回想3&プロローグ
#8
新幹線のチャイムが鳴り現実に引き戻される
あれから3年
あふれ出てくるものはもっと多いはずなのにどうしてか出てこない
3年もの間に失ったのだろうか?
物語にするには短すぎて思い出にするには淡すぎる……
缶コーヒーを手に取ると中身が空になっていて都合よく車内販売が来たので缶コーヒーを購入する
目的地までもう少しある思い出さなくていいのかもしれない
もしかしたら思い出は案外に苦しくてつらいものなのかもしれない……
もういいや最後の話をまとめよう
#9
冬にしては陽気が温かく、ポカポカした日だったね
夜になって二人は君のアパートへ移動した話
「今日は楽しかったね♪」
「うん」
「もうすぐ卒業だね」
「うん」
「社会は楽しいのかな?正直不安なんだ」
「何が?」
「いよいよ働くんだよ?」
「そう」
「どうしたの?疲れてるの?」
「私ね、帰ることにしたの」
「どこに?」
「ゴメン、向こうで就職決めたから」
「そっか」
伝えたかった言葉も伝えないままに終わると感じた
そして本当に僕らはそのまま終わった。
卒業式に「元気でね」ってそれだけ。
#10
2年後、僕は新生活になじんで気が付けば君との日々を忘れかけていた。
もちろん、君との連絡は途切れていた。
そんなある日に君が死んだと連絡が来た
猫を助けようとして車に轢かれるなんてどこか馬鹿げていて
だからこそ悔しくて
最後に会った君はきれいな化粧をしていたね
雪のように白い肌にピンクの口紅で……
「雪が溶けたら春が来るの」と言う君の声を思い出して
「桜が嫌いなんだ」って自分の言葉を後悔して……
雪が溶けて春が来て桜が咲くような
そんなシーンを思い浮かべる化粧だったよ……。
きっと桜は好きになれない
そう、だから相変わらず桜は好きになれないんだ……
君を思い出してしまうから
#11
何度か新幹線のチャイムが鳴り目的地へ着いた
少し肌寒くてこれから冬になるんだなと感じるくらいだった……。
「雪が溶けたら春になるの」という君の言葉
こうやってすべてを吐き出したことだし来年こそ春を受け止めてみよう
そんなことを思いながら僕は改札へ向かった。