背中を襲った。


「こ、これは、う!」


 振り向いたボクの後ろに立っていたのは、金髪で灰色の肌と顔に施された赤い模様が特徴的な黒服の男。


 殺気や今までに聞いた情報から考えて間違いない。


 バヤンバたちが言っていたレベルフォーのギュバと見て、間違いないだろう。


 ボクは震える手を支えつつ、戦闘態勢をとった。


 必死に「ボクはやれる、ボクならやれる」と言いつつ、がんばった。


 しかし、わずかにまばたきした直後、腹にあたたかい感触が。


 背後に回り込んだギュバに腹部を刺されていたのだ。


「うう」


「私を相手にまばたきとは余裕だね」


 ギュバはわざと手を引き抜くと、にやつきながら舌を出して挑発した。


 ボクは全力を込めて拳をふるうが、ギュバはツメ一本で受け止め、よそ見しながらあくびした。


 それは、まるでボクのやってきた血のにじむような訓練を無駄な努力だと罵倒するかのような態度だった。


「見た感じ、本気で戦っているみたいだけど、呆れるね。あー、退屈だな。いっそ横になろうかな」

挿絵(By みてみん)

「う、ううううううう」


 結局、ボクはギュバにまともに相手をされないままあしらわれ続け、腹の傷が元で倒れた。


 そのままとどめをさされそうになるが、間一髪のところで飛んできた投石に助けられた。


 ショウさんが戻ってきたのだ。


「ちっ、俺のいない間にすごい事になってんじゃねぇかよ」


 ショウさんはギュバに注意を払いつつ、ボクを後ろの村人たちのいる場所に運んだあと、臨戦態勢をとった。


 しかし、それとほぼ同時にギュバの手刀が目の前にせまっていた。


 ギリギリのところでガードしたショウさんは、ギュバの足に蹴りを入れつつ、後退した。


「ちっ」


「やるね。あいさつがわりのこの一撃を防いだのはキミがはじめてだよ。しかも、反撃までしてくるとはね」


「戦闘経験が浅い一般人ばかり狙ってる奴の言いそうなセリフだな」


 ショウさんは、ボクや怪我をした村人たちに危害が及ばぬようその場から移動をはじめた。


 しかし、わずか数メートルほどでギュバは追いついてきた。


 そして、怪我人たちには目もくれず、ショウさんに狙いを定めた。


「はっはっは、楽しいね」


「余裕ぶりやがって。さすがはレベルフォーだな」


「キミもさすがだよ。レベルスリー程度じゃ束になっても勝てないだろうね。だが」


 一旦後退し、ショウさんと距離を置いたギュバは黒い炎を飛ばし始めた。


 これが噂に聞いていた黒火の上位互換技である魔性の火なのだろう。


 威力もスピードも黒火などとは比べものにならないようだ。


 このとき、ショウさんが避けた魔性の火はたまたま近くで倒れていた雑兵たちに命中し、激しく燃え始めた。


 もがき苦しみながら砂の上を転がり火を消した後も、その痕は煮えたぎるようにじゅわじゅわとうずいていた。


「フー、ありゃ火傷なんてレベルじゃねぇな」


「フフ、まだまだ容赦しないよ」


 ギュバは、倒れている部下など意にも介さず、魔性の火を連続で飛ばした。


 直撃すれば、その箇所はまともに動かせなくなるくらいに思った方がいい。


 ショウさんもそれを承知の上で動いているようだ。


「ちっ、この」


「よーくよけるね。必死さが顔に出てるよ」


「こんな事を繰り返しても、体力を消耗するだけだ。何とかしねぇと」


 ショウさんは、しばらく何か考えた様子で避け続けた末、懐からナイフを二本取り出し、飛んできた魔性の火を突き刺した。


 そして、その後も次々と飛んでくる魔性の火を突き刺しながら前進した。


「うぉぉぉぉ」


「そんな事をしても刀が燃えるだけだ。バカな事を」


「そいつはどうかな?」


 ショウさんは、黒く燃え上がるナイフを一本投げつけた。


 ギュバは余裕でかまえていたが、眼前に迫っていたナイフにわずかに目を向けたスキをつかれ、ショウさんに背後をとられた。


「な、何!」


「オラよ!」


 ショウさんは、残ったもう一本の燃えるナイフをギュバの背中に突き刺した。


 そして、その直後には飛んできた方の燃えるナイフがギュバの右肩に突き刺さった。


「ぐぅ!」


「二兎を追う者は一兎をも得ず。注意を向けるんならどっちかにするんだな」


「う、ううううう!」


 燃える刀を受けたギュバの背中と右肩は、火を消してもじゅわじゅわとうずいている。


 しかし、そのわずか数秒後にはみるみるその痕が消えていくのだった。


「はぁはぁ、やるじゃないか。大した頭脳プレイだったよ」


「攻撃した痕が何事もなかったかのように消えてやがる。完全不死ってやつか」


「そうさ、これが現実だ。どんな攻撃を受けようと私は死なない。レベルフォーのデビレンだからだ!」


「言ってろ。だからって引き下がるほど俺はヤワじゃねぇんだよ」


 ショウさんは渾身の蹴りでギュバを攻撃した。


 続けて、そこから息をつく間もなく、高速パンチを叩きこんだ。


 勢いに押されたギュバは体を反らしつつ、砂をショウさんにぶつけ、何とか態勢を立て直した。


 そして、せまってくるショウさんに応戦しつつ、巨大なノコギリを召喚した。


「私がこれを使うという事は相手を強いと認めた証拠だ。胸を張って死んでいけ」


「それがお前の魔性具か?」


「ああ。名はレガーザ。さて、気持ちよく切らせてくれよ」


 少し遊び心まじりで戦っていた様子のギュバだったが、いよいよ本気でショウさんの息の根を止めるつもりになったようだ。


 ショウさんもまた怒りを保ったまま、それに応えるのだった。


 しばらく、お互いに様子見の状態が続いた後、先にショウさんが動いた。


 ギュバめがけて走り、腹部に高速のパンチをあぴせた。


 ギュバはやや押されつつも、レガーザをふるい、ショウさんの頬を切りつけた。


 レガーザを持ったことにより、ギュバの攻撃範囲は広まったものの、逆にその重みで機動力はやや下がっているはず。


 ショウさんはその点を考えたのか、スピード重視の戦法で攻めていった。


「オラオラ、スピードが下がってきてんぞ」


「ギリギリのところで致命傷を避けられる。まったく、大した男だ」


 お互い決定打を与えられないまま、一進一退の戦いは続いた。


 しかし、ギュバは完全不死の力でダメージをすぐに回復するのに対し、ショウさんはダメージを確実に蓄積していく。


 多少のかすり傷程度のダメージがほとんどとはいえ、血が出ればもちろんそれは体にひびくもの。


 少しずつ動きに変化があらわれている様子がうかがえた。


「はぁ、ぐぐ、う」


「フフフ、けっこうな流血が目立つね。苦しいかい?」


「大したことねぇよ。血なんて体の中でまた作られるんだからよ」


「いいねぇ、その強気発言。ますますキミが負けてくやしそうにしている姿を見たくなってきたよ」


「だったら、さっさとそうさせてみろよ」


 ショウさんは、流血などおかまいなしに動き続けた。


 さっきまで以上の勢いでガンガンパンチやキックを繰り出していく。


 正直、体力はかなり削られているはずだったが、この場合下手に立ち止まっても、標的になりやすいのもたしかだ。


 おそらく、少しでも弱みを見せれば、ギュバは容赦なくショウさんの首を狙ってくるだろう。


 ボクは棍棒ガドッグを装備し、加勢に向かう事にした。


「いざというときはボクが何とかしないと」


「おっさん、よせ。そのケガじゃかえって足手まといだ」


「ん? ああ、そうか。少し遊び過ぎたようだね」


 ギュバは急に攻撃を止めた後、なぜか後退した。


 そして、無線機のようなものを取り出し、小声で誰かと話し始めた。


「フー、どうやらこれまでのようだ。勝負は預けておくよ」


「オイオイオイ。てめぇ、これだけやっといて逃げようってのか。行かせねぇぞ」


「キミと遊ぶのは楽しいけど、仕方ないさ。何事にも優先度というものがあるからね」


 ギュバはレガーザをかざし、強力な閃光を発生させた。


 それはみるみる大きくなっていき、無慈悲に村全体を覆い尽くしていった。


 村人たちは次々と倒れていき、悲鳴が飛び交い始めた。


 ボクはどうする事も出来ず、ただ立ち尽くすしかなかった。

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