第十四話「迫るレベルフォーの影」
「まだ島らしいものは見えないね」
「ちっ、このオンボロ船が」
バヤンバが逃走した翌日、ボクとショウさんは周りを見渡しながら船を進めていた。
なかなか進展らしきものはなく、時間だけが過ぎるばかり。
ショウさんのイライラは増していき、船内の空気はみるみる重くなっていった。
「まだか、まだか」
「そういえば、ショウさんは何でギルゴムってデビレンを追ってるの?」
「昔、そいつに負けた上に仲間たちをやられた事があってな。カタをつけなきゃなんねぇんだ、コラ!」
「そ、そんな怒鳴らなくても、え、あ? あれ!」
ようやく、陸らしきものが視界に入ってきた。
ボクはすぐに上陸の準備をするも、直後に大量の黒火らしきものが飛んできて、船主が大破した。
続けて甲板と舵も大破し、被害は瞬く間に広がった。
船はギシギシと音を立てながら、沈み始めた。
ボクとショウさんは負傷した耳たぶデビレンを連れて海へと何とか脱出し、陸へ向けて泳いだ。
「まさか、上陸前に排除しようとするとはね」
「デビレンらしいこった。おっさん、その耳たぶをしっかり守っとけよ。まだ利用価値があるかもしんねぇからな」
ショウさんは続く黒火攻撃をよけながら上陸し、逃げようとしたバヤンバの前に立ちはだかった。
「くだらねぇ追いかけっこはここまでだ」
「ちっ、おとなしく沈められとけばいいものをさ」
バヤンバは右手に出刃包丁を装備し、左手に黒火をまとうと、ショウさんに向っていった。
黒火の温度はすさまじく、よけても拳をふりまわしたときの熱風は離れた場所にいるボクですらとても熱く感じる。
もし、うかつに素手でガードなんてしようものなら、大やけどは必至。
ショウさんは序盤こそ距離をとりながら応戦していたが、しだいにガードの間に合わないほどの高速パンチやフェイントを織り交ぜた攻撃で攻めはじめた。
「どうした、魔性具を装備してその程度か?」
「くっ、はやいわね。これほどとは」
バヤンバは背後からショウさんに左手を攻撃され、黒火は消えていった。
そこからはかなり一方的な展開となった。
ショウさんが的確にパンチをヒットさせるのに対し、バヤンバの出刃包丁は大振りすぎてまったく当たらない。
「う、うう」
「こんなナマクラで俺が切れるか。黒ひげのタルにでも刺しとけ」
ショウさんは出刃包丁を弾き飛ばしてバヤンバに迫るが、真横から飛んできた銃弾に制止された。
その直後、長い口をしたデビレンがピストル型の魔性具をかまえながら、姿を現した。
「ちっ、よけられたか。よく狙ったはずだがな」
「この女の仲間か。見たところレベルスリーのようだが」
「キオラだ。それなりに名の通ったデビレンのつもりなんだがな」
「レベルフォー以下はあんま覚えねぇようにしてんだ。どうせ、すぐやられる儚い命だしな」
「言ってくれるじゃねぇか。オラ!」
ピストルの連弾がショウさんにせまる。
はっきり言って「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」的な撃ち方に見えたが、弾自体の速度は速く、決して簡単によけられるものではないようだ。
「フフフ、刃物と違ってこの距離なら一方的に攻撃できる。反撃をくらう心配もないからな」
「フン、無駄にいい武器を持ちやがって」
「ほらほら、あ、た、弾が」
連射がたたり、とうとうキオラのピストルの弾がきれた。
それをショウさんが見逃すはずもなく、一気にキオラへと接近した。
「刃物と違って銃には弾ぎれのリスクがあるもんな」
「う、うわぁぁぁ、なんてな」
キオラは両手を前に出し、勢いよく黒火を連射した。
ショウさんは最初の一撃をよけきれず、右ほおに火傷を負ってしまった。
「くそ」
「へへ。俺は騙すのがうまいからな」
「さっきまでのは黒火を使う前の前座にすぎなかったのか。ついピストルばかりに目がいっていたよ」
「フフ、私にも目がいかなかったようね」
「あ?」
ショウさんの背後には、手をかまえるバヤンバが立っていた。
おそらくはここまでが敵側の作戦だったのだろう。
ショウさんを完全に挟んだままキオラ、バヤンバから黒火を撃ち出された。
前後左右どちらに逃げても、この連弾の挟み撃ちからは逃げられそうにない。
絶体絶命かと思われたが、ショウさんは空中へ勢いよくジャンプした。
「はめられたのはてめぇらの方だ」
「う、うそ!」
「おい、バヤンバ、すぐ止め、うわぁぁぁぁ!」
黒火で同士討ちをしてしまったキオラとバヤンバ。
バヤンバは大やけどを負って昏倒し、キオラはかすり傷ですんだものの、ショウさんに背後から両腕をつかまれて捻じ曲げられていた。
「う、うう」
「連携がまるでとれてねぇな。どうせ傷がすぐ治るとたかをくくっているとこうなるぜ」
「ぐ、ううう」
「ひとつ実験といこうじゃないか。お前らの回復能力とやらがどれほどのものか」
「うぐぐぐ」
「くじゃぐしゃにへし折れた骨まで再生できるだろうかな」
「ぐ、やめろ、やめてくれ」
「フン、その様子だと骨折までは治せないようだな。ま、雑魚をいたぶんのは性に合わねぇしな」
ショウさんはキオラとバヤンバを縄で縛り、尋問を開始した。
それにより、得られた情報は二つ。
ギュバというレベルフォーのデビレンとの合流とこの先にあるグリル村の襲撃計画。
襲撃の詳細内容は誘拐という事しかキオラ、バヤンバ共に聞かされていなかったらしく、直接行って真相を確かめるしかないようだ。
ボクはショウさんと相談し、グリル村へ向かう事にした。
「んー、それにしてもレベルフォーか。いつかはぶつかると思ってたけど」
「不安そうだな、おっさん。ま、俺も負けた過去があるから、大きい事は言えねぇがな」
「あ、あの、ところでオイラはこの後どうなるんすかね?」
「決まってんだろ。そっちの二人と一緒に換金所に引き渡す。嫌ならここで骸にするがな」
「ショウさん、彼は協力してくれたんだし、少しは、ん? んん?」
何やらものすごい悪臭がボクの鼻を襲った。
それはうまく表現できないが、生物が腐ったようなにおいだった。
それをたよりに少し進むと、古風なボロ家が多く並ぶ小さな村の前にたどり着いた。
「ここがグリル村で間違いないんだよね?」
「ええ。たしかにそのはずだけど、変ね。襲撃は今夜十時のはずなのに」
「たしかにこの悪臭といい、普通じゃねぇな。何にせよ、人を探した方がよさそうだな」
ボクたちは村に入り、あたりを見渡しながら歩いた。
強い悪臭とは裏腹に声などはまったく聞こえない。
そこで、今度は家の中へ捜索範囲を広げることにした。
「お、お邪魔します」
「んー。おい、おっさん。見てみろよ」
ショウさんの先では、傷だらけの老人が横たわっていた。
そして、その後ろにはこの老人を引きずった痕もある。
ドア付近の傷などから考えて、彼は家の者が連れていかれようとしたのを止めようとして殺されたのではないかと思われる。
「むごい事するもんだ」
「いや、むしろこの方がよかったかもしれねぇな」
「どういう事?」
「ほら、奥の方を見てみろよ」
ショウさんの指さす方には、兄弟と思われる二人の男児が痩せこけた状態で倒れていた。
その横には何も入っていない汚れた食器だけがいくつも散乱している状態だ。
人間だけでなく、まともな食糧さえもデビレンたちは容赦なく奪っていったのだ。
「ううう」
「何だ、耳たぶ。今更罪悪感に襲われてやがんのか?」
「す、少しは」
「そう思うんなら、手伝え。このままじゃあんまりだろうからな」
ボクたちは、餓死した二人を含む発見した村の死者たちの埋葬していった。
その途中で家の中に隠れていた村の生存者たちもボクたちの行動を見て敵でないと判断したのか、埋葬を手伝い始めた。
このとき、生き残っていた村人は連れていかれなかった者のうちわずか半数以下に過ぎない事が分かった。
仮にこの状態がこのまま続けば、全滅も時間の問題だろう。
「働き手や食糧だけかっさらい、年寄りや子供は放置か。なんともデビレンらしい事だ」
「はぁ」
すべての埋葬を終え、ボクはすっかり意気消沈した。
そのとなりでは幼い村の子供が涙目になりながら、両手を差し出していた。
後ろには今にも倒れてしまいそうな村人たちが虚ろな目をしてズラリと並んでいる。
これは、もうひと働きする必要がありそうだ。




