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傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
悪魔襲来編
21/23

覚悟

 戦況は人間側有利に進んでいた。

 オークや剛力熊といった魔物はグスタフとスコット以下数名が殲滅。彼らはフレイムドラゴンの攻撃に加わっている。

 フレイムドラゴンは『魔眼』の影響で斬撃や打撃攻撃を受けながらも、今だダメージを負っていない様子だった。


「厄介だな…………」


 セシルは呟く。今こうしている間にも、彼の魔力はどんどん消費されていく。持って後15分。これは彼らにすでに伝えてあるが…………


「ブレス!!」


 誰かが叫ぶ。同時に皆、脚力を強化し、大砲から撃ち出された砲弾のようにジャンプする。


 直後、フレイムドラゴンの巨大な口から、圧倒的な炎の息吹が放たれた。


 草原が焼きつくされる。周囲の草が黒く染まっていく。そして、


「があああああああああああああああ!!!!」


 1人、死んだ。ブレスをまともに受けて、身体が焼け爛れ、そして死んだ。

 衛兵団の青年だ。


「ちくしょう…………」


 衛兵団長の呟きをセシルは耳にする。

 負けられない。必殺の策はある。

 だが、その策の鍵となる彼は…………。


 シルヴァー二と、人知を超えた戦闘を行っていた。レナが莫大な魔力を開放したことでシルヴァー二を押している。

 そこに"連絡の魔道具"に通信が入る。

 グスタフからだ。


『セシル坊。レナがようやく本気を出す気になったようでな。儂とレナ、それとライドンでシルヴァー二を抑える。その間にFランクの坊主を呼び寄せてフレイムドラゴンへの例の策で潰せ。ここは任せたぞ』

『了解です』


 通信終了。同時にグスタフが戦場を離脱する。そしてセシルは、剣を抜いてフレイムドラゴンへ飛び込んだ。


 ◇


 レナの助力によって、俺はシルヴァー二に本気を出させることができた。

 こんな力があるのなら、なぜ今まで使わなかったのか疑問が残るが、今はそんなことに拘泥している暇はない。


 レナが鉤爪を振るい、シルヴァー二はそれを受け止めようとしてーー失敗する。

 足がふわりと宙に浮いたかと思えば、そのままシルヴァー二は後方へと吹き飛んだ。

 レナが魔力で勝っている証だ。


「化物だな」


 シルヴァー二は端的に評した。


「貴様は化物だよ。猫の獣人。今までその魔力を使わなかったことで貴様の"事情"もだいたい理解できる。しかし、いいのか? 貴様がやっているのは今までを台無しにするということだぞ?」

「本当は、最初から分かってた」

「?」

「この街の人たちは、そのくらいで私を嫌いになんかなったりしないってこと!!」


 レナが吹っ切れたかのように叫ぶが、その手は細かく震えていた。怖いのだろう。この世界に来たばかりの俺には、レナの事情はよく分からないけど。

 それでも。


「こいつは化物なんかじゃねえ」


 レナの頭を撫でながら、告げる。


「だから、嫌いになんてならねえ」


 その言葉に呼応するように。


「その通り」


 戦斧がシルヴァー二を襲う。奴は避けたが、その斧は大地を割った。

 グスタフ・マクレガー。老練のAランク冒険者。


「レナ」


 厳格な声はそのままに、グスタフはレナへと告げる。


「お前がアリス皇国を追い出された『悪魔の獣人』であることぐらい、皆分かっている」

「…………え?」

「それでも誰も何も言わなかった。その事実が証明しているだろう? この街は、お前を恐れたりなど、しない」


 グスタフは子供に言い聞かせるように告げる。


「だから安心してその力を振るえ。お前の好きなこの街を守るために」


 そしてグスタフは指を俺に振る。

 交代の合図だ。


 シルヴァーニのもとへと走るライドンと入れ替わるように、俺はフレイムドラゴンの方へと走っていった。


 ◇


 ライドンの『準備』は完了した。

 シルヴァー二に相対するのは彼を含めて3人。レナ、グスタフ、そしてライドン。


「これはちょっと厳しいかな?」


 シルヴァーニは愉快そうに笑みを浮かべ、


「こいつらを使うことになるとは思ってなかったな」


 指を弾いた。すると、森から続々と魔物が出現してくる。その数すでに30体を越えた。

 ゴブリンなどの低ランクの魔物も混ざっている。だが、数は脅威だ。

 当然だが洗脳されている。


 一気に戦況が厳しくなると思われた、その瞬間。


「"煉獄"」


 意趣返し。レナが鉤爪を器用に動かし高速で魔法陣を描くと、シルヴァー二を同じ魔術を発動する。

 

 煉獄の暗い炎が魔物の群れを襲い、残ったのは高ランクのオークや戦狼だけだった。

 しかし。

 それすらも。


「凍りつけーーーー"凍土"」


 並列進行で描かれた魔法陣を叩き、さらなる上級魔術が起動する。


 咄嗟に魔力を練って魔術耐性を跳ね上げたシルヴァーニを除き、戦狼やオークたちは足元からビキビキと凍り、氷の像と化した。


「獣人の魔術師か。珍しいものもいたもんだ」


 だが、とシルヴァーニは言葉を区切る。


「魔術師が、前に出てどうするつもりだ?」


 一瞬でレナへと肉迫する。まさに神速。魔法陣構築中のレナに、その攻撃を避けることは不可能。

 しかし。


「そのための俺たちだ」


 シルヴァー二の攻撃をライドンが防ぐ。そして、『準備』の成果を発表した。


「"金縛り"」


 シルヴァー二が拘束される。シルヴァー二は魔力を籠めて抜け出そうとするが、


「無駄だ。それはクラークの秘技。魔力じゃあ破れない」

 

 ライドンは言葉を切ると、


「グスタフさん、俺は行くぞ」

「ああ、よくやった」


 ライドンはフレイムドラゴンのもとへと向かっていった。

 そもそも彼は、フレイムドラゴンへの借りを返すためにここに来たのだ。

 秘技をつかう為にここで耐えてくれたのはグスタフたちにとってありがたかった。


「抜けない…………!!」


 シルヴァー二が慌て始めるが、レナは容赦などしない。

 魔法陣を描き終えると、鍵を唱える。

 上級すら上回る、超級魔術の一つ。


「"風神槍"」


 常識を超えた量で練られた魔力で作られた風槍が、容赦無くシルヴァー二へと炸裂した。


 爆音が響き、大地が削れる。土煙を巻き上げて、周囲を覆い隠す。


 レナの最大出力の一撃。彼女は忌避していた魔力を全力で行使した。



 そして。


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