夢の前
初めまして。村水佳帆です。今回が私の初めての小説です。読みにくかったらすいません。この小説がだれかの心に響くことを祈ります。
どうしてあの時、あなたは私を選んだの?
私が初めてあなたに出会ったとき、あなたは真摯に楽譜に向き合っていた。眼鏡の奥の瞳がキラキラと輝いていた。高校1年生、まだ慣れない音楽室。合唱部の仮入部に初めて行ったとき、あなたも私と同じく仮入部に来ていた。男らしい低音を響かせて歌うあなたの声には芯が通っていた。私の声にはない、何かを感じた。もしかしたら、その頃から私はあなたのことが気になっていたのかもしれない。
その後、私もあなたも合唱部に入部した。だけどなかなか仲良くなれなかった。仲良くする理由やタイミングがなかったからかもしれない。ずっと私たちは互いをただの部活仲間として見ていた、高校2年の春までは。
転機は3年生が引退してからだった。私は会計、あなたは副部長になった。そうして、だんだんと接点が増えていった。
ある日、私たちは音楽室で初めて、二人きりになった。
「もうすぐ文化祭だね。」
「クラスの劇には〇〇君も出るの?」
「一応出るけど、大した役じゃないし…正直見られたくないなぁ。恥ずかしい。」
「え~、そんなこと言われたら逆に見たくなっちゃうなー」
「なんでー?嫌だよ、見に来ないで!」
「なんでよ!いけずだなぁ~!」
たわいもない会話だった。だけどびっくりした。あなたとしっかり話す機会は、今までほとんどなかった。それなのに、まるで何年も前から仲が良かったかのように、会話が弾んだ。
その日から何度も、私はあなたと会話したことを思い起こした。その瞬間は、私が今まで体験したことのないような、ふわふわした感覚に包まれた。あの会話を思い出すたび、私の心は甘い蜜のようにとろけていった。それはあなたへの思いを実感した時でもあった。
でも恋は進展しなかった。そしていつか気づいた。あなたは私のことを好きになる気なんて全くない、と。
私は潔く諦めることにした。だけど、胸の奥のあなたへの思いは捨てることができなかった。
そうして時は流れ、高校3年を目前に控えた冬。
この頃から、友達など私の周りはだんだんと受験モードになっていった。私も早く、受験勉強に向き合わなければならなかった。
私は覚悟を決めた。「フラれよう」そう思った。いつまでもあなたへの思いをくすぶらせているわけにはいかなかった。
フラれるためだから、別に何でもよかった。メールをあなたに送った。
「話があります。返信ください。」
しばらくして、返信が来た。
「返信、遅くなってすいません(T_T) なんでしょう?」
私は、ゴクリとつばを飲んだ。意を決して、携帯に思いを打ち込んだ。
「単刀直入に言います。私、あなたのことが好きです。」
送信ボタンを押した。その指は震えていた。
数時間が経ち、ようやくあなたから返信が来た。
「…いきなりでびっくりしています。返事は少し待ってください。すみません。」
この時点で、私はもう無理だと確信した。それからメールが来ることなく、朝を迎えた。
ちょうどその日の6限目、たまたま合同授業であなたのクラスと一緒になってしまった。私は気まずくなって、あなたと目を合わさないようにした。だけど、あなたのほうから声をかけてきた。
「ホームルームが済んだら、俺の教室の前に来てほしい。」
「うん…。」
一気に私の心拍数が上がった。
ホームルームが終わって、約束通りに私はあなたの教室に向かった。しばらく待ってると、あなたが出てきた。
「遅くなってごめん。」
「あっ、昨日は…なんか変なメール送ったりしてごめん。」
「いや…、別に。…返事だよね。」
「うん。」
「…よろしくお願いします。」
あなたはぺこりと、頭を下げた。
「…え?」
「だから、よろしくお願いします。」
そこでようやく、その言葉が告白の返事だと気がついた。
「あっ、こちらこそよろしくお願いします!」
私もあわてて、頭を下げた。
まさかOKされるとは思ってなかった。そのせいで、OKされてものすごく気が動転してしまった。一緒にロッカーまで行けばよかったのに、私はその場であなたを見送ってしまった。
そこで一緒に帰っていれば結果は違ってたかもしれない、と今になっては思う。
その晩、私は眠れなかった。あなたが私の初めての彼氏になったのだ。これから私とあなたで作り上げていくであろう希望に胸を膨らましながら、私は眠れぬ一夜を過ごした。
だが、興奮はそこで終わった。あの日の後、あなたから、メールは一切来なかった。あなたから会いに来ることもなかった。あなたは自転車通学、私は電車通学、一緒に帰ることもできなかった。
そうして、ほとんど恋人らしいこともできぬまま、春休みを迎えた。私はあなたにメールを送った。
「春休み、どこか二人で遊びに行こう!」
返信が来た。
「そうだね。考えておく。」
その文面はなぜか、グンっと重く感じられた。
その後半月近く、あなたから返信は来なかった。私は怖かった。このままデートの話がなかったことにされるのではないかと思った。だけど、どうすることもできなかった。私はあなたからのメールを信じ、待ち続けた。
そして遂に、あなたからメールが来た。
「3月〇日はどうかな?」
遂に来た。私は慌てて返事を送った。
「大丈夫!その日なら空いてるよ。」
そうして、あなたとのデートが決まった。