魔物討伐
街に来た時とは反対側、北の街門から街を出た。
街道がまっすぐ地平線へと続いている。北東には森林が広がっていて、それ以外はただの草原だ。代わり映えないな。
ただ南側とは違ってあちこちに魔物の影が見える。南側は数が少ないけど強い魔物が住み、北側は弱いけど数が多い魔物が住みつくんだったっけ。
街道沿いにはいないな。まあRPGでも街道にはあまり出ないしな。森の周辺に向かってみるか。
街道を逸れて北東のライラ森林の方へと向かう。
早速ゴブリンが襲いかかってきた。3体だ。ゴブリンは異世界に来たばかりの俺でもすぐに判別できるから良いね。
緑の身体に破れかけた布の服を見につけ、醜い顔をしている。身長は俺の半分くらいで武器は錆びた剣か棍棒だ。
拳銃に手が伸びかけるが、すんでのところで引き止める。拳銃はもしもの時以外は使わないと決めたのだ。弾数に制限があるんだから。
代わりに、リザードマンから頂いた片手剣を鞘から引き抜く。
俺には剣の心得もある。実戦では使わないから腕が鈍っていないか不安だが。
この片手剣は比較的軽くてリーチも少し短い。だが俺は剣を片手で扱う業は習得していないのでしっかりと両手で握り、中段に構える。
準備は万端だ。
ゴブリンたちは妙な叫び声を上げながら襲いかかってくる。威嚇のつもりで叫んだのだろうが残念ながら気持ち悪いだけである。おもに顔が。
まずは3体の一斉攻撃を横に飛んでかわす。その後剣を横に振り、一番近い位置にいたゴブリンの首を叩き斬った。
まずは一体。
首の骨に突き刺さっている剣を強引に振って外す。その間に憤怒の表情のゴブリンが左右に迫ってきていた。
右にいる剣を持つゴブリンの攻撃を剣で受け止める。その後力で押し切って、左の棍棒持ちゴブリンに備えるつもりだったが、
計算は狂った。
重い!! ゴブリンの小さな肉体のどこからこんな力が出て来るのか。
俺はこれでも傭兵だ。かなり鍛えている。魔物とはいえたかがゴブリンに力押しされるとは思わなかった。
その間にも棍棒持ちゴブリンは振りかぶり、攻撃の準備を完了している。
マズい。
一瞬で思考を巡らせた俺はまず、剣から力を抜いた。同時に迫りくるゴブリンの剣を上手く受け流す。
俺が力を抜いたことによってバランスを崩したゴブリンの服を引っ張り、俺の右側に移動させた。すると、
振り下ろしたゴブリンの棍棒が、剣持ちゴブリンの頭蓋を叩き割った。二体目だ。
血しぶきが舞う。そして俺は、仲間を討ってしまい動揺しているゴブリンを一太刀で切り裂いた。これで三体目。
ふう。しかし危なかった。ただあのゴブリンの力はやっぱりおかしい気がする。魔力とかそういう不思議パワーの恩恵かなあ? 魔力が使えないのなら魔法石が右胸にある意味はないはずだし。
魔力による身体強化とかじゃないだろうか。
もしそうだと仮定すると、魔力を操れもしないのに戦場に出ている俺は大分危ない子じゃないだろうか。
帰ったら誰かにそれとなく聞いてみるか。
などと考えながら俺は魔法石3個と耳を3つ採取して、残りはまとめてから、ライターで火をつけておいた。
あと2体か。うーんとりあえず拳銃使っとこう。接近戦は危険すぎる。ただのゴブリンであの苦戦っぷりだしな。地球で散々肉体を鍛えた俺であの苦戦である。他の冒険者はどうやってゴブリンよりも強い魔物を相手にしているのだろうか。やはり何かカラクリがある可能性が高いと思う。
それも魔力とか魔術とか俺が知らないタイプのカラクリ。うん、やはり聞くしかないな。
などと考えていると狼のような魔物がうろついていたので森に飛び込んで、木の影に隠れてやり過ごす。
…………危ねぇ。ゴブリンにすら苦戦する現状であんな強そうな奴と戦ってられるか。
拳銃使えば多分勝てるだろうけどなあ。銃弾が欲しいぜ。『銃鬼』の異名も銃弾がなきゃ意味がないってな。
狼が戻って来ないことを確認してからまた草原に出ると、ゴブリンがちょうど二体木陰で話しているのを見つけた。
足音を立てず、かつ素早く近づく。狙撃ポイントを手早く確保し、拳銃のセーフティを外す。
スライドを引いて初弾装填。狙いを一瞬で定めると、ゴブリン二体の左胸を一発ずつで撃ち抜いた。
流れるような手捌き。悪いが『銃鬼』の異名は伊達ではない。俺に銃を握らせて勝てると思うなよ。
ってそういえば『瞬間移動』の存在を忘れていた。どうしても慣れた方法で戦おうとしてしまうんだよな。戦闘経験の弊害かな。
魔法石と耳を剥ぎ取ると、火をつけようとしたが、森に近いので火事になったらマズいのでやめて、地面に埋めておいた。
これで依頼は完了だ。
やっぱり銃使えば楽だなあ。などと考えながら帰路につく。途中で昼食のレーションを食べながら街に辿り着いた。
もう二時くらいか。ギルドで依頼完了を告げて、誰かにからくりのことを聞こう。その後は市場に行ってみるか。何があるか見てみたいし。
そして俺は、初のギルドの依頼を完了した。