決着
「"烈波斬"!!」
スコットの放つ執念の一撃をまともに受け、フレイムドラゴンは嘶きを上げた。
「セシル!! 左から!」
千載一遇のチャンス。
「スコット! 下がれ!!」
セシルを左に走らせて陽動に使い、スコットを下がらせる。
「ライドン!!」
「了解了解。『準備』は今終えた」
セシルにフレイムドラゴンの目が集中しているうちにライドンを近づかせ、
「"金縛り"」
秘技を使わせる。そして俺は拳銃を抜き、真上へと飛んだ。
フレイムドラゴンと目が合う。向こうは金縛りに合っているが、それでも自分を殺せるはずがないと高をくくっているようだった。
『魔眼』がフレイムドラゴンの実の頭部を捉える。ベレッタのスライドを引き、弾丸を装填する。
狙いをフレイムドラゴンに定めた。
それでもフレイムドラゴンは傲慢な態度を崩さない。
「ーーーーその驕りがお前の命取りだ」
言葉と同時、音速を越えて放たれた拳銃弾が轟音と衝撃波を撒き散らし、一瞬で炎竜の頭部を貫いた。
"幻惑の炎"が消えていき、フレイムドラゴンは地面へと、大きな音を立てながら沈んでいった。
勝った。俺の策は成功したのだ。
やはり、銃弾は異世界でも十分通用する。
ライドンたちの喜びの声を聞きながら、俺はシルヴァー二の方の戦場へと目をやった。
◇
レナは驚愕していた。
「今のは効いた」
憮然とした声でシルヴァー二は告げる。
「そんなに驚くな。仮にも俺は上級悪魔だぞ?」
シルヴァー二の衣服はボロボロになっていた。確かに、本人も傷を負っている。
しかし。かすり傷。
上級を超える超級魔術をまともに喰らってかすり傷。
こんな怪物を、どうやって倒せばいいのか。
「遊びもやめだな」
シルヴァー二は面白くもなさそうに告げる。
彼の視線の方向にレナが目を向ければ、一也たちがフレイムドラゴンの討伐に成功していた。
(やったんだ)
しかしシルヴァー二に勝てる目処は、未だつかない。
◇
俺たちはフレイムドラゴンや討伐した魔物たちを捨て置き、レナたちのもとへと駆ける。
これで、全戦力を奴に注ぎ込むことができる。
フレイムドラゴンとの死闘で4人死んだ。衛兵が3人と、冒険者が1人。
残りは24人。
それでもまだ数は多い。
数の暴力で、シルヴァー二を叩き潰してやる。
そう思った。
その瞬間。
「遊びもやめだな」
シルヴァー二が開放した桁違いの魔力が、草原を闇で覆い尽くした。
「"黒劔"」
更なる上級魔術。黒く巨大な劔が、上空から驚異的な速度で降り注ぐ。
「"魔術障壁"!!!!」
セシルやライドンたちが魔術を発動する。
下位魔術とはいえ、魔力をどれだけ篭めたかによって効果が変わる優秀な術式だ。
しかし。
生み出された圧倒的な大剣は、そんな防壁など蟻のように蹴散らし、彼らに容赦無く襲いかかった。
轟!! という凄まじい音が炸裂した。
黒い大剣が大地が削る。いや、叩き割った。そして攻撃を正面から受けたセシルやスコット達は容赦無く吹き飛ばされた。
血の雨が舞う。
「この野郎!!!」
『瞬間移動』を使い、シルヴァー二の目の前へと転移する。
その時には、すでに剣は振られていた。速度という概念にすら納まらない、見ることすらおこがましい一撃。
だが。
受け止められる。
それも、素手で。
「あまり図に乗るなよ!! 人ごときがあ!!」
剣を握られて、そのまま投げ飛ばされた。あの時と同じように、シルヴァー二は吹き飛ぶ俺に追随する。
「おおおおおおおおおお!!!!」
それを利用した。突きこまれた槍を、無理やり身をひねってかわすと、手首を掴んで、自分の身体を回転させる。
奴は俺を支点に回転すると、そのまま地面に叩きつけられた。
空中背負い投げ。
「どうだクソ野郎!!」
俺はそのままごろごろと転がり、起き上がってシルヴァー二を睨んだ。
倒れたままのシルヴァー二へと、レナの魔術が襲いかかる。
「"フレイムランス"!!」
炎の槍が、倒れたままのシルヴァー二を襲うが、奴は魔力を宿した手を振るって強引に軌道を逸らした。
そして起き上がろうとした奴へ、
「"烈波斬"!!」
血みどろのスコットが執念で斬撃を喰らわせる。斬り裂かれることはなかったが、奴はまともに喰らって後方へと下がった。そして着地する。そこの後ろから。
「まさか僕がやられたとでも?」
セシル・バーニーの研ぎ澄まされた剣が奴の背中を今度こそ斬り裂く。
セシルは『魔眼』で幻覚を生み出し、自らの場所を誤認させたのだ。
シルヴァー二は苦悶の表情を浮かべながら、
「こ、の、人間ごときがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
絶叫する。今までで最大の魔力を練り上げて、魔法陣を一瞬で構築する。
「真の闇よ! ここに降臨しろ! "闇劔"ィィィ!!!」
辺りが漆黒に染まる。触れただけで気を失いそうな魔力が渦を巻く。
しかし。
「…………どうだ、妹の、仇め」
近距離にいたボロボロのスコットが放った投げナイフが、魔法陣に容赦無く突き刺さっていた。
魔法陣が破壊され、闇が溶ける。辺りに光が刺す。
「終わりだな、シルヴァー二・カニスキラ」
俺は、一歩前に出る。
「ふ、ざ、けるな…………! こんな、はずでは………………!」
奴の放つ闇の魔術攻撃を、レナたちの"魔術防壁"がしっかりと受け止めてくれる。
剣を構えて、駆ける。事件の元凶を斬り裂くために。皆の想いを叶えるために。
「テメエの敗因も、その驕りだよ。フレイムドラゴンと同じだ。テメエらは自分の敗北を想像すらしていなかった。最悪の状況に備えるのは戦場の基本であるにも関わらず」
奴は悪あがきか、槍を突く。背中の傷が痛むのか大した威力はない。
身体をずらして避けると、奴の懐へと踏み込んだ。
「馬鹿な!! 私が、私が負けるはずなどない!! そんな理由など、どこにもないぞおおおお!!!」
「テメエみてえな、人の尊厳を踏みにじるクソ野郎に…………!!」
激情に身を任せて叫ぶ。剣を振りかぶり、力の限り魔力を籠める。莫大な魔力が剣を輝かせ、闇を纒う周囲を光で照らした。
「俺たちが負ける理由なんざ、これぽっちもねえんだよ!!!!」
言葉と同時の出来事だった。
俺の渾身の斬撃が悪魔の身体を肩から腰まで容赦無く袈裟斬りにする。
そして、異世界最初の戦争は終結した。
◇
別に俺は、街の人たちや冒険者たちに、大した恩があるわけではないし、恩があるから戦ったわけではない。
この世界に来たばかりだから、それは当然だ。
でも。
この結果で、少しでも多くの笑顔を護ることができたのなら。
俺はそれだけで充分だ。




