第十三話「旅は道連れ」
「ぐ、え。ぐうう」
二百万ザディンを集め始めてから二日後、ボクは森の入り口で座り込み、傷を癒していた。
何しろ、ぶっ続けで寝食もはさまずにデビレンたちと戦い続けたため、体が言う事を聞かなくなっていたのだ。
だが、こんな調子では期間内に目標額を集めることはできない。
何とか立ち上がり、再び森の奥へと入っていった。
その後は遭遇した雑兵三体を討ち取るも、貧血と空腹に耐えきれず倒れてしまった。
「こ、ここまでに集めたお金は三十万ザディン。だ、ダメだ。全然足りない。で、でも、死んでしまっては元も子もない。い、一度、町に、ん?」
何やら、話し声のようなものが近くの草むらから聞こえてきた。
それをたよりに地面を這いずりながら進むと、レベルスリーのデビレン二体が話しているのを見つけてしまった。
一体は前に戦ったバヤンバという女のデビレンで、もう一体は長い耳たぶの太った男。
とりあえず、今の状態で何とかできる相手ではないのはたしかだろう。
「あ、後で必ず戻ってくるさ」
ボクは後退をはじめるも、バヤンバに気づかれてしまい、身動きがとれなくなってしまった。
「うう、く」
「いつぞやのデブちゃんじゃないの。私を狙ってここまできたってわけね」
「い、いや、キミを狙ったわけじゃない。ほら、ボクは怪我している。勝負はまた今度にしよう」
「そうよね。怪我人をいたぶるのはさすがにかわいそう......とか言うと思った? デビレン相手に泣き落としが通用するわけないでしょ! こんのキモブタ!」
バヤンバはボクの顔を何度も踏みつけた後、出刃包丁型の魔性具を振り上げた。
だが、直後に割り込んできた何かがバヤンバを吹き飛ばした。
そして、近くに立っていた耳たぶデビレンを威嚇するようにしてボクの前に立った。
それは一瞬だけ鬼のようにも見えたが、黒いコートを着た大柄な男性だった。
少なくともデビレンではないようだったが、その目つきは冷たく、ボクをにらみながら顔を近づけてきた。
「忠告だ、おっさん。絶対に前に出るな。死にたくなけりゃだがな」
「あ、う、ん」
「よし、じゃあ、本題に入るか。魔獣使いのギルゴムの配下ってのはどいつだ?」
「ギルゴム様? まぁ、私は配下の一人だけど」
「そうか。てめぇがバヤンバだな。オラ!」
「やる気のようね。さっきの借りを返させてもらうわ」
バヤンバは黒火を両手にまとい、コート男に襲い掛かってきた。
続けて、耳たぶデビレンも小刀型の魔性具を装備して攻撃してきた。
しかし、コート男はそれを軽くかわし、腹に膝蹴りをあびせて倒した。
「おいおい、まさか死んだのか。そんな強く蹴ったつもりはないがな」
「死にな!」
バヤンバは、コート男が耳たぶデビレンに気を取られている隙を狙うように、背後から手をかまえた。
そして、後退しながら、黒火を連続で飛ばして攻撃した。
「接近戦じゃ分が悪いようだからね。ほらほらほら」
「けっ、低俗なレベルスリーの考えそうな事だな」
コート男はバヤンバの発する黒火をかわしながら接近し、彼女の眼前で飛び上がると、背後にまわって腕をひねりあげた。
しかし、バヤンバはしぶとく黒火を連射して暴れ、脱出。
煙玉をぶちまけた後に猛スピードで逃走した。
戦闘開始からここまでの所要時間は、わずか三十秒。
ボクは、コート男が並みの戦士ではないとすぐに理解した。
「助けてくれてありがとう。でも、キミは一体?」
「ああ、俺はショウ。あるデビレンを追って旅してたんだが、んー」
「え? 何?」
「いや、あんたじゃない。てめぇの方だ!」
ショウさんは、倒れている耳たぶデビレンを蹴飛ばし、殴り始めた。
それが一通り終わると、今度は懐からナイフを取り出し、ドスの利いた声で脅し始めた。
「俺に狸寝入りは通用しねぇんだよ。さぁ、ギルゴムの居場所を教えろ。知らないはずはねぇよな」
「し、知らないっす。ギルゴム様はバヤンバ先輩の上司で、オイラは会った事ねぇんすよ」
「会った事ねぇで済むか。ホラ、会った事あるって言え。打ち首獄門にすんぞ」
「無茶苦茶じゃないっすか。本当に会った事ないっすもん。ど、どうしろっていうんすか?」
「よし、じゃあ、バヤンバのところへ連れていけ。奴はどこに向かった?」
「そ、そこの町の港から船で移動するって言ってたっす。は、八時頃に」
「あと十分か。急いだ方がよさそうだな」
ショウさんは、ボクと耳たぶデビレンを背負うと、森の入り口へ向けて走り始めた。
その後は一気に町の中へと突入し、あっという間に港へと移動した。
「耳たぶ、どれがバヤンバの乗ってる船だ。言え!」
「お、おいらに密航の手引きをしろって言うんすか。か、勘弁してっす」
「さっさと吐いた方がいいぞ。船に乗れなかったら、てめぇを海に沈めるからな」
「な、なんだと、汚いっすよ」
「フン、お前らのやっている事とどっちが汚い? ほら、言わねぇと、沈める時おもりをつけるぞ。二十トンくらい」
「う、あー、もう、右から二番目のやつっすよ」
「よし、あ、そうだ。これから全力で走るから舌噛まないようにしとけよ」
ショウさんはボクたちを担いだまま助走をつけ、出航しようとしていた船にしがみついた。
そして、そのまま船内に上がり、遭遇した雑兵二体を倒して倉庫へと入った。
「フー、ギリギリセーフだな」
「む、無茶苦茶っすよ、あんた」
「あ、あの、ショウさん。何でボクまで連れてきたの?」
「死にぞこないをあんな森に放置しちゃおけねぇだろ。とりあえず、そのタルん中の食糧でも食って回復しとけ。担ぎサービスはもうなしだからな」
「あ、ああ。うん」
ボクは何とか身を起こし、体力回復に専念することにした。
予想外の展開ではあったが、これはまたとないチャンスだ。
今までの分とこれからの分も含め、とにかく食べ続けた。
「が、ぶぶ、ぐうう」
「すげぇ食欲だな。おい、耳たぶ、おっさんが回復したらこの中を案内してもらうからな。そのつもりで、ん? 耳たぶ?」
「き、気持ち悪いっす」
「気持ち悪い? 自分の顔がか?」
「ち、がうっす。よ、酔ったみたいっす」
「酔った? ははは、デビレンが船酔いかよ。こりゃおかしい」
「笑ってないでなんとか、うっ、おぇぇぇぇぇぇ!」
倉庫内に耳たぶデビレンのすさまじい嘔吐物のにおいが広がり、ボクとショウさんは悶絶した。
もう食事どころではなくなり、口と鼻を必死に押さえながら倉庫のドアを開けた。
「はぁ、はぁ。ぐぐ」
「てめぇは腹にヘドロでも入れてんのか。何事にも限度ってもんがあんだろ」
「キミ、病院行った方がいいよ。ホントに」
「そ、そこまで言わなくても。あ、ああああ!」
耳たぶデビレンは涙目になって震え始めた。
その視線の先には、バヤンバが雑兵たちを率いて立っていたのだ。
ショウさんはボクの前に立つと、拳をかまえた。
「この船はギルゴムのとこに向かっていると見て間違いないんだよな?」
「さぁねぇ。ところで、ここに入り込めたのはそこの耳たぶくんの手引きなのかしら?」
「そのとおりだ。こいつ言ってたぜ。この船の奴らはバカばっかりだから簡単に忍び込めるってな」
「あ、あ、あんた、なんてことを」
「向うへの未練を断ち切ってやったんだ。すっきりしたろ?」
「バカ......ねぇ。あんたの気持ち、よーく分かったわ。その人間共と一緒に始末してやるわ」
「やる気か? そうこなくっちゃな」
ショウさんはデビレンたちに向っていき、激しい戦闘が始まった。
これはボクもじっとしてはいられない。
すぐに棍棒ガドッグを装備し、迫ってきた雑兵たちを蹴散らした。
「体力が回復した今なら存分に戦える。キミに感謝しないとね」
「そういうのは敵を全滅させてからにしろよ。まぁ、すぐそうなるだろうがな。ん?」
「ひぇぇぇ! バヤンバ先輩、どうかご容赦を」
耳たぶデビレンは泣き叫びながら、バヤンバに追い回されていた。
しかし、すぐに追いつかれて張り倒され、顔面を蹴られた。
「い、命だけは、命だけは助けてっす」
「デビレンが命乞いとは見苦しいね。このデビレン界の顔汚しめ」
「ま、まぁ、そう言わずに、ほら、靴でも磨くっすよ」
「おっ、気が利くじゃないの、ってその手に乗るかい!」
バヤンバはノリノリで耳たぶデビレンを蹴り続けるが、少しして雑兵たちが減っているのに気づいたのか、奥の出口から逃走した。
ボクは雑兵たちを倒しつつ後を追うも、着いた先は海が広がっており、進むことはできなかった。
立ち往生するボクを挑発するようにバヤンバはゴムボートをこぎながら海の奥へと消えていった。




