回想1
#3
そういえばいつ以来だったろう。
僕が桜の花を嫌いになったのは……。
覚えている限りの春はいつも嫌だった。出会いよりも別れが先にきてしまうからかもしれないが、僕自身が案外にペシミストなのかもしれないとも思う
あの時の春もどこか嫌だった記憶がある
そんなことを考えているうちに僕の乗った新幹線はどんどんと進んでいく。
止まらぬ時間と薄れる時間
「時間とはいったい何なのだろう?」と思っていたこともあった。
コーヒーを一口すする。
まだまだ出てきそうな君との思い出を抗うことなく出してしまおうと決めた
#4
春休みもあっという間に終わりまた学校へと通う日々が始まった
相変わらず講義には夢中になれずに過ぎる日々
将来、ぼんやりとした絵さえ見えない
そんな時期だった。
「やっぱり実家がいいよね」と君は言ってたね
あの頃の僕は一人暮らしと実家暮らしのメリットもデメリットもわかっていなかった――ただ見かけだけの格好よさだけを求めていただけの――中身の薄いというか経験の浅い男でしかなかったのかな?
「「ごめん、桜は嫌いなんだ」って本当?」君はそう聞いたね。
春になって新しい友人を作るでもなく本当にぼんやりと君と会わなければ誰とも話さないような生活が続いていた
春はやっぱり嫌いで思えばちょっと前の春には終わりに絶望を感じて
その少し前の春には終わらないことにいらだちを感じて……
春を象徴する花がいつしか嫌いでしかなくなっていた……
「「ごめん、桜は嫌いなんだ」って本当?」君はそう聞いたね。
「お花見しない?」なんて言うもんだから僕はひどく困惑した
まさか「桜が嫌い」なんて言えないしと思っていたから仕方なしに――本当はもしかしたらという可能性に期待して――行くことにした
「「ごめん、桜は嫌いなんだ」って本当?」君はそう聞いたね。
やっぱりというか、君には友達が多くいることを知ったのも花見に出かけた時に知った。
僕はと言えば普段から本しか読んでいないから誘う相手もいないし、そもそもh波なんて楽しめるのか不安でしかなかったけど、それなりに楽しんでいた気がする
「「ごめん、桜は嫌いなんだ」って本当?」君はそう聞いたね。
やはり時間は流れ町の景色がピンク色から緑色に変わっていったね
それでも君と会う頻度も変わることなく、やっぱりぼんやりとした日々が続いていた
「「ごめん、桜は嫌いなんだ」って本当?」君はそう聞いたね。
「早く夏にならないかな?」なんて君は言っていたね。
「海にいきたいから」なんて笑顔で言ってたけど、「本当に季節を楽しめるんだな」って思ったくらい
「「ごめん、桜は嫌いなんだ」って本当?」君はそう聞いたね。
その日の出来事をちゃんと記しておきたい
「季節はいつが好き?」って不意に聞いてきた時があったね
「春は嫌いで夏はちょっと好き。秋と冬は寒くなるから消去法で夏」って答えたらひどく驚いてたね
「春嫌いなの?なんで」って
「ごめん、桜は嫌いなんだ」って答えるしかなかったけどそれでひどく君を困惑させてしまった気がする
今なら「人それぞれだから」なんて一言で済みそうな一言もあの頃の僕らは――悪い意味で――若すぎたのかもしれない