アマデオを継ぐもの/シャールカルシス 未開の時代・沈黙の時代
アマデオがクロウラーの史実から姿を消そうとして、しばらくの空白があった。アマデオは人の寿命では死なず、アマデオの世は長かったのだ。それでも、アマデオはゆっくりとではあるが確実に衰えていった。アマデオの影響が薄れるにつれ、多くの従僕たちがともに土へと還った。
次に名前を挙げられる魔術師はシャールカルシスだ。
シャールカルシスはもともと人間であったと言われている。そして、アマデオは最初から人ならざるものだったというのがよく言われている。しかしアマデオの後を継いだシャールカルシスの存在は様々な面から示唆されているが、アマデオ以上につかみどころがない。男性か女性かどうかもはっきりはしない。シャールカルシスは力を失ってはいるが、引き続きアマデオと同一人物ではないかという説もあるほどである。
後の世の魔術師たちは、この永い命を求めて彼らの教えを掘り起こそうとするのだが、アマデオとシャールカルシスの時代は生への渇望を欠き、なんとも無欲な時代だった。
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シャールカルシスはアマデオの死とともに、便利で文句の一つも言わない多くのしもべを失いながら、クロウラーのなお揺るがない基礎を築きあげたと言ってもいいだろう。
シャールカルシスはアマデオの衰えを感じ取ると、アマデオの従僕であるシャールカルシス自身には必要がないことを知りながら、上下水道などのインフラや小さな畑を整備しはじめた。多くの植物を品種改良し、食用品として育てた。その痕跡は明らかに彼が生来は人間で、それもかなり開拓に見地のあった人物であることを示している。
仕上げにシャールカルシスはどこからともなく孤児を拾ってくるとインゲラムと名付けた。
どうやらつがいにしたかったようで、もうひとり孤児が居たらしい。しかし、もうひとりのほうは幼くして歴史の表舞台に出ることはなく病死したと言われている。インゲラム自身もそのきょうだいについては語ることがなかった。
シャールカルシスはインゲラムに彼の尊い生産の成果を与え、治癒術を中心とした知識の一切を一から叩きこんだが、寿命を与えなかった。アマデオの命はもはや尽きようとしていた。彼の望みは、完璧な彼の楽園を次代へと引き渡すことにあった。
教育の結果、インゲラムは幼くして光源の術を編みだし、畑に不可欠な光を提供することに貢献した。インゲラムの功績としては治癒術の発展よりも、こちらの方が大きい。
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アマデオは彼ら一団の呼称にはこだわらず、地上にはあまり興味を示さなかったと言われている。シャールカルシスは非常にユーモアに寛容で、インゲラムを引き取ったことからもわかるように、ときたま地上にも顔を出していた痕跡がある。奇術師として人を沸かし、魔術師であることについては沈黙していたようだ。
彼はクロウラーという呼称さえも喜んで受け入れた。魔術師を公言しないためにあまり名乗る機会は無かったろうが、シャールカルシスに育てられたインゲラムもまた自らクロウラーと名乗ることに抵抗はなかった。
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ところで、長生きすれば魔力が高いかと言えば実はそうでもない。最盛期を越すと知識を頭の中に注ぐよりも、忘れていくことの方が多くなっていったようだ……と、我らがアカデミーのスパイアーズは述べている。器がどこで満杯になるかはやはり極めてみるまで分からず、習得は遅くとも長続きする者もいるという。
ぱっとしない魔術師の方が長生きをするというのはよくあることだ。