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傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
異世界召喚編
2/23

大草原と魔物

 気がつけば、大草原の真っ只中だった。

 俺はどうやら眠っていたようだ。辺りを見渡せば草が延々と続き、地平線がはっきりと見渡せる。

 眠さを引きずる意識を覚醒させながら、俺は自分の身体を確認した。


 生前の肉体そのままである。 


 筋肉質で引き締まった肉体は180センチ強まで伸びていて、腕の銃創の跡もきっちりと残っている。

 なぜかポケットに入っていた手鏡で顔の様子を見てみると、長めの黒髪に黒い眼をし、整った顔立ちをしている男がそこにいた。間違いなく俺である。 

 死んだときに撃ち抜かれた頭の右あたりを探ってみると、確かに銃弾の跡があった。

 あの天使が治してくれたのだろか?

 

 ちなみに着ていた服は生前とは違うものだった。あの野戦服血塗れだったから気を利かせたくれたのだろう。

 普通の白Tシャツに安物ジーンズを着込み、それにスニーカーを履いている。

 真横に置いてあったリュックサックの中身を確認してみると、


水筒

レーション3日分

拳銃 ベレッタM92FS

予備弾倉5個

ガンオイル

クリーニングクロス

ガンソック

ガンホルスター

双眼鏡

サバイバルナイフ

コンバットナイフ

ナイフの鞘

新型ライター

携帯砥石

黒Tシャツ二つ

安物ジーンズ二つ

下着二つ

靴下3つ

手鏡

手紙 


 などが収められていた。大きめのリュックサックだったので多くのものが入っていた。

 ひとまず手紙から読んでみることにしよう。


 要約すると内容は三つだ。1つは肉体を修復し、この世界に適応するように少しばかり改造したこと。

 もう一つは、このリュックサックの中身が俺への餞別の品だということ。ちなみに今後こういったプレゼントはないらしい。なら、拳銃は気をつけて使わないといけないな。弾数に限りがあるわけだから。

 2つ目は、俺に与えられた能力についてだ。俺の能力は『瞬間移動』だそうだ。

 100メートル以内なら、どこへでも一瞬で移動できる能力らしい。ただし視界の範囲外の場所へ移動しようとすると、下手したら石や建物に埋まって動けなくなるかもしれないのでやめた方がいい、とのことだ。

 ちなみに回数制限はないが、一度使うと、5秒のインターバルを必要とする。

 ただ無闇に使いまくると変な注目を浴びると思うので注意して下さい、か。

 まあいくら異世界とはいえ『瞬間移動』なんて能力を持っている奴なんてそうはいないだろうしな。注意して扱うに越したことはない。


 さて、試しに使ってみるか。ひとまず狙いは2メートル前。そして頭の中で『瞬間移動』と念じる。刹那、浮遊感が脳を襲った。


 …………特に何も変わった気がしなかったが、よく考えるとここは、だだっ広い大草原である。ちょっと移動したくらいでは景色は何も変わらない。


 だが、『瞬間移動』できたことは事実なようだ。置いてあるリュックサックが2メートル後方にある。移動できた証である。

 続けて『瞬間移動』と念じたが、効果はなかった。やはり5秒間のインターバルが必要なようだ。

 5秒間過ぎてから、また『瞬間移動』を扱う。今度は移動地点をできる限り遠くに設定してみた。つまりは地平線の彼方である。

 またもや、身体を一瞬の浮遊感が襲う。


 その後、リュックサックのある場所を確認してみると、黒い点に見えるくらいの遥か後方にあった。

 ただ、俺が移動しようとした地点よりは近い場所に移動したようだった。

 リュックサックまで目算で100メートルだ。俺はもっと先を目指して転移したというのに。

 かといって俺の戦場で鍛えられた眼が、そう間違っているとも思えない。

 どうやら移動制限は100メートルで間違いないようだ。


 さて、能力の確認も終わったところでこれからどうしようか。

 この草原からどこへ向かうか、という問題である。

 見渡す限りが草むらなので、目印も何もない。どこへ行けば街があるのかすら分からないのだ。


「こんなときはこれに限る」


 俺はサバイバルナイフをリュックサックから取り出し、柄の部分を地面に置いた。不安定な態勢なので、当然のようにぐらぐらと揺れ、そして倒れた。

 倒れたナイフが指している方向へと向かうのだ。ぶっちゃけ運任せだが、それは指摘してはいけない。


 出発前に装備を確認した。

 ベレッタM92FSを軽く点検する。特に扱うのに問題はなさそうだ。だが後で整備はしておこう。ジャムでも起こしたら困るしな。

 コンバットナイフはしっかりと研いである。しかもこれかなり良質なものじゃないか? 日本刀でいう業物みたいなものだと思う。俺が今まで使っていたどのナイフよりもいい品だな。

 ポケットに新型ライターも入れておく。これは燃費は悪いが火炎放射器のように使うこともできる超最新式のタイプだ。

 普通の使い方なら、一年は持つだろうといわれている逸品だ。ぶっちゃけ高い。アホみたいに高い。天使はこんなのも餞別でくれるのか。凄い野郎だな。まあ金払ってるわけじゃないだろうけど。


 俺はジーンズのベルトにホルスターとナイフの鞘を吊って、その中にベレッタとコンバットナイフを収める。まあこの草原に生き物が出てくれば一発で分かるのだが、用心に越した事はない。正直、拳銃では心もとないのでアサルトライフルが欲しいのだが、異世界でそれは贅沢なのだろうか。


 俺は草原を歩き始めたが、3歩で止まった。当たり前だが疲れたわけではない。5秒ごとに『瞬間移動』を最大射程距離で使った方が全然速いことに気づいたからである。しかも速いだけじゃなく、疲れない。この重いリュックサックを背負って歩くのは傭兵時代に慣れているとはいえ、かなり骨が折れる作業だろう。

 …………というかこの方法でも全然景色変わらねえ……。

 この草原広すぎるだろ。

 と思っていたが10分ほど経つと、地平線に大きめの点のようなものが見えた。

 おっ、もしかして街か?

 双眼鏡を使って確認してみたが、それは街ではなく、生物だった。

 落胆しながら倍率を上げると、それはどうも猪のようだった。

 『瞬間移動』を使って近づいてみると、それがただの猪ではないことに気づいた。

 なぜならその猪は、体長が2メートル以上もあったのだ。

 100メートルもない距離。ここまで近づけば間違えようもない。

 

「ブォ?」


 どうやら向こうもこちらに気づいたようだ。障害物が何もない大草原なので当然である。

 …………どうしよう。ただの猪だと思って狩ろうとしたんだが、まさかこんな怪物だったとは。あ、こいつもしかして魔物か? そういやフリーラが居るって言ってたな。

 それはともかくこんな巨大な奴にナイフや弾丸が通るのだろうか?


 そう思いつつも、右手でベレッタのセーフティを外し、スライドを引く。初弾の装填が完了。あとはトリガーを引くだけだ。

 左手でコンバットナイフを鞘から引き抜く。逆手に持ったままベレッタに手を添えた。 


 戦闘準備は完了。ぶっちゃけ『瞬間移動』を駆使すれば逃げ切れるとは思うのだが、魔物? の戦闘能力も見ておきたい。この世界での俺の強さの基準になるからな。


 今まで様子を窺っていた猪が咆哮を上げて突進してきた。速い!

 『瞬間移動』で真横に転移する。

 同時に真横を猪が駆け抜けていった。 アホみたいな速さだ。100メートルはあったはずだぞ。まるで砲弾だな。

 目標を見失った猪が少々狼狽しながらも、駆けてきた方へ振り向く。

 その瞬間を拳銃で狙い撃った。目標は猪の右目である。15メートルの距離をものともせず、弾丸は的確に猪の右目へと吸い込まれていく。


「ブオオオオオ!!!」


 巨大猪が絶叫を上げる。しかし、当然だが、それすらも『隙』である。

 容赦なくトリガーを引いた。

 二度目の弾丸は左目を貫く。流石は米軍制式採用のM92F。良い命中精度だ。

 まあ弾数に制限さえなきゃ、精度など無視の乱射で殺していたのだが。

 ともあれ、これで奴は完全に失明したはずだ。

 近づくと闇雲に暴れ出すかもしれない。

 …………って倒れやがったよ。まあ目を撃ち抜いたんだから、よく考えると死ぬのは当たり前である。目を貫けば脳に炸裂するのだから。俺が魔物を警戒しすぎていただけか? でも1発目だと生きてたのになあ。


 最終的にまあどうでもいいか、という結論に達した俺は、巨大猪を解体していた。気になったのは心臓の近くに、綺麗な透き通る宝石があったことだ。

 しかも血管と繋がっているので、臓器の一部であるっぽい。蒼く光るその宝石のような何かはサファイアに似ていた。

 とりあえずその石はリュックサックに収めておく。


 さて、一応レーションが3日分あることにはあるが、これが食えるのならそれに越した事はない。

 そして焚き火をする木材もないので、ライターで直接肉を炙った。それも火炎放射でだ。外側は一瞬で焦げたが、これくらいやらないと菌が殺せない。


 味は悪くない。だが塩っ気がなさすぎて淡白の極みだ。ああ、調味料さえあれば、もっと美味く作れたのに。なんかもったいない。と思いながらも、満腹になって満足していた。


 当然ながらあの莫大な量の肉を食いきれるはずもなく、半分も食べられずに挫折した。残りは名残惜しかったが、リュックサックに入るはずもなく、地面に埋めておいた。


 解体に時間を食ったので日が少し傾いてきた。同時に少し肌寒くなってくる。季節は多分秋の始めだろうな。

 魔物が出現する上、肌寒さを感じる場所にロンT一枚で眠りたくはないなあ。さっさと街を見つけないと。


 『瞬間移動』を更に行使する。少し経つと地平線に黒い線が見える。双眼鏡で確認すると木材でできた壁だった。

 ついに街を見つけられた。夕陽も暮れてきたから少し急ぐか。


「ん?」


 右手から、近づいてくる影を感じ取った。立ち止まり、即座に拳銃を抜く。


 近づいてきたそれは、どうも魔物のようだった。

 獣の顔に、赤い鱗を持つ身体で、二足歩行をする異形の生物。その姿はゲームでいうとリザードマンによく似ていた。

 特筆すべきは剣を持っているところか。下手に近づけば、ばっさりと切り裂かれるだろう。

 となるとナイフは使えない。

 拳銃の早撃ちで一瞬でケリをつけてやろう。

 リザードマンは瞳に警戒、というより殺意の色を浮かべながら冷静に間合いを測っている。

 だが、そんなものは無意味だ。

 瞬時にリザードマンに向けられた銃口は全くの逡巡もなく、無慈悲な弾丸を射出し脳天をブチ抜く……はずだった。

 直前で反応したリザードマンは銃弾をギリギリで避けた。横っ飛びから前へと踏み込み、俺へと襲いかかってくる。

 初手の袈裟斬りを最小限の動きで躱す。同時にナイフを喉に突きこもうとしたが、リザードマンは左手を犠牲にして押さえ込む。

 そして剣を翻して俺を襲うが、俺は無視して拳銃の引鉄を引いた。

 乾いた銃声が炸裂し、リザードマンの剣は俺に届くことなく、地面へと崩れ落ちた。

 

 剣は拾っておこう。安物の片手剣って感じだが、拳銃の弾数制限がある俺にとってリーチが長い武器が増えるのは嬉しい。

 剣の鞘をリザードマンから外し、ベルトに取り付け、剣を収める。

 その後、リザードマンの右胸をナイフで切り裂いた。

 気になることがあったからである。

 予想通り。光る宝石が出てきた。

 この世界の生き物には全部ついているものなのたろうか。

 やはり高級そうなのでザックに収めると、俺は再び街へと急ぐ。

 俺は夜目が効くわけではない。

 暗くなってから魔物に襲われたら死ぬ可能性が高いのだ。

 そうやってビビりながらも、ようやく俺は街に辿り着いた。

 

 さあ、ここからだ。

 ここから、俺の物語が始まる。


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