[5]受 精
[5]受 精
今から300年前頃には、精子や卵子の中に、親の身体の小さい雛形のようなものが入っていると考えられていました。
そして、顕微鏡の性能もまだ悪かった時代には、顕微鏡学者達は、精子の頭部に顕微鏡的な人間が入っていると想像し、その小人の中にさらに孫となるべき小人が入っていると考えました。
このように、発生を始める前から受精卵の中に、個体の構造があらかじめでき上っているとする考えは前成説と呼ばれ、17~18世紀には多くの学者に支持されていました。
また、精子は単に卵子を刺激するものに過ぎないものであるとか、精子は寄生虫であろうなどと議論されたこともあります。
18世紀の半ばに、発生学者のウォルフ(K.F.Wolff) が、器官はあらかじめ卵子の中に存在するのではなく、発生に伴なってつくられていくこと(後成説) を明らかにしました。
現代では、精子核と卵子核の合体によってつくられた個体の未来を決める設計図である遺伝子にのっとって、個体が形成されていくと考えられています。この精子核と卵子核の合体が受精です。
膣内に放出された精子が、子宮脛管粘液を貫通し子宮腔を経て卵管に到達し、卵巣の成熟卵胞から放出された卵子と出会います。1個の卵子に対して、数百個の精子群が相対するのです。
精子は、卵子分泌物質にひかれて卵子周囲に集まると考えられており、精子が雌性生殖器内に一定時間あって受精能を獲得しなければ受精は起こりません。
最終的には1個の精子が卵子の透明体を貫くと、帯反応が起こり次の精子は侵入できなくなり、卵黄膜をへて卵黄実質内に入り込むのはその唯一個の精子で、精子核と卵子核は接近し、ついに融合が起こって受精は完了するのです。
受精はふつう、同種の動物の卵子と精子の間のみで行われ、種の独立を保っていますが、時には異種の動物間でも受精が起こることがあります。
しかし、精子は卵子内に侵入しますが、卵子核と融合できずに退化してしまったり、一時融合しても後に排除されてしまったりします。
例え融合後もうまく発育し成体にまで育っても、その生殖能力は欠如し、その個体は一代限りで子供を産むことはありません。
受精後6~7日で受精卵は子宮内膜内に埋没し着床します。そして急速の発育をなし、約38週で成熟児となり母体より娩出され、独自の生命体となるのです。
生殖は、生命体の、有限でありながら無限であるという、一見矛盾した性質を併存ならしめています。
すなわち、成長性をもつものは、必ず死滅して行くものですから、そこに繁殖性が付与されなければ、一代でその生命は途絶えてしまうのです。
この生殖は、雄雌の二性の分立と合一によって営まれ、この回転運動が無限に続いていくのです。
自然界には、生物、無生物に限らず、陽性と陰性の二性が相対的に存在し、森羅万象は、その二性の分立と合一という回転運動により、永続性をもって運行しているのです。