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傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
悪魔襲来編
18/23

それぞれの想い

 この依頼を辞退する者は多かった。ギルドからの緊急指令依頼であるため断るためには金がいる。

 それなりに高い金額を払ってでも戦わない者が多いのだ。 

 参加するだけで基本報酬80000ゼニーという超高額の依頼にも関わらず。

 それだけ上級悪魔は恐ろしいということか。

 

 ちなみに今回はBランク以上の冒険者しか招集していないため、金を払ったのはBランク以上の人間である。

 CランクとFランクのスコットと俺は自ら志願したのだ。


 俺はいったん宿へと戻っていた。

 迎撃メンバーは明日の早朝まで自由とされている。

 夜中に襲来する可能性もあるが、それを感知するための斥候だ。

 衛兵団の連中も街門を見張っている。


 剣を磨き終えた俺は銃を整備し、弾倉を交換しておく。必ず銃は必要になるからだ。

 更に今日の午前中に買った本の中の一つ、『魔物図鑑』の中からフレイムドラゴンのページを開く。

 熟読する。

 やはり、聞いている通りの内容だ。


 凶暴そうな見た目とは異なり、性格は基本的に温厚。危害を加えなければ襲って来ない。 

 "幻惑の炎"を常に纏っており、物理攻撃では炎に惑わされ、実体を捉えることができない。魔力を見通せる魔眼があるなら捉えられる。

 魔術攻撃は有効。上級魔術師が数十人いれば危なげなく倒せる。

 人間に危害を加える事例が少ないため、討伐数は少ない。


 とのことだった。

 やはり上級魔術師さえいれば何とかなるのだが、運が悪いのか今この街には上級魔術師がいない。

 下級魔術なら扱える者がある程度いるのだが、下級程度ではドラゴンの一種であるフレイムドラゴンには大したダメージが与えられないらしい。


 だからセシルの魔眼を魔術によって一時的に共有して、物理攻撃で討伐しよう、という作戦だった。

 そしてその間に、シルヴァー二を抑えるのは。


「俺と、ライドンにスコット、そして衛兵団の連中」


 冒険者側の人数が8人と極めて小規模なのに対して、衛兵側は精鋭だけを集めても20人もの人数がいた。

 

 その最大戦力である衛兵を、すべてシルヴァー二の奴に当てる。

 こちらがフレイムドラゴンよりもシルヴァー二を恐れている証だった。


 決してフレイムドラゴンは、侮っていい相手ではないというのに。


「………………」


 考えろ。

 今、俺に何ができるか。

 今の俺に何が必要なのか。

 どうすればヤツを殺せるのか。

 地球で散々実践したはずだ。

 圧倒的実力差を覆すことなど。


 俺は思考を高速で回転させながら、気休めのように『魔術教本』を開いた。


 夜が更ける。異世界二日目の夜が。


 ◇


 私ーーレナ・ランズウィックは酒場で適当に夕食を食べていた。酒は飲んでいない。

 今日は激動の一日だった。

 剛力熊の狩猟依頼を受けようとしたら、Fランクの怪物ルーキーと言われているカズヤって人に会った。


 高い身長に筋肉質な身体。綺麗な黒髪に黒い瞳。整った格好良い顔は一目見ただけで少しどきっとしちゃった。

 新人のはずなのに場慣れした歴戦の覇者みたいな風格を持っててすごいなあって思った。

 でも嫉妬みたいな感情も浮かんじゃって、言動がぶっきらぼうになっちゃった。どうしてもっと素直になれないのかなあ、私。


 カズヤも同じ依頼を受けようとしてたみたいだけど、これは要求Bランクの依頼だから窘めようとしたの。


 そしたら、あわあわしてる間に話進んじゃって、一緒にクエスト受けることになっちゃったの。


 剛力熊と戦ったときは私はほとんど見てるだけで、本当に凄いなあって思った。

 こういう人が天才って呼ばれるんだろうなあって。


 そこまでは、まだ日常の範疇だった。 上級悪魔が現れるまでは。


 そもそも、悪魔なんて存在を見ることすら普通はないんだって。

 西大陸とそこに繋がる魔界に存在する、人間の皮をかぶった怪物らしい。

 私はそうお母さんに聞いていた。

 第二次"魔王戦役"で人間と悪魔で戦争をして、それ以来お互いを憎み合っているらしいよ。

 私はその頃生まれてなかったからよく分かんないんだけど。


 それでね、現れた悪魔が下級とかならまだ何とかなったと思うんだけど、英雄とも渡り合ったとか言ってた一騎当千の上級相手に私なんかが通用するわけないと思って、怖がってた。


 でも、カズヤは違った。脅えるどころか、悪魔にすら上から目線だった。

 実際に悪魔と戦いを始めたとき、私には何もできなかった。

 それくらい桁の違う戦いだった。

 そんな私を、彼は助けてくれた。

 結局悪魔には勝てなかったけど、次は必ず勝つと彼は言っていた。

 なんだがその横顔が無性に格好良く感じて、頬が熱くなるのを感じていた。


 このままでは、彼の役には立てない。

 使いたくなかったけど、『あれ』を使うしかない。

 じゃないと明日の戦場で役に立つことは出来ないんだから。


 私は覚悟を決めた。今日会ったばかりの男の子のために。

 

 ◇


 レナは最後まで、なぜ自分が彼の役に立ちたいのか、その本質の感情を理解していなかった。


 ◇


 スコットは激怒、していなかった。

 そんな感情はとうに通り越していた。

 感情はあら立つことすらない。ただ冷徹に物事を見据えるのみ。

 殺す。

 殺す、と。

 彼は薄暗い瞳のまま決意する。

 村のみんな。冒険者の仲間。なにより、実の妹。

 自らの生活のすべてを奪っていったシルヴァー二を必ず、殺す。仇を討つと。


 ーーーーーー殺す。例え死んでも。


 焼かれようが斬られようが殴られようが骨を折られようが目を抉られようが爪を剥がされようが皮を剥がされようが耳を潰されようが呪われようが腹を貫かれようが殺されようが


 殺す。


 スコットの思考は闇に沈んでいった。

 

 そして夜は深まっていく。様々な思いを風に乗せて。


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