オープニング
「どうした勇者よ、貴様の力はそんなものか」
満身創痍の俺を嘲笑う魔王。俺の周りには、既に力を失い倒れてしまった仲間達。状況は絶望的と言ってよかった。勇者として旅に出て破竹の勢いで魔族を倒し、ついには魔王と対峙した俺達ではあったが、戦いの経験をあまりしてこなかったのが仇となった。魔王の攻撃を一度受けただけで気絶してしまった僧侶は加入して一度も戦闘をしていないし、最初からずっと一緒に旅をしてきた幼馴染の魔法使いも、途中に加入した一番経験豊富な戦士ですら、本来ならばこの魔王の城を警備している魔族よりも力は劣っていたのだ。魔王の攻撃に耐えられるはずがなかった。聖なる装備のおかげで魔王の攻撃は何とか耐えることができるが、もって後2、3発だろう。
「プライドを捨てろ。そうでなければ、私には勝てぬ」
不敵に笑う魔王。彼の言うとおり、勇者としてのプライドも何もかも投げ捨てなければ、この魔王を倒し、世界に平和をもたらすことはできないだろう。しかしそこまでして、俺はこの魔王を倒す必要があるのだろうか。魔王を倒し、生まれ育った街に戻った時、皆は俺の事を卑怯者だと罵るのではないかという恐怖が、俺を縛りつけていた。
周りを見る。息も絶え絶えな戦士。死んだように気絶している僧侶。
「お願い……あいつを、魔王を倒して……アンタなら、できるはずよ……」
そして傷だらけで動けなくなっても、俺の方を見てそう呟く、俺の大事な幼馴染。
「俺は……俺は……っ!」
世界の平和なんて関係ない。プライドなんて関係ない。俺は、俺は大切な人のために、この戦いに勝たないといけないんだ。勇者の称号も、正義の味方の称号もいらない。卑怯者と呼ばれてもいい。俺は道具袋から薬を取り出すと、
「俺は絶対に勝つ! カジノで荒稼ぎしたお金で大量に購入した、全体完全蘇生の薬に、固定ダメージの爆弾で!」
やけくそになって高らかにそう宣言する。その瞬間、倒れていた仲間達が傷一つない身体で起き上がる。
「僧侶は万が一のために俺に食いしばりの魔法をかけてくれ! 例え魔王が全体に強力な攻撃をしても、一度耐えられれば装備で素早さを極限まであげた俺がアイテムで持ち直せる! 戦士と魔法使いは、ひたすらに爆弾を投げるんだ! 二人とも今は爆弾魔だ!」
仲間達にそう指令を出す。こくりとうなずく仲間達。
「ククク……フハハハハ! それでこそ、それでこそ真の勇者だ!」
高らかに笑う魔王。こうして俺達の真の最終決戦が始まった。只管に爆弾を投げる戦士と魔法使い。集中的に狙われて気絶するも、すぐに復活して魔法を唱える僧侶。仲間達の様子を見て、ある時はアイテムを使い、ある時は爆弾を投げる俺。魔王の力は恐ろしかった。いくら爆弾を投げてもピンピンしているし、全員が傷一つない状態でも、魔王の強力な闇の魔法を受ければ俺以外は全員気絶、俺も瀕死まで追い込まれてしまう。それでも俺達は諦めなかった。しかし、あれだけ大量に購入した爆弾も薬も、段々と減っていってしまう。30分程戦った時、既に爆弾も薬も無くなっていた。最後の薬を使った直後、魔王の闇の魔法により、再び俺以外が倒れてしまう。
「……うあああああああああああっ!」
それでも俺は諦めない。伝説の鍛冶師が作ったはいいがほとんど使ってこなかった聖剣を手に、魔王に斬りかかる。
「……見事だ」
爆弾一発よりも、ずっとずっと小さな傷を与えることしかできなかった。しかし魔王が弱弱しく笑ったかと思うと、その傷口が段々と大きくなり、まばゆい光に包まれる。そして……