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傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
悪魔襲来編
20/23

レナ・ランズウィック

 俺が見る限り、戦況は拮抗していた。

 俺とシルヴァー二の一対一にライドンとレナが後方に控えている。

 フレイムドラゴンはセシルが主導し、ジュニアスという青年冒険者、そして衛兵団の精鋭が必死に戦っていた。

 そして残りのグスタフやスコットたちは、魔物の殲滅に動いていた。

 グスタフは修羅の如き活躍だった。

 俺があれだけ苦労した剛力熊を『戦斧』の一撃で叩き潰し、オークへと向かっていく。

 スコットは執念のなせる業だった。

 砂をかけて怯ませ、目を抉る。怒りを超え、極限まで研ぎ澄まされた殺意。

 その感情を抱けば、誰でも徹底的な殺戮機械と化す。

 俺は地球でその場面を腐るほど見てきた。


「人の心配をしている場合か?」

「チィ!!」


 シルヴァー二が槍を突いてくるのを飛び上がってかわす。

 剣を構え直し、再び気を引き締める。

 確かに周りを気にしている余裕など俺にはないのだ。

 俺とシルヴァー二の対決は、戦況に多大な影響を与える。

 敗北は許されない。


 そんな俺の。

 目の前に、槍。


「!!」


 咄嗟に『瞬間移動』を使い、シルヴァー二の10メートルほど後方へと引き下がる。奇襲を狙う余裕などなかった。『瞬間移動』が無ければ、俺は今死んでいた。

 

「どうした?」


 シルヴァー二は愉快そうに俺に問いかける。


「ちょっと力を込めただけだぞ?」

「ほざけっ!!」


 一閃。首を刈り取らんと神速で放たれた一撃をシルヴァー二はあっさりと回避し、逆に槍を突きこんでくる。

 この速度で迫りくる槍をかわすのは難しい。


 だから。

 『瞬間移動』で奴の後方へ転移する。

 しかし。


「それを待っていた!!」


 奴は後ろも見ずに槍を反転させ、振り回した。

 すべてを薙ぎ倒さんとする薙ぎ払いを剣の峰で受け止める。

 それを見てシルヴァー二は、ニヤリと笑った。


「やはりか」

「…………何がだ?」

「その奇怪な移動術ーーーー使ってから5秒間は再使用できない。そうだろう?」


 『瞬間移動』の欠点。

 5秒のインターバルを読まれた。

 そして、戦場において5秒は非常に長い。

 しかし俺は嘯く。それを伝える必要など何一つないのだ。


「本当にそう思っているのか? その決めつけが決定打に繋がらないといいなあ?」

「貴様が同じ術を一体何回使ったと思っている? 分からないものを探るのは基本だよ」


 シルヴァー二は槍から左手を離す。それでも俺は奴を押し切ることができなかった。

 奴の左手が、大きな魔法陣を描く。

 咄嗟に大地を蹴って後方に跳ね跳んだ。

 何かが来る。

 完成した魔法陣を奴はこん、と

叩く。そして、術式の"鍵"を唱えた。


「"煉獄"」


 言葉と同時。

 

 周囲一帯は暗い炎に包まれた。


「チィ…………!」


 『魔術教本』によると、確か範囲系の上級魔術のはずだ。

 魔力をさらに身体に纏わせて"身体強化"の強度を跳ね上げれば、煉獄の炎は寄せ付けないと書かれていた。


 だからさらに魔力を練り上げる。煉獄に耐えられる強度まで。


 しかし。


 他の者には、その行動は不可能な者もいた。

 単純に魔力量の問題である。そこまでの強化が、できない。

 範囲系の魔術とはいえ、フレイムドラゴンや魔物と戦っている者達の方へは及んでいない。

 そしてライドンは強化に成功していた。


 つまり。

 狙われたのはレナ・ランズウィック。

 暗い炎が彼女を狙う。


 しかし、彼女は冷静だった。暗い炎が迫ってきても微動だにしない。昨日のように怯えているわけでもない。


「…………封印解除」


 レナが呪文を唱える。言葉と同時、圧倒的な魔力が開放された。


 ◇


 私ーーレナ・ランズウィックは昔からこの力が嫌いだった。

 その理由は、私がアリス皇国を追い出されたことに由来する。

 私は猫獣人の家系に生まれ、生まれつき猫耳と尻尾が生えていた。そこに問題はない。

 しかし、私には莫大な魔力があった。

 獣人は基本的に大した魔力を持たない。魔力を使わなくても身体能力が高いので余り使わず、衰退していったのだ。

 だから魔力は持っていても人族の3分の1程度がいいところだと言われていた。


 でも私が持っていた魔力は、悪魔に及ぶほどの魔力量だった。

 私は周囲から恐れられ、迫害され、そして国を追い出された。

 お母さんとお父さんは必死で説得していたが、無意味だった。

 国を追い出されて、父と母は他の国を目指す最中に暗殺部隊に殺された。

 私は必死に逃げて何とか生き延び、今は冒険者として生計が立てられている。

 

 その冒険者の間でも私の魔力は恐怖され、悪魔とすら呼ばれた。

 だから私はこの魔力を封印した。恐れられるのは、もう嫌だったから。




 でも。今はそれでも良いって思える。

 カズヤの役に立ちたいし、何より街を守りたい。そのためなら、私の行く末など、どうでもいい。


 だから。


「もう吹っ切れた。私はもう大丈夫」 


 誰に恐れられても、カズヤはきっと恐れない。彼もあれだけの魔力を持っているのだから。


「街はやらせない。私が守り抜いてみせる!!」



 ◇


 悪魔の獣人としてアリス皇国を追放された元少女『魔術師』レナ・ランズウィックが、立ち上がる。

 

 

 

 


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