Lv1.哀れな勇者との戦い 第二章
扉を開けた俺達の前、玉座に鎮座するは一昔前に流行ったCMに出てきそうな、巨大なタラコにおっさんの顔がついているというドット絵の時点で気持ち悪かったラスボス、タラコ大魔王。
「うわ、キモッ!」
「こわいよー」
「怖じ気づくな、こいつを倒さないと、世界に平和は戻らないんだ!」
「よく来てくれました、雨宮呉人」
タラコ大魔王を見て気持ち悪がるラボちゃんと泣きだす女の子を鼓舞しながら、タラコ大魔王と対峙する。ドット絵でも気持ち悪かったのにこうしてリアルなグラフィックになるとすごくグロテスクだ。勇気を喰われそうになる、けれど負けてたまるか。
「タラコ大魔王! お前の野望もここまでだ!」
「……あの、勘違いしていませんか、雨宮さん」
木刀を構えて戦闘に入ろうとするが、タラコ大魔王は困ったような顔をする。不気味だ。
「勘違い? 何を言っているんだ?」
「あのね、最初に言ったでしょ、依頼人の魔王のところに向かうわよって。この人? の願いを叶えるのが、あなたの目的であって、倒すなんて論外よ」
呆れたような顔をするラボちゃんと、戦意を喪失して俺にしがみつく女の子。つまるところ、
「俺、悪者?」
「まあ、この世界では」
勇者になれなかった俺は、正義のヒーローにもなれなかったのだ。
「……で、俺は何をすればいいんですか?」
誤解も解けたので、落ち着いてタラコ大魔王の前に立ち会話を試みる。最初は気持ち悪いと思っていたが、よくよく見ると愛嬌のある姿をしている。ラボちゃんはまだ気持ち悪がっているようだが、女の子はゲラゲラと笑っている。
「私達は、毎日のように勇者と戦ってきました。ある時は勝ち、ある時は負け、そうやってプレイヤーの物語を作ってきたのです。しかし、ある時とんでもなく恐ろしい勇者が現れました。圧倒的な力で私を倒し、プレイヤーがゲームをクリアした後も、彼は残留思念としてこの世界に留まり、ゲームの発売から20年以上経った今でも、私達を苦しめているのです」
「つまり、そいつをどうにかしろと。……一応聞いておきますけど、その恐ろしい勇者って」
「雨宮さん。貴方のキャラ、『勇者くれと』です」
「……何となくそんな気はしてました」
大魔王と話をしながら、完全に当時を思い出す。狩りすぎたのだ、俺は。まだRPGの定石なんてわからなかった、適正レベルとかそういうのもわからなかった当時の俺は、ひたすらにモンスターを倒して経験値を稼ぎ、とうとうレベルをカンストさせてしまったのだ。そしてラスボスであるタラコ大魔王を、ボコボコにしてめでたしめでたし。
「さあ、ここからがあなたの本当の戦いよ。自分が作った勇者を、何とかすることね」
「おにいちゃんがんばって!」
確かにひたすらにレベルをあげてゴリ押すなんて、RPGの正しい楽しみ方とは言えない。ゲーマーとして、当時の俺の過ちは正さないといけないのだろう。
「それで、その勇者はどこにいるんですか?」
「そこです」
手足のないタラコ大魔王が向いたその先には、確かに一人の勇者と思わしき人間がぶつぶつとうめき声をあげながらうろうろしている。
「経験値……経験値……」
「今の彼は勇者ではありません、レベルをカンストさせても経験値を求める麻薬中毒者です」
「可哀想ね、成仏させてあげなさい」
まさか自分の育ててきた勇者がこんなことになっているとは、悲しい現実だ。当時の俺も、確かに敵を倒して経験値をためてレベルをあげることに快感を覚えていた。いつのまにか手段が目的になっていたのだ。最初はこんな騒動ごめんだったが、ゲーマーとしての自分と向き合ういい機会だ。徹底的に自分と戦ってやろうじゃないか。
「とりあえず現在の戦力差を分析しましょう。魔王さん、タイマンで勇者と戦うとどうなりますか?」
仮にも天才ゲーマーと呼ばれた男、RPGだけが取り柄じゃない。戦略SLGだってやってるんだ、まずは現状を把握することから始めようじゃないか。
「通常攻撃のみでやれば3ターンで終わりです、ダメージは3桁も与えられません。回復魔法もありますし、魔力も膨大です。恐ろしい勇者ですよ」
「我ながらとんでもない化け物を作ってしまったな……魔法で思い出した、確かこのゲームの睡眠魔法は成功率100%のはずだ。魔王さん、睡眠魔法は」
「魔力に限りはありますが、それなりには使えますね」
「回復魔法も使えるよな、初手睡眠魔法、体力半分以下で回復魔法でやってみてくれ」
俺達の見守る中、魔王は徘徊している勇者の元へ跳ねながら向かう。勇者が魔王に気づいたのか、経験値経験値と涎を垂らしながら剣を抜く。どちらが魔王だかわからない。
まず初手は勇者。伝説の剣を振りかざしてタラコを横に薙ぐ。この一撃で体力の4割を持っていかれているようで、かなり苦しそうな顔をする魔王。そして魔王が睡眠魔法を唱えると、勇者はすぐに眠りだす。そのまま永遠の眠りについてもらいたいものだが、せいぜい2、3ターンだろう。その間魔王が必死に体当たりをするが、勇者には大してダメージを与えていないようだ。そして起きる勇者。すぐに勇者が攻撃し、魔王は虫の息。魔王の睡眠魔法。勇者は眠り、その間に体力を回復……
「どうやらここまでのようですね……」
「経験値……経験値ぃぃぃぃ!」
しかしダメージを与えても勇者はすぐに回復してしまう。そして枯渇する魔王の魔力。俺達の応援も虚しく、魔王は勇者の斬撃により掻き消えてしまった。
「……という具合です。どのくらい持ちましたか?」
「あ、普通に復活するんですね」
やられてしまった魔王の名を叫ぶ間もなく、すぐに復活して玉座に戻る魔王。緊張感のかけらもないが、確かにこんな化け物が近くで徘徊していたら大変だろう。
「28ターン……かなり持ちましたね」
「けれど全然削れてないじゃない、どうするのよ」
粘れるようにはなったが、ジリ貧にも程がある。かといって、これ以上効果的な戦略があるとも思えないが……
「プロの格闘家でも、素人3人に囲まれれば勝つのは難しいらしい」
「突然何を言ってるのよ」
肝心な事に気が付いた俺は剣を抜くと勇者にそれを向け、高らかに宣言する。
「この世で一番強いのは、絆の力だ! 魔王一人では勝てなくても、俺達が力を合わせれば! ラボちゃん、ラボちゃんの力で複数人組めるようになってるんでしょ?」
「……確かに。言われてみれば、今までだって三人で戦ってきたしね。ちょっと卑怯臭いけど」
「卑怯上等、俺達は天下の魔王軍だからな!」
「雨宮さん……わかりました、力を合わせて勇者に引導を渡しましょう」
こうして結成された、魔王軍。流石に女の子をこの危険な戦いに巻き込むわけにはいかないので応援に専念してもらうことにし、俺とラボちゃん、魔王の三人がかりで勇者と戦うことにする。
「覚悟しろ、昔の俺! ……って、え?」
「経験値ぃぃぃぃぃ!」
魔王は先程と同じく睡眠魔法と回復魔法をバランスよく、ラボちゃんは固定ダメージの魔法で攻撃、そして俺の華麗な剣技で攻撃という作戦で戦闘をスタートしたのだが、最初のターンですぐに勇者が俺の方に走ってきて……
「はっ!」
「おおゲーマーよ、死んでしまうとは情けない」
「よかった、おにいちゃんおきた!」
目が覚めると、そこは中継地点として使った街の教会。横には呆れ顔のラボちゃんと、涙目の女の子。
「……俺、死んだの?」
「ええ、即死だったわ。一撃だったから、痛みも感じなかったみたいね。ゲームの世界でよかったわね、でもゲームの世界を冒険するってこういうことよ。今後は腕がもぎれて瀕死の状態で痛みに耐えながら戦う必要もあるかもね」
「一気に現実の世界に引き戻された感じだよ……いや、現実じゃないけど。それで、何ターン持った?」
「結局あの後私もワンパンでKOよ。私達の絆の力は数ターン程度だったわ」
残酷な現実。再び魔王の元へ戻る傍ら様々な方法を考えるが、1つしか見つからない。
「ああ、雨宮さん御無事でしたか」
「……魔王さん、こんなことは俺もしたくありませんが、仕方がありません。稼ぎましょう」
魔王の玉座に向かうと、玉座に座る? 魔王と相変わらず徘徊している勇者。いくら何でも戦力差が大きすぎる。稼ぎをしすぎた勇者を倒すのに稼ぎをするというのは皮肉だが、この際仕方がない。幸いにも効率のいい稼ぎ場所等はしっかりと覚えている。時間はかかるが、確実な方法だろう。しかし魔王はくねくねと上部を揺らし、嫌な顔をする。
「何言ってるんですか!? 稼ぐって、つまり私の仲間を倒すということですよ!? 貴方達が私の仲間を倒すことすら嫌なのに、自分で倒すだなんて……!」
「あ、人情深いんですね、魔王さん……」
確かに俺達にとってはモンスターでも、魔王からすれば大切な仲間。絆の力で勝つと宣言した以上、魔王の絆も尊重しなければいけないだろう。仲間を倒して経験値を貰うなんて悲しみの大地じゃあるまいし、この俺としたことが愚策を提案してしまった。
「考えろ……経験値を稼がなくても、強くなる方法……ドーピング、でも本編中にドーピングアイテムは各1、2個しか手に入らなかったはずだ……」
ただ只管に考える。自分がゲームをプレイしていた時に感じたことや、ネットで見つけた攻略法、製作者のインタビュー……ゲームをやっているうちに、自然と記憶力は向上したようで、自分でも驚く程の情報が頭の中に浮かんでくる。やがて……
「見つけましたよ、完全なる攻略法をね。魔王さん、一緒に水の神殿に行きましょう」
「水の神殿……?」
悲しみの大地……グラ。リメイクではそうもいかない。