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第一章 女帝、宣誓す1

 竜紀1000年。

 《名も亡き時代》から時は流れ、大陸は五つの国に分かれていた。

 国家間の揉め事も無く良好な関係が築かれ交流も盛んに行われている。

 《光の時代》、民は平穏な日々を享受していた。


    *


 今少し肌寒い風が穏やかに吹き抜ける。

 雲一つ無い蒼い空の下には、春の訪れを告げる満開の桜に囲まれた立派な城が見えた。



「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!ウチの商品は質が良いよ〜!!」

「お客さん!こっちにも寄ってくれたらオマケするぜぇ?」

「美味いピザなら俺んとこ!さぁさぁ入った入ったぁ!!」

 そこかしこで聞こえる客寄せの声と、露店を見ながら歩く溢れんばかりの人。

 国内外からやって来た観光客が犇めき合いながらも楽しそうに祭りに興じている。

 ここはサントラル帝国、帝都セルベルク。

 アルノディス大陸、北の大地に君臨する大国の首都である。

 現在国では至る所で祝いの宴が催され、喧騒が絶えず聞こえている。


 ーー《赤竜祭》


 五ノ月の一日から三十日まで行われる、帝国最大規模の記念行事である。

 皇帝宣下に始まり軍のパレードや武闘大会などイベントが目白押し。一日では決して見尽くすことが出来ない程に力を入れている。

 特に初日は凄い。国の建国日で祭りの始まる日でもある所為で、ありとあらゆる街と村で昼夜問わずにどんちゃん騒ぎが起こるのだ。

 もはや『国を挙げての馬鹿騒ぎ』とも言えるだろう。

 しかし、どうしてここまでするのか。

 何故なら、民にとっては只の祭というわけではないからだ。


 遥か昔、アルノディス大陸全土で激しい争いが起こっていた。

 長き乱世は空に瘴気を生み、光が地上へと届かなくなった。

 次第に植物が芽を出すことが無くなり、動物が消え、水も干涸びた。

 こんな大地では生物が生きていくことは出来ない。

 滅ぶのも時間の問題だと思われた矢先、一頭の竜が現れたことで状況が一変する。

 その竜こそ、後の初代皇帝《赤竜帝》であった。

 彼の竜は同じ志しを胸に抱く者達を集め瞬く間に戦いを鎮圧していき、遂には勝利を掴み平和をもたらした。


 戦後、サントラル帝国を建国した《赤竜帝》は大陸の為に身を削って尽力したと伝えられている。そんな皇帝に『感謝と忠誠を捧げる』という目的で始められたのが《赤竜祭》なのだ。

 あの大戦から1000年。

 今年で999回目を迎えた祭は、途方もなく繰り返されてきた今でも行われている。


    *



「流石は帝都の赤竜祭、規模が違うな。今年は昨年より人が多そうだ」


 お祝いムードに沸く人混みの中、ぶつからないように歩きながら呟く青年がいた。

如何にも旅の剣士という風体でありながら、醸し出す雰囲気は何処か穏やかだ。顔立ちは端正で、背はすらりと高い。均整の取れた体付きをしており、無駄な肉が無いことが服の上からでも窺える。極めつけは赤い髪と、深い緑の目。鮮やかな色彩はそれだけで周囲から浮くのだが、彼の場合は魅力的な要素の一つとなっていた。


 先ほどから擦れ違う女性達が青年に熱っぽい視線を向けくるが、関わりたくない彼は気付かないふりをして歩き続ける。

 城の前にある広場を目指す青年は周りの雰囲気に疲れた様に肩を落とす。

「よりによって、今日呼び出すことないだろうに……」

 彼は本当なら祭りに参加する予定ではなかった。

 なのに、運悪くとある人物から催促がかかり、仕方がなくやって来たのだ。

「タイミングが悪い。宿が取れたら奇跡だな」

 予約も無しに宿へ行ったところでどこも満室なのは間違いない。

「店は一晩中開いている筈だし、明け方まで飲むのもいいな。ついでに、宣下も見れる良い店を探すか」

 皇帝宣下とは毎年祭りの一日の夜に陛下が行う行事の一つで、広場を見渡せる城のバルコニーから今後の方針について宣誓するというものである。


(にしても、俺はどうして帝都にいるんだろうな)


 事の発端である女帝の顔を思い浮かべ、青年ーーアレルは溜め息を吐くのを止められなかった。



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