クロウラー事件と魔術師たち/ルディ・ミットリスフェン 平静の時代
制度改革の最中、デボラは突如として姿を消した。気まぐれなクロウラーとしては突然の失踪など珍しいことではなかったが、時間や予定などに厳格なデボラにとってはかなりイレギュラーなことだった。外出をするにしても、助手のアスタ・グレンに言いつけていくのが常であった。
アスタは三カ月の間師を待ったが、いよいよデボラは現れなかった。デボラの残した遺言書により、アスタは後を継ぐと思われたが、指名されていたのは大方の予想を裏切ってルディ・ミットリスフェンであった。年齢的にも、経歴的にもあり得ないことである。ルディは未だ学生の身であった。
アスタはルディの引き留めにも応じずにグロウラーのすみかを去ることになる。
さんざん悩んだ末、ルディはグロリアスクロウラーの地位を仮に受けた。歳にして24のころである。
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ルディがトップに立った後も、なおもクロウラーの魔術師の失踪は相次いだ。
クロウラー事件と呼ばれる。
ルディは調査に乗り出すと、洗いざらいクロウラー達の外出記録などを調べた。ルディの師がこの記録制度を整備したことが役に立った。一年の調査の末、いよいよルディは事件の黒幕の正体を巨大ワームと突き止めた。ルディはワームを水脈に誘導し、水を流し込んで窒息死させた。
この一件を機に、ルディは正式にクロウラーの長の任を受けた。クロウラー達に認められたはいいものの、予定を越えた長い地底生活を理由に、恋人に振られたルディはひどくふさぎ込んだ。
幸いなのは、自棄になりきれるような性格でもなかったというところくらいか。
いつしか額には苦悩とともに深いしわを刻み、ルディは師をも越える「偏屈じじい」になっていたわけである。
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使役魔法にみるルディの功績についても触れておこう。
ルディの使役魔法により生み出した精霊にさまざまな魔法効果をシミュレーションすることが容易になった。
ルディは人や獣には優しかったが、反面、驚くほど人工物や昆虫、爬虫類、ワームなどには冷徹だった。
そして師の影響なのか、彼もアマデオのことはどうにも疎んじがちである。彼の場合はその頑固さに自覚がないのが始末に負えないところでもあると言える。
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蓋を開けてみれば、デボラよりもルディの方が徹底的に潔癖であった。
彼はヴァヴィロヴァ商会からの物品の取引契約を一方的に破棄。ヴァヴィロヴァの血縁者の経営する取引先だと分かった時点で取引には応じなかった。おかげで実験の品質は下がり、おおかたの研究は滞った。
私も二、三言いたいことはあるが、沈黙しておこう。彼は今なおクロウラーのすみかにおいて、トップの座に居る。