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第4羽 小鳥、初めてゲームをする

 食事の片付けを終えたロクは二階に上がった。階段を上ってすぐ、右奥の部屋を指差す。


「あそこが小鳥遊の部屋だ。片付いてるからテキトーに過ごしてくれ」

「分かりました」


 後ろについてきた小鳥にそれだけを伝えて、左奥にある自分の部屋に入る。


 パソコンやゲーム機、モニターなどの機械的なものから、勉強机にベッド、本棚といった家具、床には洗濯の終わった服や脱ぎ捨てられたズボンがとっ散らかっており、部屋全体がごちゃごちゃしていた。


「汚いですね」

「そうだろ……って、ん!?」


 ロクが振り返ると、開いたドアの向こう側に小鳥がいた。


「小鳥遊の部屋はあっちだって言った……よな?」

「はい、言われました」

「どうしてここにいるんだ?」

「暇だからです」


 平然とそんなことをのたまう。


「……はあ、お前なぁ」


 ロクが呆れて溜息をつく。いくらなんでも無防備が過ぎた。小鳥の行動は、誘っていると思われてもおかしくない。


 無論、出会ったばかりかつ、小鳥からはそんな様子が微塵も感じられないので、おそらくそういう意図はないのだろう。しかし狭い男の部屋に、女一人で来るのはもっと慎重でなければならない。


「まあいい。なら、入るか? クソ汚いけど」

「入ります」


 女子を冷たく突き放すことのできないロクは、結局容認した。この散らかった部屋を見られるのは少々恥ずかしいが、こればっかりは片付けをあまりしないロクが全面的に悪い。


 入室した小鳥はドアを閉めて、部屋を見回す。


「……先輩の匂いがします」

「すまん」

「? どうして謝るんですか?」

「いや、臭いだろ」

「そんなことないです」


 男の部屋は臭い。全国共通の認識だが、小鳥にとってロクの部屋はそうでないらしかった。


「私はこの匂い、嫌いじゃないです」

「そっか」


 どこか照れ臭さを感じたロクは、小鳥から視線を外してゲーム機に手を伸ばす。つい先日発売した新作の続きを、やりたくてやりたくてうずうずしていたのだ。


 ゲーム機の電源ボタンを押すとスリープモードが解除されて、モニターに画面が映る。床に放置していたコントローラを拾ってベッドに座った。


「小鳥遊も座れば?」

「はい」


 とすっと柔らかい音を立てて、ロクの隣に小鳥が腰を下ろす。二人並んでモニターの画面に注視した。


 画面に映っていたゲームは最近話題のアクションRPGだ。難易度はそこまで高くなく、ゲームが下手でもクリアは可能なほど。歯応えのあるゲームが好きな者にとっては残念だったが、このゲームの魅力はそこではない。


 圧倒的に泣かせるストーリーが話題を集めたのだ。


『アレイスの空に鐘の音が響く。遠く、遠く、遥か遠くまで響いてく。それでもきっと、君の耳には届かない』


 ゲームを再開してすぐイベントシーンに入った。


『何の音なら届くのだろう。誰の声なら届くのだろう。どんな想いなら、君の心に届くのだろうか』


 主人公の声によるナレーションと壮大なBGMがモニターから発せられる。


『分からない。僕には決して分からないけれど』


 ロクも小鳥も無言でイベントを見ていた。


『僕の全てを、君に届けるよ。だから待っていて』


 そこでイベントが終わる。再び操作が可能になった。それからは、ゲーム音とボタンを押す音だけが部屋に響く。


 そうしてしばらく進めたロク。


「小鳥遊、やってみるか?」

「いいんですか?」

「おう」

「じゃあ、やらせてください」


 じっと画面を見ていた小鳥にコントローラを手渡した。コントローラを受け取った小鳥は、心なしか目を輝かせている。


「私、こういうゲームやるの初めてです」

「そっか。操作を教えるな。まずこれが……」


 一つ一つボタンを指差して説明していく。小鳥は理解しているのかどうか分からないが、真剣な顔で説明を聞いていた。


「とまあ、こんな感じだ」

「覚えること、多いですね」

「これでも、最近のゲームに比べたら少ない方だったりする」

「やってみます」


 小鳥はモニターと向き合って、まずスティックを左に倒した。すると操作キャラクターが左に動く。右に倒すと右に、上に倒すと前に。


 カチャカチャ。


 そうしているとモンスターに遭遇した。小鳥は言われた通りに戦おうと、説明を思い出しながらボタンを操作する。


 しかし全然攻撃が当たらなかった。


(下手だけど、ま、初めてならこんなもんか)


 小さく笑うロク。やがてキャラクターがやられてしまう。


 『GAME OVER』の表示が出た。


「あ……すいません」

「気にすんな」


 小鳥はコントローラをロクに返そうとした。しかしロクはそれを受け取らず、微笑と共に質問してみる。


「まだやりたいか?」

「えっと…………はい」

「なら代わらなくていいぞ。俺は隣からアドバイスしてるから、好きなようにプレイしてみな」

「! ありがとうございます」


 小鳥は嬉しそうな顔をする。そしてもう一度モニターへと向いた。


 コンティニューが押され、セーブ地点から再開される。小鳥の初心者ゲームプレイは、夜遅くまで続いた。

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