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ラスボス・クエスト  作者: 中高下零郎
Lv0.オープニング&プロローグ
2/68

プロローグ

「っしゃあ! ラスボス倒した! エンディング流れた! 土曜日の朝10時からプレイして月曜日の朝7時半! 40時間超の死闘についに終止符がうたれたのだ!」


 高校二年生の夏休みも終わり、適度に涼しい月曜日の朝。俺、雨宮呉人あまみや・くれとは流れるスタッフロールを前に、徹夜明けのテンションで小躍りしていた。

 俺を一言で表すならば、ゲーマー。RPGにACT、STGにSLG。様々なジャンルのゲームを小さい頃から毎日のようにやっている。どうやら俺には天才的なゲームのセンスと強運があるようで、自慢じゃないが今までプレイしたゲームは全てゲームオーバーやバッドエンドになることなく一発でクリアしている。今回プレイした新作RPG『テンプレ★ナイツ』も、途中の街で何気なく遊んだカジノで大当たりし、一気にお金がカンスト状態。強力なアイテムを大量にひっさげて、明らかに低レベルなパーティーではあったが、見事に魔王を倒す事が出来た。一般プレイヤーの中では、一番早くクリアしたのではないだろうか。


「……寝るか」


 立ちくらみに襲われてベッドに直行。夏休みに両親が仕事で海外に行ってからというものの、平気で徹夜でゲームをしたり、一日中ゲームをしたりと俺のゲーマーっぷりに磨きがかかる。   

 若いとはいえ、流石に40時間ゲームをし続けるのは身体にきつい。今日はたっぷり寝て、明日のゲームに備えよう。布団に入って目を瞑り、夢の世界でもゲームをしようと試みるが、


「呉人、起きなさい」


 部屋のドアの開く音がしたかと思うと、すぐに安眠を妨害される。瞼を開けると、そこには茶髪のツインテールをなびかせる、活発そうな女の子が立っていた。


「人の部屋に勝手に入ってくんなよ……」

「ご両親に頼まれたんだからしょうがないでしょ? ほら、髭そって顔洗って。遅刻するわよ。ていうか土日ずっと引きこもってたの? 猫髭ひどいことになってるわよ」


 網野黄龍あみの・こうりゅう。近所の空手道場の娘さんであり、俺の幼馴染。昔はよく一緒にゲームをしたりして遊んでいたのだが、段々と疎遠になり、登下校の時に出会ってそのまま一緒に歩いたり、教室でたまに会話をするくらいだったのだが、どうやら両親がいない間の俺の監視役を任されたらしく、家の鍵まで渡されて堂々とこうして朝から部屋に入ってきたというわけだ。

 世の男が夢見る幼馴染に起こされるシチュエーションではあるが、ただただ俺は眠りたい。


「……今日は学校休む」

「はぁ? 先週の水曜日も、新作ゲームやるからって休んだじゃない」

「土曜日の朝からさっきまでずっとゲームしてたから限界なんだ……」

「……馬鹿じゃないの? はあ、休みの日も様子を見にいこうかしら」

「勘弁してくれよ、俺にだってプライバシーは存在するんだよ。明日は学校行くからさ」


 黄龍の言うとおり、俺は先週もゲームをするために学校を休んでいるし、今日も学校をサボろうとしている。なんだかんだ言って黄龍がこうして朝起こしにこなければ、俺は今頃ゲームばかりして不登校になっているかもしれない。息子の性格というのを両親はよく熟知していたようだ。


「はいはい。あ、お母さんが呉人の分もお弁当作ってくれたから、台所に置いておくわね。起きたら食べなさい」


 それじゃあね、と黄龍が部屋を出て行く。

 ……あいつ間違いなく、俺の事好きだよな。いくら両親に頼まれたからって普通はこんな毎日甲斐甲斐しく起こすはずがない。そもそもあいつは本来責任感はあまりないタイプだったはずだ。じゃあどうして毎日俺を起こしに来るのか? ずばり、俺が好きだからだ。段々と疎遠になりながらも俺に想いを寄せていた彼女は、両親に頼まれたのをいいことに、こうして毎日俺にアプローチをしているわけだ。お弁当も多分母親ではなくあいつが作ったのだろう。

 ……ギャルゲーのやりすぎだろうか? でも、あながち間違いじゃないと思うんだが、自意識過剰なのだろうか?

 まあいい。とりあえずは眠ろう。もう限界だ。寝て起きてお弁当を食べて、夜までゲームをやって寝て、明日の朝に黄龍にお弁当の感想でも言って反応を確かめよう。もし俺の推測が当たっていて、そのうちあいつが告白してきたらどうするべきか。俺も男だ、彼女は欲しいし、黄龍は可愛い方だと思う。けど、彼女ができたら絶対ゲームできる時間減るよなあ……なんて事を考えながら、再びベッドに入って眠ろうとする。



『ちゃんとプレイしろ……』


 変な声が聞こえる。黄龍はもう学校に行ったはずなのに。どことなく、先ほどまでやっていたゲームのキャラの声に似ている。限界状態までゲームをプレイしたから、幻聴が聞こえているのだろうか。


『初見殺しに……』


 また変な声が聞こえる。今度は何だろうか。先週やったアクションゲームのラスボスの声に似ているような気がする。初見殺しで有名なゲームのシリーズだけど、どういうわけか俺はひっかからずに全部突破してしまうんだよなあ。


『バッドエンドに力入れたのに……』


 今度は先月プレイしたギャルゲーのヒロインの声だったか。バッドエンドルートに力を入れている作品らしいが、俺はそのルートに行くことなくヒロインを見事攻略してみせた。


『正規ルートでクリアしろ……』

『サブイベントも少しはやれ……』

『ラスボスを一撃で倒せるくらい稼いでるんじゃねえ……』


 幻聴が多い。あまりにもうるさいので、少し風呂でも入って頭をすっきりさせて、恐らくは黄龍の作った弁当を朝飯としていただいて、それから眠ることにしようと目を開けると、


『ゲームを楽しめ……』

『エンディングだけで満足するな……』

『全滅しろ……』

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」


 俺の部屋はいつのまにか朝だというのに不気味な程に暗くなっており、ゲームに出てくる悪霊のような青白い人間が、ぶつぶつと幻聴だと思っていた台詞を呟いていた。思わずベッドから跳ね起きて部屋を出ようとするが、どういうわけだかドアが開かない。まるでこの間プレイしたホラーゲームのようだ。そのホラーゲームは特に詰まることなくクリアしたけど。


「な、何なんだよ、幻覚? 幻覚見てるのか? ここは夢の世界なのか?」


 悪夢でも見ているのだろうと頬をぺしぺしと叩くが痛い。ここは夢ではなく現実のようだ。俺が狼狽えている間にも、薄気味悪い化け物達はぶつぶつと呟いている。ゲームだったら美少女が現れて俺を助けてくれて、その美少女の戦いに巻き込まれて段々と成長していくのが定石だ。早く助けてくれ! と存在すら危うい美少女を待ち望んでいると、


「鎮まりなさい」


 後ろから凛とした女の子の声が聞こえたかと思うと、化け物共は段々と薄くなり、そのうち消えてしまった。暗かった部屋も明るくなり、どうやら危機は去ったようだ。まさか本当に助けが来るとは。段々とパニクっていた俺の精神も安定してきたので、とりあえず後ろを振り向いてどんな美少女なのか確認しようとする。


「ありがとう美少……ありがとう少女」

「ちょ、言い直さないでよ。美少女でいいじゃない」


 そこに立っていたのは、少女だった。身長は俺より少し低いくらいで顔は割と童顔、銀色のストレートヘアーに、黒いワンピース。手には鎌を持っていて、死神というイメージを彷彿とさせる。バストサイズは平均くらいか。可愛いか可愛くないかで言えば可愛いのだろうけど、正直俺の好みではない。この子と黄龍、どっちを取るかと言われれば多分俺は黄龍を取ることだろう。美少女扱いされなくて少しショックを受けたのか、歯ぎしりしながらこちらを睨んできた少女。とりあえずは、どうして俺が化け物に襲われる羽目になったのか聞いておくことにしよう。


「ごめんごめん。で、どうして俺は襲われたの? 君のせい?」


 多分まだ俺は混乱している。当たり前だ、さっきみたいな超常現象に直面してすぐに立ち直ることができるほど、俺は強い人間じゃない。なので少女に事情を説明してもらうことにしよう。できることなら、彼女の戦いとかそういうものに参加したくはない。なので俺はさっきの事件とは本来無関係であることを望んだのだが、


「いえ、原因はあなたよ」


 少女の口から放たれる残酷な真実。原因が俺だと?


「……俺が何をしたって言うんだよ」


 その場にうなだれる俺。俺はちょっとゲームが得意な一般人だと思っていたが、実は隠れた力があるのだろうか。まるでゲームの主人公だ、俺にとってゲームはコントローラー片手にプレイするものであって、体験するものじゃないというのに。


「そうね、口で説明するより、説明書を読んでもらおうかしら」

「説明書?」


 少女はポケットから紙切れを取り出すと俺に寄越してくる。説明書という割には薄いな、クソゲーにありがちだと思いながら紙切れを開くと、そこにはこんな事が書いてあった。



 ストーリー:

 とあるところに、廃人ゲーマーがいました。

 彼はあまりにもゲームが上手だったために、あらゆるゲームを一度もゲームオーバーにならずにラスボスを完膚なきまでに叩きのめしてクリアしていきました。

 彼に攻略されていったゲームは彼を恨みます。

『折角ゲームオーバーになって欲しくて初見殺し用意したのに』

『バッドエンドの時に流れる曲が名曲だから聞いて欲しかったのに』

『ボリュームたっぷりのゲームなのに、数時間でクリアされた』

 そうして積もり積もったゲームの怨恨は、ついに現実世界に及び彼へ襲いかかります。

 このままじゃ彼が呪い殺されてしまう!

 そんな時、どこからともかく現れた超絶美少女、ラスボスの精霊(通称ラボちゃん)。

 彼女が言うには、ゲームの世界に入り込んで、ゲームの世界を満足させていけば彼は呪い殺されずにすむそうです。

 頑張れ廃人ゲーマー、ゲームの楽しさをその身で実感しろ!


 操作説明:

 ラボちゃんと一緒にゲームの世界に入って、ミッションをクリアすればOKだよ!




「……」

「理解して貰えたかしら?」


 読み終えた俺に微笑む超絶美少女もといラボちゃん。俺は紙切れをビリビリと引き裂くと、布団に入りなおす。


「おやすみなさい」

「あ、ふーん。無視しちゃうんだ。しかもあまり字を書くのが得意じゃない私が何度もリテイクしてやっと完成した説明書を、ビリビリに破いちゃうんだ。それならこっちにも考えがあるわ」


 そうだ、これは夢だ。もう一度寝れば現実世界に戻れるはずだと必死で睡眠という名の現実逃避をしようとする。丁度ラボちゃんがぶつぶつと怪しげな呪文を唱えていて、それが子守唄代わりになっている。40時間ゲームをやっていたこともあり、すぐに俺の瞼は閉じて、8ビットのメロディーが流れる夢の世界へ……



「……このメロディーは、まさか」


 聞き覚えのあるメロディーに俺ががばっと起き上がると、そこは俺の部屋ではなく教会で、しかも俺が寝ていたのは棺桶だった。


「ようこそ、Lv1、タラコクエストの世界へ」


 その横で、黒いローブを着て聖職者のフリをした死神がニヤリと笑う。

 こうして、俺の戦いは始まったのだ。




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