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出会いの初雪別れの桜  作者: 初雪
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出会いの初雪

すんません、さぼってました。

今日初めての雪が、初雪が降った。

ちらちらと、灰色一色だった曇天を純白の粉雪がそっと彩る。

寒さにかじかむ掌に自分の息を吹きかけ温める。

(今年の初雪はえらく遅かったな)

そんなことを考えながら俺、冬月(ふゆつき)桜花(おうか)は寝起きの体に鞭打ち、自分の通う学校《白鴎高等学校》へと続く一本道を歩いていく。

その道中でも雪は降り続け止むことを知らない。

降っても降っても、一向に積もる気配のない雪につい自分を重ねてしまう。

いくら努力を積み重ねようといつかは解けて、消え去ってしまう、重ねるまでもなく、この雪ははまさしく自分を表しているのではないか、と自虐的に笑う。

今かよっている白鴎高校に受かるために必死になっていた頃の自分が目の前に現れたら、きっと俺はその姿を見て嘲笑いこう言うだろう。

『努力なんかしてなんになる、どうせいつかは来る終わりに脅えることになる、努力なんてものは普通の奴ができることだ、目をそらすな、普通ではない自分から。』と。

俺は神様なんてものは信じない。

だっていやじゃないか?

どんな努力も。

どんな喜びも。

どんな悲しみも。

どんな出会いも。

どんな経験も。

ありとあらゆる全てが、神様の作った運命、その一言で何もなかったことになる。

それにもしいたとしたら、俺は神を呪う。

何が楽しくて()んだ俺を未だにこの世にとどまらせているのか。

死んでいるわけでも、生きているわけでもないこの体。

たとえ血は巡れど、俺の体は何も感じない。

いつ来るかもわからない終わりに脅え、目の前にあるのは、暗く閉ざされた道。

そうして俺は腐っていた。

いつまでも降り続く雪、俺の肌に触れては解けていく。

ああ、自分もこの雪のように、今すぐ解けて消えることができれば、どれほど楽になるのだろうか。

頭の中をめぐるのはそんな考えのみ。否が応でも考えてしまう。

早く居なくなってしまいたいと。

気が付けば目の前にあった白鴎高校。

誰もいない校門を一人でくぐり、自分の教室へと向かう。

扉を開け、中に入るも誰もいない。

誰もいない教室を見回し、確認するように呟きを漏らす。

「早く、きすぎだな。」

なぜかはわからない、ここへ来る途中、しばらく考えることをやめていた頭が久しぶりに動いたのも、理由は同じことだろう。

とにかく、ここへ、この場所へ来なくてはいけない気がした。

ただ、それだけの理由。

(あほらしい、帰って寝よう。)

自嘲気味に鼻を鳴らし、不意に窓の外へと視線をやる。

その先に何の変哲もなく広がる屋上。

誰もいないはずの屋上に一人、だれかが佇んでいた。

(誰だ、あいつ。こんのくそ寒い中、よくも屋上なんて行くになれるな。)

そんなことを思いながら達観していると、そいつは動きだし、フェンスを乗り越えようとする。

頭の中を自殺の一言が一瞬埋め尽くしかける、しかし。

その光景を見て、自分の背中を冷やりと、何か冷たいものが下っていく感覚を感じた。

元来、桜花の性格はとてもドライでたとえ目の前で自殺しようとする奴がいても、『ふーん、死にたきゃ勝手に死ね、でも俺に迷惑はかけんな。』と面と向かって言えてしまうほど冷めている。

今目の前で起きていることも、『うわ、メンドくせぇ、とっと帰ろ。』いつもならそういって面倒事は全力回避にする筈なのだ(まあそんな場面に直面したことはないが・・・)

そんな自分がなぜか焦っていることに桜花は気が付かない。

ただひたすら、屋上に向けて走る。

ろくに授業を受けず、部活もクラブもしてこなかった桜花の肺胞は、一瞬で悲鳴を上げ、ゼイゼイと肩で息をする。

それでも、桜花は止まらない。

いや、止まれないといった方が正しいのかもしれない。

屋上にいた人物がフェンスを乗り越えようとしたその時。

ほんの一瞬だった。ほんの少し前に出てきただけだった。

それでも桜花の目にはしっかりとそれが映った。

大切な人との、約束の証。

屋上にいた人物の・・・彼女のカバンについていた、彼女以外、だれも持っているはずのないもの。

もう、目の前には屋上のドアが差し迫っている。

もう会えないと思っていた、その人に会える。

それだけが今の彼を、冬月桜花を、突き動かしていた。

今の桜花には彼女のことで埋め付されている。

彼女に会ったら、何を言うかは、もう決まっている。

『ごめん』その一言には何よりも差し置いて言いたい、言わなくてはならないこと。

目の前の障害物を蹴り飛ばして、屋上に飛び出す。

屋上の端にたたずむ少女を見て、一気に心臓が高鳴った。

肩まで伸びたストレートの髪が、吹き付ける風に弄ばれる。

そこから除く真っ白な肌。

小柄な身長。

その全てが、彼女だと・・・春風雪花(はるかぜゆきか)だと確信させた。

「雪花!」

思わず叫んでしまう。

ドアを蹴破った音にも気づかなかった彼女がゆっくりと、振り向く。

「雪花・・・・」

ようやく、伝えることができる。

完全にこちらを振り向いた彼女の顔を見て、一瞬喜びで大声を上げてかけて行ってしまいそうになった。

だが、ちがった。

彼女は違った。

雪花では、なかった。

「誰だ、お前は。」

少しどすの利いた声で少女を問いただす。

彼女の顔が喜色に染めるとともに、彼女は口を開き、告げる。

「ふふ、やっぱりそうだよね、桜花は()()()()()にゾッコンだったもんねぇ、私のことなんて覚えてるはずないか。」

少し残念そうに、それでもやはり何処か楽しそうにそう告げる。

「お前っ!なにいって・・・」

そういいながら、桜花はあることに気が付き、自分顔から血の気が引いていく。

「お姉ちゃんって、まさか、お前・・・・」

それはあまりにもありえなさすぎる。

「あ!気づいてくれた~?うふふ、そう!私の名前は・・・春風(はるかぜ)琴音(ことね)、春風雪花の妹だよ。」

尻下がりに小さくなっていく言葉。

そして彼女は小さく、言葉を紡ぐ。

「やっと、会えたよ、裏切者。」

その言葉は、俺の心を砕くのに十二分のモノだった


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