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第十二話「マンジイを救え」

「はぁ、はぁ。まだまだ......だ」


 ゴクドスクジラとの一件の翌日、ボクは重症のマンジイを背負いながら森の中を歩いていた。


 すでにデビレンの襲撃二回と野生動物の襲撃四回を受け、ボク自身もかなり消耗した状態。


 しかし、立ち止まれば、その分だけマンジイの命は消えていく。


 そう思う事だけが、今のボクの原動力になっていた。


「う、が。はぁ、はぁ」


「ニシくん、たのむからもう無理はせんでくれ。このままではお前さんの方が先に死んでしまう」


「だ、いじょぶです。そう簡単に死ぬつもりありませんから」


「お前さん、本当に強くたのもしくなったの。ゴクドスクジラとの戦いといい、道中の戦いといいの」


「何を言うんです。マンジイの指導のおかげじゃないですか。ん? あれ?」


 何やら、周りの草がガサガサと動き始めた。


 ボクはすぐに身構えるも、直後に木からデビレン二体が飛び降りてきて挟み撃ちをしかけてきた。


 そして、続くように草むらから新手のデビレンたちが次々と飛び出してきた。


「フフ、そうとうな深手のようだな。俺たちは運がいい」


「くっ!」


「おっと、下手な行動はとるなよ。まずはそのジジイが死ぬことになるぞ。はは」


 剣をかまえながら笑うデビレンはレベルスリーで、周りのデビレンたちはレベルツー。


 今の状態でやり合えば、ボクとマンジイのどちらかは確実に死ぬ。


 最悪の状況だったが、希望はわずかに残っていた。


 レベルスリーのデビレンの後方にあるかなり離れた場所から黒い煙があがっているのが見えていたのだ。


 これは村か町があるかもしれないという事だ。


 ボクは祈るように小刀ザクメルを装備し、全力で走り出した。


「うおおおおおおお」


「な! てめぇ、待ちやがれ」


「うおおおおおおお」


 ボクはデビレンたちをあっという間に離し、走り続けた。


 心臓が破けるかのような苦しさに襲われたが、限界を迎える寸前のところで人の行き来している地点までたどり着いた。


「はぁ、はぁ。えーっと、ここは?」


 辺りを見渡すと、どこかの町の中に入り込めたという事が分かった。


 しかし、小刀ザクメルの反動でまともに動けないというのに、すれ違う人たちは気に留めてはくれない。


 それどころか、ガラの悪そうな男女にマンジイごと蹴り飛ばされた上に、罵詈雑言を浴びせられた。


 やはり、この町にも人助けをせっせとしてくれる人間など皆無のようだ。


「はぁ。厳しいだろうけど、やるしかないな」


 ボクは何とか体を起こし、マンジイを再び背負って歩き出した。


 目指すのは、もちろん十分な設備のある医療機関だ。


 幸いにもこの町にはいくつかの医療機関が存在していたものの、横暴な医者が大半を占めているようで、ボクの服装を見ただけで門前払いしてしまうパターンが多かった。


 その後、ようやく診てくれる医者を見つけたが、すでにマンジイは危険な状態でどんどん息遣いが荒くなっていた。


「はぁ、はぁ。ニシ、くん。すまん」


「う、うう。先生、お願いです。マンジイを助けてください。どうか、どうか」


「ああ。だが、あんたもけっこうな深手じゃないか。大丈夫なのか?」


「ボクはいいんです。とにかく、マンジイを助けてください」


「分かった。全力をつくそう」


 先生はマンジイを抱えて、奥の処置室に入っていった。


 ボクは床に力なく腰かけ、不安な時間を過ごすこととなった。


 マンジイの悲痛な叫び声が聞こえるたびに周りの空気が重くなり、最悪な未来が頭をよぎりはじめた。


「うう。まさかとは思うけど。んん、あ!」


 不安がさらに強くなるように先生が暗い顔をしながら処置室を出てきた。


 そして、なぜかボクと目を合わせようとせず、下を向いたまま話し始めた。


「もう大丈夫だ。傷自体は深かったが、急所にダメージがいかなかったことが幸いだったといえるな」


「じ、じゃあ、マンジイは助かったんですね。ありがとうございます。何で、そんな暗い顔してるんですか?」


「い、いや、彼な、あんたにもう会いたくないって言ってんだ。ただ、感謝だけはしているそうだ」

【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】

「どういう事ですか? ちゃんと話を聞かないと納得できません」


 ボクは制止しようとする先生をふり払い、処置室に飛び込んだ。


 しかし、マンジイはただベッドに横たわり、まともに対応しようとしない状態。


 そして、やっと口を開いたかと思えば、とぼけたようにして歌い始めた。


「ひゅー、ん、んん。声がうまく出んの。んん」


「マンジイ、いいかげんにしてください! 理由も言わずに別れようなんてあんまりじゃないですか! ちゃんと話してくれるまで引き下がりませんよ」


「フー、そうか。思い通りにいかんもんじゃの。では、聞くが、今回の治療にどれだけの費用が掛かると思う?」


「えーと、まぁ、数十万くらいでしょう? 保険がないのは分かっていますし、それは覚悟してます」


「ここの治療費だけの問題ではないんじゃ。ワシに借金があるという事は知っておるじゃろ?」


「はい。前にチラっと聞きましたね。今回の事と関係あるんですか?」


「うむ。まぁ、話したところでどうにかなるものではないと思うがの」


 マンジイは体を起こし、話し始めた。


 すべてのはじまりは三十一年前の夏。


 三十八歳のマンジイは、急死した父親が友人の連帯保証人になったせいで負った借金を返済する事になってしまい、転落の人生を歩むことになったという。


 過激な取り立てや電話が続くようになり、奥さんと生まれたばかりの息子さんには出ていかれ、ほとんど寝る間もなく働くことになったそうだ。


 自分が使ったわけでもない赤の他人の借金を奴隷のように返していく毎日。


 それだけでもひどい話だったが、その後は年月が経つにつれて利息が増加。


 とうとう、まともに働いても返せないような額になってしまったという。


 ここまで話すと、マンジイは下を向いて隠すようにして泣き始めた。


「ぐ、うう。ぐ、すまん。幼かった息子の事を思い出してしまっての」


「知りませんでした。マンジイがそんな過去を持っていたなんて。デビレン狩りをはじめたのも借金返済のためだったんですね?」


「生きている間に借金返済が不可能とみなされての。脅されて、あまり詳しい事情も聞けんままこの世界に送り込まれたんじゃ。ただ指定された場所に毎月二百万送金するようにだけ言われての」


「ボクなら親父さんを絶対に許さないでしょうね。借金の連帯保証人なんかになってその後どうなるかは目に見えてますから。マンジイもそうなんでしょう?」


「いや、親父がいなかったら、ワシはこの世に生まれさえおらんのじゃ。苦しい思いしたのも楽しい思いしたのも親父のおかげ。何を恨むことがある」


「はぁ、マジで言ってるんですか。器大きすぎでしょ」


「おだてても気持ちは変わらんぞ。さぁ、はやくここを離れるんじゃ。もう時間がない」


 マンジイは、少しでも借金の返済が滞れば取り立て屋が殺し屋を率いてやってくると続けた。


 そうなれば、一緒にいるボクの身も危なくなるらしい。


 たしかに肩代わりや身代りを強要されることは容易に想像できる。


 しかし、ボクは逃げるつもりはなかった。


「ボクはさっきの話に出てきた借金を他人に押し付けて逃げるような卑怯者とは違います。やるだけやらせてください」


「今から十日後の夜十二時までに二百万ザディンを送金しなければ、取り立て屋がワシを探しはじめるじゃろう。現実的に考えて間に合わんと思うがの」


「大丈夫です。だから、あきらめないでください。ボク、マンジイに教わりたいことがまだ山のようにあるんですから」


「ニシくん」


「必ず、戻ってきます」


 ボクは荷物をまとめ、処置室を後にした。


 そして、先生にマンジイの事をしっかりと頼んだ後、森へ向けて出発した。

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