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人生の意味論  作者: いのうげんてん
3章 生 殖
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[4]分立と合一

[4]分立と合一


 精子と卵子が合体(受精)した時に新しい生命体は始まります。


 精子、卵子ともに合体する以前にもそれ自体は生きています。しかし、それが合体してからは全く新しい生命体として誕生するのです。


 これを免疫の面からみてみるとよくわかります。


 免疫とは、生体の防禦性で、外来からの異物に対して生体が抵抗力をもち、それを排除しようとする働きです。


 昔は、この免疫を、一度ある感染症、例えば麻疹(はしか) などにかかれば二度とかからないというような感染症に関連した現象とされていましたが、今から20年前頃、臓器移植がさかんに行われるようになってから、拒絶反応という形で認識されるようになってきました。


 すなわち、動物は、自分の体をつくっている物質と、そうでない物質とを見分ける能力を備えていて、他の物質が入って来たらそれを取り除こうとする力をもつのです。


 人から人への移植を同種移植といいますが、同種移植は、たとえ母と子といえども一般的には成立しません。


 ただ血管成分に乏しいため免疫反応が誘発されにくい角膜移植とか、提供者と受容者との間の綿密な型合わせや、術前術後の強力な免疫抑制療法など厳密な管理によって、かろうじて腎・心の移植がなされているに過ぎません。


 最近、免疫学的に見た妊娠現象が注目されています。


 精子、卵子ともに未受精の時には、その個体の一部であって、決して個体にとっての異物としては取り扱われません。ところが、受精した後の胎児は母体にとっては移植片と同じとみることができます。


 すなわち、妊娠とは同種移植と同じなのです。免疫学的理論からすれば成立しないはずの同種移植が、10ヵ月間成立するのです。


 このメカニズムを研究することにより大きな障壁につき当っている同種移植にとって、有意義な情報を提供してくれるのではないかと期待されています。


 このように、精子、卵子は、未受精の間はその宿主の一部ですが、受精後は一生命体として宿主からは独立性をもつようになります。


 それが何らかの機序によって、母体から拒絶されることを免れ子宮内発育をし、分娩後初めて母体から独立した別個の生命体として存在するようになるのです。


 [3]性の決定でも述べましたように、この精子、卵子の生殖細胞は、減数分裂により半数の染色体のみをもちます。これが受精により合体して、親と同数の染色体にもどるわけです。


 すなわち、親の染色体が二つに分立して、再び合体して子の染色体ができ、新しい生命体が誕生するのです。生命体はこの連続によりその個体を存続させています。


 また、受精前の精子、卵子それ自体は、中性的存在です。卵子は将来男子にも女子にもなりえます。それが受精により性染色体がXYかXXに決定されることにより、その受精卵の性の分化が始まるのです。


 生殖器も発生初期には、男女中間の形をしており、発生がすすむにつれて分化し、男性器、女性器に分かれていきます。


 従って、その途上において例えばホルモンの異常が起きたりすれば、男子であっても女性器が発生し、またその逆も起こりえるのです。


 副腎性器症候群という病気があります。これは、副腎皮質のステロイド生合成経路が異常となり、副腎由来の性ホルモンが過剰に分泌される結果、性徴に異常を来たす病気をいいます。


 そのうち最も頻度の高いものは21-hydroxylase欠損症で、21-hydroxylaseという酵素が欠損するため、グルココルチコイド、ミネラロコルチコイド両者の生合成が障害され、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌が亢進し、副腎の過形成を来たし、dehydroepiandrosteroneが大量に生産されて男性化の徴候が促進され、女児では生殖器の男性化が起こるのです。この異常は、発生途上の胎児のみでなく、分娩後にも起こりえるのです。


 このように、中性的な精子、卵子が、男女に分立し、それぞれの個体が再び中性的な精子、卵子を産出するのです。


 また、生殖は、染色体から見ると、46個の染色体が23個ずつに分立し、受精により再び46個に戻る分立と合一の過程と見なすことができます。


 このような分立と合一の過程は、生殖をその典型として、自然界に広く認められる現象です。


 例えば、電気現象をみてみると、電気の実体は電子です。物質は原子からできており、その原子の中央にある原子核は正の電気を、まわりを回る電子は負の電気をもち、ちょうどその分量が等しいため、その原子が集まってできた物質は中性です。


 しかし、その電子が奪われるとその物質は電気的に正となり、逆に電子をもらった物質は負となり、中性は分立して正と負になります。


 この電位差をもつ二極間に導線をつなげば、その自由電子が運動して電流が生じ、電気エネルギーは機械的、熱的、化学的仕事をなして電気的に中性に戻ります。


 また、水を例にあげると、地表の4 分の3 を占めている水は、蒸発して水蒸気となり地表から分立して空中に上昇し雲となって、陸地の半分くらいをいつもおおっています。それが再び雨となって地表に降り注ぎ、水圏に戻るのです。


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