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ラスボス・クエスト  作者: 中高下零郎
Lv2.哀れな勇者を救え
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Lv2.哀れな勇者を救え 第一章

「眠い学校休みたい」

「アタシの目の黒いうちはサボリ癖なんてつけさせないわよ」


 登校中、幼馴染の横で本日七回目の欠伸をかます俺。無理もない、昨日は三人でゲームをして盛り上がり、ついついエンディングまでプレイして気づいた時には夜が明けてしまったのだから。


「いやあでも本当に眠い。そうだ、今日は保健室登校にしよう」

「……一応聞いてあげるけど、何のゲームやったの?」


 流石は俺の幼馴染。俺にゲームの話を気持ちよくさせて好感度を稼ごうとはやるじゃないか。けどなあ、俺は今恋愛どころじゃないし、本当に眠くて疲れてるんだよ。


「よくぞ聞いてくれました! タラコクエストって言うんだけど、実は俺が初めてプレイしたゲームなんだよね。色々あって久々にちゃんとプレイしたくなって、物置から引っ張り出して徹夜でプレイしてたんだよ。昔のゲームだからボリュームはそんなにないんだけどさ、流石は天下のタラクエシリーズだよね、BGMとかシナリオとか戦闘バランスとかもう完成され尽くしてる感じ? 俺もタラクエに敬意を払って稼ぎ過ぎずにラスボスであるタラコ大魔王とギリギリの死闘を繰り広げたんだけどね、後一発でやられてしまうって時にクリティカルヒットが出て勝ったんだよ、そして忘れちゃいけないのがエンディングでね……」


 まあ、語るけどね。タラコクエストの世界から帰還した俺は、もう一度きちんとこのゲームと向き合いたくなってラボちゃんと女の子というギャラリーの前で数年ぶりにプレイし始めたというわけだ。ゲームの世界から女の子を連れだしてしまったから、ひょっとしてゲームから女の子がいなくなっているのではないかと思ったが、そんなことはなかった。そしてあの時は稼ぎ過ぎてしまったけれど、今回は純粋にゲームを楽しむことができた。正攻法でプレイしてみてわかる、タラコクエストの素晴らしさ!


「あ、アタシ日課のランニングしないといけないから、それじゃ」

「ちょ、話はまだ終わってない! これから続編との繋がりの話なのに」


 最初こそ聞きに徹していた黄龍だが、途中から嫌になったのか俺を置いて学校まで走り去ってしまう。おかしい、あいつは俺に惚れているから『ふふ、大好きなゲームの話をする時のこいつの顔、活き活きとしてて好きだな』とか思っているはずなのに。ていうか最初にお弁当をくれた日以来お弁当を貰っていないのだけど、こういうのって普通毎日くれるもんじゃないのか? そうか、ツンデレのツンか。でもあいつ格闘少女だから、デレる時は暴力系ヒロインになってしまうかもしれない。照れ隠しで殴られるのは嫌だなあとギャルゲ脳に汚染された頭のまま学校へ向かう。


「うっす雨宮。おい見ろよこれ、ジャミ2のこのイベント」

「テンプレ★ナイツのタイムアタックか……確か俺の記録は四十数時間だったかな」

「四十数時間!? 俺まだ二十時間くらいしかやってないけど、進行度1割だぜ? つうかもうクリアしてたのかよ」

「ま、天才ゲーマーですからね、くっくっく。こりゃあ雑誌にデータ送って、豪華賞品貰うっきゃないっしょ!」


 ゲームのためなら学校を休むことも厭わない俺だが、だからといって学校で孤立してるわけではない。男子高校生の大半はゲーム好き、そして俺はカリスマ的なゲームセンスを持つ男。むしろ人気者さ!


「つうかよー、今両親家にいないんだろ? どうなんだよ、あっちの方は」

「あっちって何だよ」

「とぼけんなよ、網野ちゃんだよ。幼馴染がいて、両親が不在……完全なエロゲ展開じゃねえか。網野ちゃんお前に惚れてるっぽいし、ヤってんだろ?」


 教室の片隅、ファッションの話で盛り上がる女子グループの中、ファッションに詳しくないのでうんうんと相槌を打つだけの哀れな幼馴染を見ながら、にやにやと下品な顔をするクラスメイト。やれやれ、男子高校生の大半はこういう話題が好きだな。俺はちっちっちと指を振ると、大人っぽい表情でそいつに言ってやる。


「3P……さ」

「なっ……!?」



◆◆◆



「ただいま」

「おかえり。丁度よかったわ、チーム組みなさい。この子強すぎて相手にならないの」

「おかえりー」


 家に帰り自分の部屋に戻ると、ラボちゃんと女の子が対戦アクションゲームをしているところだった。俺の家に住みついたこの二人、ゲーム世界の住民だからなのかはわからないがゲームが好きだ。まあ俺としては大歓迎なので、こうして仲良く3人でゲームをして楽しんでいるわけだ。


「ラスボスの精霊の癖にゲームが弱いってなんなのさ」

「うるさいわね、私は所詮ラスボスなのよ、やられる前提の存在なのよ、ふん」

「二人まとめてかかってきなよ、ハンデ9つけたって俺には勝てないけどね」


 朝は幼馴染と一緒に学校に行って、昼はクラスメイトとゲームや恋の話で盛り上がり、夕方と夜は居候とゲームを楽しむ……素晴らしい日常じゃないか。こんな日常がいつまでも続きますように……


「ところでラボちゃん、タラコクエストの世界から帰ってきて3日経つけど、次の世界にはいつ行けばいいの?」

「……あ」


 俺としたことが当初の目的を忘れて日常を楽しんでしまった。この物語は決してゆるふわハーレム物じゃない、ゲーマーが真のゲーマーに昇華するべく、ゲームの世界を旅するハードボイルドな物語なのだ。だというのに俺を導いてくれるはずのラボちゃんはさも今まで忘れてましたみたいな顔をする。


「え、何、ラボちゃんひょっとして忘れてたの? 俺も人の事言えないけどさ」

「い、いや、その、忘れるわけないじゃない、私、ラスボスの精霊だし。そそそそんなことより、もっと大事な事があるでしょ!」


 完全に忘れていたらしく、赤面しながら女の子を指差すラボちゃん。


「この子の名前よ! あなたが連れて来たんだから、責任持ちなさい!」

「ああ……確かに」


 言われてみれば、タラコクエストの世界から俺を慕ってやってきたこの女の子には名前がない。ラボちゃんと同じくこの子も最早俺の大事な仲間だ、ここはカッコいい名前をつけてやらねば。


「なまえつけて、なまえ!」

「うーん……折角だから、ゲーマーっぽい名前がいいなぁ……はっ!」


 今までゲームのキャラにつけてきた名前を思い出しながら、この子に相応しい名前を考えていると、とある伝説の勇者の名前が浮かび上がる。


「決まったかしら?」

「……ラボちゃん、この名前にしたら、ラボちゃんひょっとして怒るかもしれない」

「は? まさか女の子に下品な名前をつけようっていうんじゃないでしょうね」


 ごめん中学二年生の時それやりました。でももう高校二年生だからやらないよ、そんな事。俺は女の子の頭を撫でると、考えた末に出した究極の名前を発表する。


「……『ああああ』、なんだけど」

「ギルティ!」

「いでぇ!」


 すぐにラボちゃんが俺にビンタをかます。この子なら、世界を狙える……!


「伝説の勇者の名前だよ!? 多分世界で一番使われてる名前だよ!?」

「呪い関係なく今ここであなたを殺してもいいのよ?」


 しかし俺も負けるわけにはいかない、気分は嫁と子供の名前で争う旦那さんだ。大抵嫁の方がキラキラネームを提案するんだけどね。


「『ああああ』! わたし、『ああああ』!」


 憤慨するラボちゃんとは反対に、目を輝かせて俺の提案した名前を連呼する女の子、もといああああちゃん。どうやら気に入ってしまったようだ。


「あああああああ! なんてことしてくれんのよ、こんな純粋無垢な子供にふざけた名前をつけて! あなたも知ってるんでしょう? この名前にしたら、簡単には変更できないのよ!? 今までどれだけのキャラクターが、この名前に苦しんできたと思ってるの?」

「……ごめん、今更ながら罪悪感がひしひしと。とりあえず、呼び方は『あーちゃん』にしよう」

「『あーちゃん』! わたし、『あーちゃん!』 えへへ、いいなまえ!」


 無事に? あーちゃんの名前も決まったところで仕切り直しだと言わんばかりにラボちゃんが咳をする。どうやら次の世界に行く時が来たようだ。


「さて、前回は経験値を稼ぎ過ぎた勇者のお話だったけど、次は逆よ。思い当たる節はあるかしら?」

「逆? 経験値を稼がない……低レベルクリア……ああ、結構思い当たる節があるなぁ」

「今回もあなたの蒔いた種よ、しっかりと罪を清算するのね」


 ラボちゃんが呪文をとなえ、段々と意識が薄れて行く。

 次に目を覚ました時、俺達はまたも中世ファンタジーの世界にいたのだった。


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