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傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
悪魔襲来編
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便利な魔法袋

 冒険亭はいかにも普通って感じの石造りの建物だった。扉を開き、中に入る。

 正面のカウンターにいるおばちゃんに声をかけた。


「ばあちゃん。一晩泊まる」

「はいよ。明日の朝食はつけるかい?」

「よろしく頼む」

「じゃあ600ゼニーだね」


 ポケットから銅貨を何枚か取り出して払う。


「はい、ありがとね。鍵はこれ、部屋は12号室だよ。言い忘れてたけど風呂に入りたかったら100ゼニープラスで入れるからね」


 風呂か。魅力的な提案だが100ゼニー追加かあ。俺の残金はただでさえ300ゼニーしかないのだ。遠慮しておこう。


「ふむ……いや、今日は風呂はいいよ」

「そうかね。ではごゆっくり」


 おばちゃんはおっとりとした口調で告げてくる。人の良さそうな笑みだ。見ていてほんわかとする。


「さて、と」


 角を曲がり、12号室に辿り着く。

 鍵を差し込み、開く。ギィと音を立てながら木製の扉が開いていく。

 しかしこの鍵穴の構造……俺ならピッキングできるな。やる気はないけど。

 信頼性はあるって話だったがこれじゃ技術がある奴には盗まれるんじゃないか? 


 部屋は大して広くはなかった。ベッドに机と椅子が、六畳間くらいの広さの部屋に置かれている。

 でもまあこんなでも別に問題は何もない。汗をかいてないので風呂に入る必要もない。酒臭いけど。


 その日俺は、リザードマンの片手剣とナイフを磨き、拳銃の整備を終えるとベッドに倒れこんだ。

 案外疲れていたらしい。そんな思考を最後に眠りに導かれていった。



 さてさて異世界二日目である。

 俺はベッドから起き上がると宿屋の食堂に向かった。ちょっと迷いかけたが親切な姉さんが案内してくれたので問題はない。

 主人に声をかけると朝食が渡された。

 トマトやレタス、ハムなどを挟んだサンドイッチが3つに野菜のスープだ。

 …………美味い。現代人の舌でも全く文句がない。あの強面無口の主人め。いい飯作るじゃないか。


 そんなこんなで朝食を楽しむと、俺は服をリュックサックの黒Tシャツとジーンズに着替え、ギルドに向かった。Tシャツに替えがあるのは地味に良い。

 ちなみに片手剣を腰の左側に吊り、拳銃のホルスターは右側である。コンバットナイフはショルダーホルスターにして右脇に隠しておいた。武装解除された時に役に立つように、と思ったのだ。


 リュックサックから服やレーション2日分はかさばるので部屋に置いておく。

 明日も泊まるとおばちゃんに伝えておいたので問題はない。


 などと考えながらギルドの看板下をくぐり、開いている扉から中に入っていった。

 まだ朝七時くらいということもあって、人は少ない。セシル、スコットやライドンも見当たらないな。

 まあいい。とりあえず依頼の貼り付けてある看板に向かおう。

 探すのはFランクの依頼だ。依頼書に茶色の枠があるのですぐに分かる。茶色はFランクの証だ。俺のギルドカードしかり。

 

「これにするか」


 その中の一つの依頼書を剥ぎ取った。

 ゴブリン討伐の常駐依頼だ。このへんの領主が定期的な魔物駆除のために依頼を出している。

 最低5匹で基本報酬300ゼニー。その後は一体ごとに20ゼニー増える。

 …………何だか安く聞こえるかもしれないが、冒険者は魔法石の回収によってさらに金が貰えるので生計が十分成り立つらしい。Fランクの依頼だから大分低いのも事実だが。

 そして倒した証拠としてゴブリンの耳を提示するようだ。殺してから刈り取らなきゃならないのか。面倒だな。いやどうせ魔法石も剥ぎ取るんだし一緒か。

 

 カウンターのお姉さんの元へと依頼を持っていく。


「常駐依頼なので期限はないです。ですができるだけ早めに」

「分かった」

「ではギルドカードをご提示ください」


 言われた通りギルドカードを見せると、姉さんはカウンターの横の台に描かれている魔法陣にカードをかざした。

 カードが光る。一瞬の出来事だった。

 返されたカードの、依頼受注記録の部分を見ると、"ゴブリンの討伐 受注"という文字が追加されていた。

 便利なカードだなあ。もしかしてこういう冒険者必須の便利グッズって他にもあるんだろうか?


「なあ姉さん」

「何です?」

「冒険者なら買っとけ! って感じの必須品ってあるの?」

「そうですね…………魔法袋は必須だと思いますよ? 大きい魔物を狩ったときに素材を引きずって帰るわけにも行かないでしょう?」


 魔法袋! なんて甘美な響きだ! これは絶対にアレだ。見た目よりも全然入る感じのアレだ。RPGでよくあるあの袋だろう。テンション上がってきた。


「そいつはどこに売ってる?」

「西側の市場に売ってると思いますが……ここでも買えますよ?」

「いくらだ?」

「10000ゼニー。銀貨一枚です」

「た、高い…………」


 よく考えると、そもそも300ゼニーしかないのに何故買えると思ったのか謎だ。


「ふふっ。新人さんはいつも同じ反応をします。でも救済策として無利子で借金が出来るんですよ銀貨一枚分」

「おおっ!」

「ただし一年以内にはきっちり払わないと、ギルドカードを剥奪されるんでお気をつけください」

「お、おう」

「で、どうします? 払える自信があるのならこの場で貰っといた方が良いと思いますが」

「…………分かった。一年以内に払う。だからその袋をくれ」

「ではギルドカードをご提示ください」


 魔法陣にかざされ、カードが光る。帰ってきたカードには"コブリンの討伐"の下に"魔法袋借金 10000ゼニー"と記載されていた。依頼受注記録じゃねえじゃん……。


 姉さんが奥から取ってきた魔法袋は、一見するとただの布の袋だった。手ぬぐいの端を紐でしばったような簡素なものだ。

 本当にこんなものに入るのか?

 と思っていたらリュックサックごと袋に入っていって目を丸くした。

 当たり前だが物理法則ガン無視だ。

 だけど荷物持たなくていいからだいぶ楽になるな。

 とりあえずリュックサックから全部出してから一個ずつしまった。

 ギルドの姉さん曰く、限界はあるらしいが今のところ全然大丈夫だ。

 そして袋に手を突っ込んで"『何か』来い"と念じると、その通りの物が手に掴まされる。

 便利な品だ。地球で売り出したらバカ売れするだろうな。



 そんなこんなで上機嫌のまま、俺は草原に繰り出した。もちろんコブリンを狩るために。


 次回は1月4日午後八時に更新します。

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