[3]人間の成長性
[3]人間の成長性
成長性とは、時間的経過に伴って生命体が成熟に向って変化することですから、人間も時間性を経て、自らの個性を成熟させます。
何物も誕生当初からその個性体として完成しているものはなく、必ず時間性を経て完成体となります。例えば、植物が種から芽を出し、花を咲かせ、実をならせるには時間性が必要です。
人間の場合、前述したように、受精卵が母体の子宮内膜に着床して38週して成熟児となり、1個体として誕生します。そして、小児科学で分類されているように、新生児期、乳児期、幼児期、学童期、青年期を経て成人になるのです。
身体的には、男子は生後15~17才で成熟し、女子はそれより2~3年早いといわれています。そして、男子は男子らしさ、すなわち骨格筋肉の発育、声変わり、頭髪の生え際の後退などが現われ、一方、女子は女らしくなります。すなわち、乳腺が発達し、肩巾が狭く骨盤の広い骨格となり、皮下脂肪が多い体型となります。
身体は、植物が水分、温度の環境条件が整えば、発芽し花を咲かせるのと同様、栄養、健康、運動などの適切な管理さえ行われれば、自然に成長します。
ところが、精神機能は、ヤスパース(K.Yaspers) が精神病理学で、「動物は、自然によって決められ、自然法則で目的にいたる自動的なものをもっているが、人間はその上に到達が自己自身に委ねられた一つの規定を備えている」と述べているように、自らの成長に努力を要するのです。
すなわち、方向性を誤れば、その個体は非行化してしまう危険性をはらんでおり、ここに教育の重要性が強調されなければならないゆえんがあります。
教育とは、人間を教え育むのですから、人間とは何かを明確にせずして教育のあり方を論ずることはできないといえましょう。
世界人口70億(2011年)といえども、全く同一の個性はありえません。各人がもって生まれた個性は、誕生時には可能性としての素質です。
それを自らの努力と親の愛、 教師の教育により啓発して初めて、個性は成熟するのです。動物は、程度の差こそあれ、自然法則的に成長しその個性を成熟させますが、人間はそれに努力性、責任性が伴うのです。
この個性の成長の基本的な場が家庭であり、この家庭は次の繁殖性と深い係わりをもっています。
ところで、人間の寿命は一体どれほどのものでしょうか。
フランスの自然科学者ビュッフォン(T.Buffon)は、人間のような脊椎動物の天寿は、発育に必要な年数の6倍くらいであろうと述べています。人間の発育期間を20才とすれば、天寿は120才となります。
進化論を唱えたダーウィン(C.Darwin)は、180才~200才であろうともいっています。
現在「150才以上」という説が多くの学者によって支持されています。ちなみに、2009年現在の日本人の平均寿命は、男子79.2才、女子86.2才です。
現在、寿命をコントロールしているものとして遺伝子が考えられています。人工妊娠中絶などでとり出した胎児の細胞を生体外で培養すると、細胞は、2、4、8、というように分裂により倍化していきますが、全量が倍になったところで2つの培養器を分けてさらに育てて行きます。
このように培養を続けて行けば、無限に増殖して行くかというとそうではなく、20代くらいまではどんどん分裂して増えて行きますが、40代から60代くらいになると分裂能力が衰えて結局細胞は死んでしまいます。
これが胎児の若い細胞では、平均して50代くらいまで増えますが、細胞が年をとるにつれ分裂能力は減少し、早く死んでしまうのです。
このようなことが起こる機序として、テロメアが考えられています。
テロメアは、遺伝情報を含む染色体の末端にあるDNAの構造体で、靴ひもの先についているプラスチックのキャップのように、染色体を保護しています。今では、細胞の寿命は、このテロメアによってコントロールされているらしいことがわかっています。
成長した細胞では、テロメアの成長をつかさどる酵素の働きが阻害され、テロメアは成長できなくなってしまいます。
そのため、正常な体細胞では、細胞が分裂するたびに、テロメアが短くなり、それがある長さ以下になると染色体の安定が保てなくなって、細胞分裂が止まってしまうわけです。
また、活性酸素も一要因と考えられています。
活性酸素は、分子構造が不安定な状態にあるため、化学反応を起こしやすく、遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)や細胞を破壊し、老化や病気を引き起こす原因になると考えられています。
動物は体の中に、活性酸素の働きを抑制する酵素をもっていますが、科学者たちは、ついにこの酵素を生成する遺伝子の特定に成功したのです。
キイロショウジョウバエに遺伝子操作を行い、この遺伝子の活動を抑制すると、ハエの寿命は80~90%も短くなりました。逆に、この遺伝子を活性化させれば、寿命が延びることがわかったのです。
さらに、栄養過多が寿命を短かくする要因だともいわれています。
米老化研究所(NIA)は1987年、アカゲザルを使ってカロリー制限に関する研究をスタートさせました。サルを2つのグループに分け、一方には普通の食事を与え、もう一方にはカロリーを3割カットした食事を与えて、経過を観察したのです。
カロリー制限が寿命にどう影響するかは、サルの寿命を待たねばわかりませんが、カロリー制限をしたグループにはすでによい影響が出ています。
カロリー制限がどうして寿命を延ばすのかについては、いくつかの説があります。最も有力なのは、活性酸素を抑制する酵素の量が増えるという見方です。