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第二章 皇帝候補1


「どうやら、やっと《選定者》が招集されたらしい」


 城のとある一室。

 そこには五人の人影があった。

「遅れたのは我ら竜族の者らしいですね。時間にだらしないようでは困ります」

「急なお話でしたし、すぐには無理だったのかもしれませんよ?」

「だな。陛下はいっつも不敵な笑みしか浮かべてないから理解するのは難しい」

「なんと、あんな気品に欠ける竜を褒めるなど、目が腐っているようじゃな?」

 話をしているのは各長老が推薦する皇帝候補達。


 一人目は、金髪の貴公子然とした青年。

 二人目は、眼鏡を掛けた黒髪の美人な女性。

 三人目は、幼さが残る顔立ちの青髪の少年。

 四人目は、快活そうな浅黒肌の赤髪の青年。

 五人目は、妖艶で勝ち気な銀髪の少女。


 どの竜も玉座を求める資格のある者達であり、竜族の将来を担う若者達である。


「楽しみだなぁ。ぼく、人間と話すのはじめてなんで、どんな話だともり上がるのかわからなくて。ヴェルナンさん、あったことあります?」

「遭ったことぐらいはな。でも、話したことはない。そういえば、物珍しく見られはするが結構気さくに接してくれるって知り合いの竜が言ってたぜ。イオ、何気ない内容でいいんじゃないか?」

 ヴェルナンと呼ばれた青年が、イオという少年に優しく答える。

「知り合いの竜?」

「別に可笑しくないぞ。里の外で生活する竜だっているじゃないか」

「確かにそうだけれど」

「ネロフィーネ、仕方がないさ。『彼ら』は感性がズレているようだしね」

 棘のある言い方の青年がネロフィーネという女性に話しかけた。

「コールジャッロさん……それ、ウチの長老に言わない方がいいぞ。トカゲにされる」

「わぁ、リョウヨクモギトルゾってやつですか!」

「お!正解だ!!」

 笑いながらヴェルナンが脅しにかかったコールジャッロという青年は、彼の言葉に青ざめてしまった。イオの方は純粋に喜んでいるが。

「そのようなことより、此度の宣下で代替わりすることが正式に決まったわけじゃが、そなた達、《帝》になる気があるのかの?」

「『そのようなこと』ですまないと思いますよ?エルビアンコ様」

 イオに指摘された少女姿のエルビアンコは、探るような目で他の候補者達を見据えていた。

「うーん、ぼくはよくわりません。でも、せっかくここまで来たんですし、色々とベンキョウしたいなって思ってます」

「私は様子見です」

「どんなことしてるのか興味はある」

 三者三様の答えが返ってきた。

「イオはいいとして、そなたら二人が《帝》に興味があるとは思わなかったわ」

「オーリンがどんな風に多種族を治めているのか気になる」

「ヴェルデ様の武勇伝を聞いて、机仕事も面白そうだと思ったんだ」

「……意外じゃが、ならよいわ。本気じゃないのなら邪魔はしないでもらいたいからの」

 不思議そうに呟く彼女に対し、言われた事の意味が判らずネロフィーネとヴェルナンは首を傾げた。

「わらわはなってみたいのよ、《帝》にな」

「私も《皇帝》という椅子に座ってみたいと思っている」

 エルビアンコは何てこのとのない様に言った。その後にコールジャッロも続く。

「お二人も、マツリゴトに興味があるんですね。ぼくも見習っていまのうちにまなぼうかなぁ……」

「知っていて損は無いと思うぞ。そうだ、俺も知らない事が多いから、一緒に勉強するか」

「本当ですか!?」

 ヴェルナンが彼の背中を押す様に申し出ると、イオは嬉しそうに笑い約束を取り付ける。

 その光景を見ながら、ネロフィーネはエルビアンコとコールジャッロの真意について考えていた。二人は竜の里で過激派と言われる、竜族主義の若い世代に属している。一方ヴェルナンとネロフィーネは穏健派で、赤竜帝の考えや思想に共感する中堅の世代と同じ考え方をしていた。

 若い竜が一族のことを思い行動すること自体はいいのだ。問題は、あまりにも思想が偏り過ぎているということだった。


「魅力的なもんかねぇ、《皇帝》ってのは」

 ネロフィーネが熟考していると、ヴェルナンが可笑しそうに笑う。彼は滑稽な者を見つけたと言わんばかりの、酷く楽しそうな顔をしていた。

 声を聞き取ったコールジャッロが不愉快そうに顔を顰める。

「何だい?文句があるなら言って欲しいな」

「いや、別に。だけど、一つだけ忠告しておくぜ」

 ヴェルナンが何時になく真剣な表情になった。


「下手な策は使わない方が身の為だ。不評を買いたくなければ止めておけ」


 だが、二人は面倒そうな口調で言い放つ。

「あんな女の御機嫌取りなど、どれだけ供物を捧げられても御免じゃ」

「ヴェルデに遅れは取らない。君の心配は迷惑でしかないから止めてくれ」

 もう用は無いとばかりに部屋を出て行こうとする彼らをヴェルナンは見送った。



「俺はちゃんと竜族のよしみで伝えたからな」

 彼の言葉はいつも、伝わって欲しい相手には届かない。聞いているのはいつも、ネロフィーネとイオのみ。その二人は、とても心配そうにヴェルナンを見ている。

「ヴェルナン……?」

「大丈夫だ。あの人達だって子どもじゃない、分別ぐらいつくだろう」

 半分は安心させる為、もう半分は自分に言い聞かせる為。

 しかし、彼の胸騒ぎが治まることはなく。

 この時、嵐の予感をヴェルナンは確実に嗅ぎ取ったのだった。



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