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傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
悪魔襲来編
19/23

戦争

 俺達は森の前の草原に集結していた。

 高ランク冒険者が8人に衛兵団の精鋭が20人。総勢28人の軍勢が草原で待機している。

 各々の風格も合わさって、近づこうとする魔物すらいなかった。

 

 斥候が帰還してからすでに数分が経った。

 レナがピクピクと猫耳を動かしてから、告げた。


「来ます」

「総員戦闘準備」


 レナの言葉と同時、冒険者部隊の隊長であるAランク冒険者『戦斧』グスタフも厳かな声を放った。

 冒険者は各々の武器を抜いた。

 衛兵団長は同じ言葉を復唱して、衛兵に剣を構えさせる。

 場に緊張の波が襲う。空気は凍りついていた。


 そこに、彼は無造作に草原に出現した。何の気負いもなく、ただ歩く。


 シルヴァー二・カニスキラ。

 『洗脳』の異名の通り、魔物を洗脳する能力を持つ緑髪の上級悪魔。昨日とは違い、手には槍を持っている。

 そして彼の後ろから、炎を纒う竜が現れる。フレイムドラゴン。

 普段は温厚なその炎竜が向ける敵意は、威圧となって俺達に襲いかかる。

 そして更に、1体の剛力熊と3体のオークが現れた。

 皆、洗脳されているようだ。これが奴の手駒か。

 

 ちなみにギルドマスター曰く、シルヴァー二の『洗脳』は対象が500メートル以上離れると、効果が切れるらしい。

 だから街の心配はここを突破されない限りいらない。

 しかしこんな知識どこで聞いたんだろうな。まあどうでもいいけど。


 シルヴァー二は俺達の100メートルほど先で立ち止まると、愉快そうに口の端を吊り上げた。


「おやおや皆さんお揃いで。このシルヴァー二に何か用でも?」

「なぜ悪魔がこんなところにいる」


 グスタフが冷徹な声で間髪入れずに指摘する。

 対してシルヴァー二は余裕の表情を崩さない。


「そこの街に保管してある"ライラの石像"を回収しに来てね。大人しく渡すなら楽に死なせてあげるけど?」


 どうやら、逃すという選択肢は頭にないらしい。イカれてやがる。


「言語道断。どうやら話し合いの余地はないようだ」


 グスタフが無表情のまま告げた。

 同時に戦場の温度が下がっていく。

 互いの殺意によって冷えていく。

 空気が凍りつく。

 

 そして、


「ーーーー撃ぇ!!!!」


 衛兵団の弓から矢が放たれる。その数は12本。魔力が宿ったその矢は空中で加速すると、一直線にシルヴァー二へと向かっていく。

 一発一発が絶対の殺傷力を持つ複数の攻撃。

 それを前にして、シルヴァー二は。


「ククッ」


 嗤う。愉快そうに。

 その嗤いと同時、フレイムドラゴンがシルヴァー二の姿を覆った。

 "幻惑"に引っかかぅた矢たちはそのままフレイムドラゴンの身体をすり抜け、見当違いな方向に飛んでいく。

 やはりフレイムドラゴンを倒すか、シルヴァー二とフレイムドラゴンを引き離さなければ、物理攻撃は通用しないようだ。

 

 ここまでは予想通り。ならば、シルヴァー二と魔物たちを引き離すのみ。


「どうした人間、この程度か?」


 不敵に嗤うシルヴァー二は魔物たちに指示を下す。


「次はこちらから行くぞ!!」


 オークや剛力熊が一直線に突撃してくる。決して侮ることはできない強い魔物たちだ。

 それらに追随するようにフレイムドラゴンも少し前に出る。


 それを狙っていた。


 『瞬間移動』を使った俺は、シルヴァー二の眼前に飛び込んだ。


「!!」

「ーーーーよう、一日ぶりだな」


 言葉と同時。剣を力任せに叩きつける。奴は驚きを抑え、咄嗟に槍を防御を当てた。

 金属と金属が擦れあう音が炸裂する。


 鍔迫り合いのような拮抗。お互い、相手が腕力を"強化"すればそれよりも強く"強化"を実行し、押し切ろうと粘る。

 外界へと漏れ出た魔力が濃密になっていき、周囲の人間を威圧する。


 互いに、莫大な魔力量があるからこそ為せる所業。


「最大の障害はやはり貴様か、人間。いや、クラハシカズヤだったか」

「へえ? テメエみたいな傲慢な悪魔が俺の名前を覚えてるとは意外だな? もう一度名乗ってやろうと思っていたんだが」

「図に乗るなよ? 人間にしては大した魔力量だが、悪魔であるこの俺に適うとでも?」


 悪魔は人間の3倍の魔力量を持つと聞いたことがある。

 確かに魔力量では敵わないだろう。そもそも魔力を上手く"力"に変換するのは、慣れていないからまだ苦手だ。

 おそらく無駄に魔力を消耗していることだろう。おそらく、魔力量では勝てない。


「さあ、どうかな? 試してみなけりゃ分からねえ」


 しかし敵に弱味を見せる必要はない。

 強がり、更に腕に魔力を込める。

 

 ◇


 二人の怪物は、その莫大な魔力を誇示するかのように練り上げていく。


 ◇


「"魔眼共有"」


 セシル・バーニーは下位魔法陣を虚空に描くと、"鍵"となる呪文を唱える。

 そして、自らの魔眼を開放した。その右目が、幾何学的な模様を写した。

 同時にフレイムドラゴンを囲む冒険者たちの右目にも、同様の模様が写されていく。 

 

 セシルには見える。フレイムドラゴンの"幻惑の炎"をすり抜けて、その先に存在する実体が。

 おそらく今はその光景が、フレイムドラゴンを囲む彼らにも見えていることだろう。


(勝機はある)


 ライドンとレナを控えさせているが、一也は実質たった1人で上級悪魔と渡り合っている。そのおかげで、衛兵団はフレイムドラゴンの討伐に傾けることができた。


 スコットの要請を断った時とは状況が違う。


 クアドラード伯爵の所有する衛兵団は下級魔術を習得していて、訓練も厳しく行っている。その衛兵団の中でも特に精鋭である者が今回の依頼に出撃しているのだ。

 それが20人。『魔眼』をその人数に共有させるのは大量の魔力を消費するので、セシルにはキツくなるが、勝機は確かに生まれたのだ。


 ただしその考えには、シルヴァー二を一也が抑えているという前提条件か必要になる。

 なまじ魔力が見える分だけ、彼は一也の力を過信していたのかもしれない。


 上級悪魔が"上級"と呼ばれる所以を、彼は理解していなかった。


 戦端は開き、両者の激突は激化していく。

 片方はただ己の目的を達せんがため。

 もう片方はただ自分の滞在する街を守るために。


 その意志が折れない限り、戦闘は終わらない。


 

 



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