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第十一話「凶獣との死闘」

「ん? あれ、ここは?」


 海中で意識を失った後、ボクはどこかの砂浜で目を覚ましていた。


 後方には森が広がっており、おそらくは船出した海岸とは別の場所に流されたのだろう。


 沈まなかっただけラッキーと思いたかったが、船を失い、マンジイともはぐれてしまった。


 さらには聞き覚えのあるような声が森の方から聞こえ、不安な状況に拍車をかけるのだった。


「い、今のってゴクドスクジラの声に似てたような。ま、まさかここに上陸しているのか。うう」


 ボクはどうしていいか分からず、頭を抱えながら砂浜を歩き始めた。


 そして、大岩がある場所まで進むと、若い金髪の男が釣りをしているのを発見した。


「あ、あの、ちょっといいかな?」


「ん? 何だ、あんた。さっきのじいさんの仲間か?」


「さっきのじいさん? え! キミ、マンジイに会ったの?」


「会ったっつーか、んー、そうだな。教えてやらんわけでもないが」


 金髪男はここで情報料をよこせと要求してきた。


 さらには森の方をチラ見しながら、圧力をかけてくる始末。


 ここは言うとおりにするしかなさそうだ。


「いくら欲しいんだい?」


「まぁ、あんた金持ってそうにも見えねぇし、三万ザディンにしといてやるよ」


「分かった、払うよ」


「よし、交渉成立だ。んー、一時間くらい前だったな。あのじいさん、ゴクドスクジラを誘導するようにして森の方へ入っていったよ。ちょうど、そこの木のあたりからな」


「ゴクドスクジラに? そうか、やっぱりさっきの声は聞き間違いじゃなかったんだ」


 ボクは少しずつ状況を理解し始めた。


 おそらく、ボクとマンジイがこの砂浜に流れ着いた直後、ゴクドスクジラが後を追ってきたのだろう。


 しかし、ボクは意識を失い逃げられる状態ではなかったため、マンジイが我が身を犠牲にして危険な役を引き受けたと考えられる。


 またしても、ボクはマンジイの足を引っ張ってしまったようだ。


「こうしちゃいれない。早く、う、うう」


「森に入るつもりか? 今のあんたの体力じゃ何もできないと思うがな」


「だからってここでじっとしてるなんてできないよ。マンジイはボクの大恩人なんだ」


「そうか。じゃあ、一つ提案だ。四十万ザディン払えば、手を貸してやってもいいぜ」


「よ、四十万だって!」


「どうした? 大恩人の価値は四十万以下だってのか?」


「き、キミは。マンジイが生きるか死ぬかの瀬戸際だっていうのに」


「ぷっぷー、これが俺の商売なんだよ。ここに流れ着いた馬鹿どもからうまく金を搾り取るのがな」


 金髪男は挑発するような顔をしながら、タバコを吸い始めた。


 正直、今まで会ったデビレンたちに負けず劣らずのクズだ。


 ボクは歯を食いしばりながら怒りをこらえ、四十万ザディンを差し出した。


「もし、手を抜いたりしたら絶対に許さないからね」


「おお、こわ。こりゃ、しっかりやらねぇとな」


「マンジイ、今行きます」


 ボクは森の中を全力で走っていった。


 しばらくすると、巨大な足跡の他、複数の木が滅茶苦茶に倒れているのを発見した。


 おそらくは、ついさっきまで激しい戦闘が行われていたのだろう。


「ええっと、マンジイは、ん? ああ!」


 ボクは見覚えのある槍が木の下敷きになっているのに気づき、急いで駆け寄った。


 そして、辺りを見渡すと、少し離れた場所でマンジイが倒れているのを発見した。


「ま、マンジイ」


「う、ニシ、くんか」


 マンジイは何とか立ち上がったものの、顔は青ざめていて、骨も何か所か折れているようだった。


 出血もひどいようだし、このままでは危ない。


 だが、少し先ではゴクドスクジラがきょろきょろしながらこちらへと近づいている。


 ボクは金髪男にマンジイをまかせ、ゴクドスクジラの誘導を始めた。


「はぁ、はぁ。この先は川か。小銃イアチャを使ってみるか」


 小銃イアチャは、使用者の体内の水分を冷気に変えて弾丸化する能力を持っている。


 今のボクの技量では敵をカチカチに凍結させるのは無理だろうが、川の一部分を凍結させるくらいならできるはず。


 まずは急いで川を渡りきった後、ゴクドスクジラの足が水に浸かったところで小銃イアチャの引き金を引いた。


「う、ぶぶぶぶ」


 一気に激しいのどの渇きが襲ってきた。


 これは気をつけて使用しないと、水分をとられすぎて干からびてしまう危険もあるようだ。


 だが、ゴクドスクジラの足付近を凍結させることには成功し、十分な足止めをすることはできた。


「よし。はぁ、み、水を、あ! いけない。今は早く戻らないと」


 ボクはすぐに来た道を戻っていくが、その先で見たのはさっき以上に苦しむマンジイの姿だった。


 金髪男は近くに中腰で座り込んで、タバコを吸いながら傍観しているだけだった。


「よぉ、意外と早かったな」


「どういう事だよ、これ。何でマンジイを手当てしないんだ。十分に時間はあったはずだ」


「俺は戦闘で手を貸してやるって言ったんだ。治療をしてほしけりゃ、ほれ、追加料金として三十万ザディン払えよ」


「あ、うあああああああああ! いい加減にしてくれよ! 何でもかんでもお金、お金って、キミはお金をもらわないと何も動かないのか!」


「ああ、そうだ。ここは生きるか死ぬかの異世界だぞ。会ったばっかのジジイを無償で手当てするわけねぇだろうが、ターコ」


「そうか、もういい。キミにたよろうとしたのが間違いだったようだ」


 ボクはマンジイを背負い、移動を始めた。

挿絵(By みてみん)

 だが、少し進んだ大木の前でゴクドスクジラに追いつかれてしまい、行く手を阻まれてしまった。


 正直、もう逃げ切る事は不可能だ。


 覚悟を決めたボクは棍棒ガドッグを装備し、ゴクドスクジラに向っていった。


 真っ向からの力比べでは勝ち目はないので、狙うのはまず足。


 力の限り叩きまくって、膝をつかせるのが有効だろう。


 ボクはとにかく動き回り、攻撃のチャンスをうかがった。


 しかし、ゴクドスクジラはパンチを前面に向けて広範囲に打ちまくり、こちらの接近を許さない。


 この攻防の影響で地形はみるみる変わっていき、動き回るのも容易ではなくなっていった。


「はぁ、も、う。ま、まずい」


 棍棒ガドッグの反動の影響で、両腕が少しずつ重くなっていった。


 それでも、必死に力を込め続けて前進し、ゴクドスクジラの足へ向かって走った。


 何とか決定打をくらわずに進み切り、渾身の一撃を叩きこんだ。


 ゴクドスクジラはわずかに膝をつくも、すぐに体勢を立て直して反撃を開始。


 ボクは何とか棍棒ガドッグで受け流そうとするが、すぐに押され始め、パンチの一撃を食らって木に叩き付けられた。


 限界に近かった両腕にはさらにダメージが加わり、力を込められなくなった。


 もはや、戦う事も逃げる事もかなわない。


 ボクは何とか倒れているマンジイの元に駆け寄り、ゴクドスクジラに頭を下げた。


「ぼ、ボクはどうなってもいいから、マンジイだけは助けて」


「ニシくん、何をやっとるんじゃ! こんな年寄りのために命を捨てる気か」


「当り前です。元々はボクがふがいないせいでこうなったんじゃないですか」


「お前さんにそこまでされたら年長者として立つ瀬がない。下がるんじゃ」


「嫌です!」


 ボクは持っていた物をすべて放し、さらに前へ出て座り込んだ。


 それに対してゴクドスクジラは一度は拳を振り上げるも、それ以上動かそうとはしなかった。


 話が通じたかどうかは定かではないが、しばらくは沈黙するだけの状態が続いた。


「聞き入れて......くれるのか? ん?」


 何やら爆音のようなものが近くから聞こえた後、何かがボクとマンジイめがけて飛んできて爆発した。


 そして、ゴクドスクジラにも数発の爆撃が襲い掛かった。


 ボクとマンジイは爆風で吹き飛ばされて火傷を負い、ゴクドスクジラは激しく流血した状態。


 それを嘲笑いながら、さっきの金髪男が姿を現した。


「特製の手榴弾の味はどうだ? 軽くて高威力。ちと値が張るのが玉にキズだがな」


「き、キミは。まさか、最初からこれを狙って、うう」


「ああ。互いにつぶし合わせて消耗させたところで漁夫の利を得る。金儲けってのはスマートじゃなきゃいけねぇよ」


「うう。キミは本当に人間のクズだ」


「何とでも言え。ははは、気分がいい。ゴクドスクジラの肉とお前らの全財産、合わせていくらの儲けになるだろうな。うはははははは」


 金髪男は次々と手榴弾を投げてきた。


 ボクはマンジイを抱えてよけようとするも、ケガのせいでうまく動く事が出来ない。


 そんな中、ゴクドスクジラはフラフラの状態ながらも、戦意を失っていないようだった。


 飛んできた手榴弾をかみ砕きながら、前進を続けていった。


 金髪男はしだいに追い詰められていき、顔からは完全に余裕が消えていた。


 ゴクドスクジラとの実力差を悟ったのか、動きも雑になり始め、ついには手榴弾を使い切ってしまった。


「あ、あああああ。た、助けてくれ」


 後ずさりをはじめた金髪男はゴクドスクジラのパンチをモロにくらい、空の彼方へと消えていった。


 しかし、戦いはまだ終わっていない。


 ボクは立ち上がって、潔く前へと進んだ。


 対するゴクドスクジラは、拳を振り上げようとしかかったところで動きを止め、何もせずに去っていった。


 その際に見せたどこか怒りと悲しみがまじったような表情は、ボクの頭に消えずに残った。


「マンジイ、なんで見逃してくれたんでしょうか?」


「はっきりとは分からん。じゃが、元々のゴクドスクジラは自分から攻撃を仕掛ける事などないおとなしい生き物じゃったんじゃ。その名残なのかもしれんの」


「大人しい生物? それがなぜ人間を襲うようになったんです?」


「愚かな科学者たちのせいじゃ。デビレン攻撃用の兵器として売りさばくために多くのゴクドスクジラを犠牲にしながら、実験と改造を繰り返していったんじゃ」


「そう、だったんですか」


「しかし、改造は成功したものの、コントロールする方法が見つからずに放置され、今に至っておるというわけじゃ」


 何とも、救いのない話だ。


 ゴクドスクジラを改造したのも、危険だからと排除しようとしているのも人間。


 デビレンのいるこの世界で一番の被害者は、人間ではなく、利用されてきた生き物たちかもしれない。


 ボクはそう思いながら、寂しく海へと消えていくゴクドスクジラを見送った。

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