[4]繁殖性の完成
繁殖性の完成とは、成人した男女が結婚し子供を産みふやすことによって、家庭を完成させることをいいます。家庭の構成員は、夫、妻、子供です。
前にも述べましたように、家庭の意義は、夫、妻、子供がそれぞれ相対する位置に立って、相互作用し、親子の愛、夫婦の愛を実現し体得するところにあります。
そして、子供が成人し結婚することにより家庭をもつにいたって、その家庭は完成するのです。
従って、家庭環境の良否は、その子供の品性で判定できるといえるのです。
心身医学の池見博士が、「私は、まえまえから真に妻となり母となるだけの人間的な成熟度に達していない女性たちが、結婚生活にはいり、子供をもうけるところに問題があると考えています。ここにいう人間的な成熟の度合いとは、どこまで『まことの愛』を発揮しうるかによって決まるものです。これは、夫となり父となる男性たちについてもいえることです」と述べている通りです。
そして、子供が成人した時に、親は親としての義務を果し、自らの親の立場を完成させたといいうるのです。なぜなら、親は、自らが完成していなければ、子供を育む能力をもちえないし、一方子供はその親の愛に反応しながらその個性を啓発するからです。
従って、繁殖性の完成は、それぞれの構成員が、夫婦の立場、親子の立場で、夫婦の愛、親子の愛を体験し、子供は親の愛を受けて自らの個性を啓発させ、親は、子供を愛し育むことにより親の愛を体得し、義務を果して親の立場を確立することにより、各々の構成員の立場が完成された時、成就されるのです。
結婚は、以上の事を考慮すると三つの意義をもっているといえます。
その第一の意義は、陽陰の二性的存在である男子と女子が、夫婦の愛で一体となり、男子でも女子でもない中性的存在(すなわちこれが人間です) となり、ちょうど鍵と鍵穴のように男子も女子の性質を、女子も男子の性質を体得し、互いに不足なところを相補して人格を確立するのです。
第二には、繁殖性の実現、すなわち、有限なるものが子孫を繁殖することにより無限性を確保するのです。
第三には、産んだ子供を育てることにより、親の愛を体験し、体得するのです。
このような意義をもつ結婚は、人間の完成にとって不可欠のものであり、そうであるからこそ、慎重でなければならず、かりそめにも、一目惚れ的感覚ですべきものでは決してありません。
最近、ロッカーに、産んだ嬰児を捨てたり、逆に子供が親を殺害する事件が増加していることは、実に寒心に耐えないことです。
これには、人間本来の生き方、あり方を示す倫理教育と、心情を啓発する情操教育による他に解決策はないといえます。
最近の日本の結婚、離婚の統計を見てみますと、昭和30年代までは、ほぼ減少の傾向を示していた離婚が、40年代からは、顕著な増加の傾向に転じ、1999年の離婚率(人口千人当たりの離婚件数)は2.00(厚生省の人口動態統計)と、初めて2の大台に乗りました。
離婚率ではフランス(1.90、96年)を追い越し、ドイツ(2.14、96年)、オランダ(2.18、97年」)と肩を並べました。
米国は4.33(96年)と、日本の2倍強もの離婚率です。家庭内でも、個人のプライバシーを尊重する余り、妻が夫に会ったり、子供が親に会うのに前もって約束を取らねばならないような現状があるといわれています。
これでは、人間にとって最も大切な愛は崩壊してしまうし、その中で育てられた子供が非行化して行くのは当然の帰結ともいえましょう。