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エピローグ ~任務完了、あるいは次の町~

 この世界の暦で本日の日付を表すと『夏の第84日』ということになるらしい。


 つまりは晩夏、秋も近づいてきた季節である。


 ラーダン村には、明るい雰囲気が満ちていた。


 たわわに実った地母神の恵み。


 雨不足で一時は収穫が危ぶまれたが、今年の豊作は間違いない。


 それもすべて俺のおかげである。


 俺が村に来て水路を作り、強盗騎士を退治し、森を切り開いたおかげ。


 ちょっと嘘。


 俺たち(・ ・ ・)のおかげ。


 リッシュにピートにスーアインに、それに俺。


 それくらい自負してもいいだろ?




 俺たちは収穫の祭りが始まる前に村を出た。


 一本マストの小型帆船をチャーターし、川を下る。


 これ以上村に残っていたら、地域あげての歓待だの、リシー家へのお呼ばれなどがあっただろうから、黙って逃げてきたのだ。秋を迎えてしまうと、作物の輸送で船が混むということもある。今ごろ村は大騒ぎになっているだろうな。


 のんびりした船旅だが、川を下っていることもあって、船足は速かった。


 船乗りたちは良い風を捕まえるべく帆の操作に余念がない。


 暇な荷物である俺は狭い船室に転がっていた。謎猫が俺によじ登って遊んでいる。


「んで、この船はどこに行くんだ」


「ヴィースに行きます」


 魔法関係であろう本を読みながら、リッシュは俺の問いにそう答える。たしかヴィースとはこの大陸の中央にある大都市の名前だったはずだ。


「町でなにをするんだ?」


「外見に問題があります」


 急に関係ない話をされて、俺は自分の身体を見る。


「そりゃあるかもしれないけどさ」


 俺が着ているのは、いまだラニーさんのローブだった。


 最初は足首まであった裾は、ミニスカートのワンピース状態に。


 セクシーな足がにょっきり伸びている。


 この世界ではもう少し慎み深いファッションがトレンドなのかもしれない。


「〈巨人男爵〉を倒したのは、ピートであると村のみなが思っていました」


「ん? そうだったな」


 おっさんは正確な情報をつかんでいたようだが、村人たちはあまり信じていなかった。


「それはあなたが目立たないからです」


「目立たない?」


「剣と鎧と盾を作りましょう。そうすれば、あなたも英雄らしく見えるはずです」


「なるほど。まず格好からか……」


 でも、剣は使いこなせないし、鎧は重いから着たくない。張りぼてみたいなやつで充分かもしれない。


「逆です。すでにあなたは英雄で、格好をそれにあわせるだけです」


「英雄なんて呼ぶのはあまりに早すぎるだろう。俺はまだなにもしてないぜ」


「あなたは英雄として生まれたので、最初から英雄です」


「あ、そう……」


 途中で休みを入れつつ、船は進む。


 船乗りたちは最高の風が吹いたと言っていたが、もしかしたらリッシュが魔法で風をいじっていたのかもしれない。


 丸二日経ったあたり小型帆船は大河に合流する。


「この川がロティア。古語で大河を意味します。文明はロティアから始まりました」


 それは川というより……湖だった。


 対岸がよく見えない。いったい向こうまで何キロメートルあるんだろう。


 流れがさらにゆったりしているので、下っているのか上っているのかもよくわからないぞ。


「この大量の水はいったいどこから来たんだ」


「大陸中です。ありとあらゆる川がこのロティア本流に合流します。大陸の西部は山岳地帯。冬には雪が降り、春の雪解け水がロティアに流れ込みます。大陸の東部は森林地帯になっています。春から夏にかけて雨が降り、農地を潤します」


 リッシュが身を乗り出して水面を眺める。


「ずいぶん水がきれいですね」


 これまで通ってきた支流は水の色が濃かったが、ロティアは透明である。合流地点で水が混ざらず、二色に分かれているほどだ。ちなみに俺の目は偏光レンズのようになっており、水中の小魚の群れがよく見える。


「これはよくありません」


「なんでだよ。水はきれいなほうがいいだろ」


「人間の生産活動が減っている証拠です。つまり文明の衰退を意味します」


「ああ……」


 またそこにつながるわけか。人類の活動が減って自然が回復するというのは、地球に対する皮肉のように聞こえるよ。




 そこからさらに一日。


 文明が衰退したとは思えぬほど多くの船が行き交い始めたころ。


「あれがヴィースです」


 リッシュが前方の水平線を指さす。


 水平線があるってことは、この世界が地球のように球形の惑星であることの証明だが、それはともかく……


「なんだありゃ」


 俺は絶句する。


 それ(・ ・)がなんなのか俺には理解できなかった。


 川の正面に白い壁がある。


 そうとしか見えない。


 船が近づくにつれてその全容が見えてくる。


 あれは……橋なのだろうか?


 対岸まで何キロもある長い橋。


 いや、単なる橋にしてはおかしい。


 なぜなら――上に建物があるではないか!


 俺は気づく。


「……もしかして、あれがヴィースなのか?」


 橋の上に都市があった。


 川に巨大な板をかぶせてその上に建物を建てたとでも考えればいいだろうか。


 巨大な水上都市。


 それを俺は見ている。


「ヴィースの水上地区。全体のほんの一部ですよ」


 リッシュはなんてことなさそうに答えた。

(現在の身長:250cm)



 ひとつの冒険を終え、さらに彼らの旅は続きますが、ここでいったん筆を置きます。


 以下、おまけです。

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