シルヴァーニの目的
「人の命をーーーー何だと思ってやがる!!!」
激情と共に放たれた銃弾は、
「ーーーーよくやった、フレイムドラゴン」
ーー唐突に出現した炎の竜の"幻惑"に引っ掛かった。
「フレイムドラゴン…………」
レナが力なく呟く。その炎の竜はシルヴァー二を護るように体で囲うと、こちらを睨みつけてくる。
炎竜の、威圧が飛ぶ。
フレイムドラゴンは"幻惑の炎"を常に纏っている。
だから物理攻撃では"実体"が捉えられないのだ。だからこそ『魔眼』のセシルに"視"てもらうことで実体を捉えようと、スコットは言っていた。
だからどれだけの威力を持っていようが、物理攻撃に過ぎない銃撃は幻惑されて攻撃を逸らされた。
フレイムドラゴンの出現によって、周囲の木々に火がつき始める。
「逃げよう、カズヤ」
レナが声をかけてくる。確かにここは撤退した方が良い場面だろう。魔術が使えない俺たちにフレイムドラゴンは相性が悪すぎる。
でも。
逃げるしか、ないのか。
「…………ああ」
畜生。俺は…………!!
自分の力の無さに、怒りすら覚えた。
「…………覚えてろシルヴァーニ・カニスキラ。俺の名は倉橋一也。この借りは、必ず返す」
「逃がすと、思うのか?」
「俺の能力を、見てなかったのか?」
言葉と同時。
俺は『瞬間移動』によって、その場から姿を消した。
◇
「逃げられたか……全く、奇怪な術だ」
シルヴァーニ・カニスキラは、対して気にしていない様子で呟いた。
別に、問題はないのだ。
彼が狙っているのはライラの街に保管されている"ライラの石像"である。
シルヴァー二の狙いが知られて、街から逃がそうとするならその方が街を攻めるより手に入れやすい。
「街から逃げる者を皆殺しにすればいいのだ。問題はない」
だが、予定外であることに変わりはない。何も知らない街を奇襲するはずだったのだ。
(倉橋一也だったか…………人間にしとくには惜しい奴だ)
結局、わざわざ手を出したのにペットの剛力熊は倒されてしまい、更には逃亡を許した。
彼にとっては、敗北といっても良い結末だ。
(奴は街を攻めれば必ず出てくる。今度こそ仕留めてやる)
街を攻めるのは明日だ。一日あれば上級悪魔出現の報を受けて、王国も軍を動かすかもしれない。
だが、何も変わらない。
たとえ騎士だろうが容赦なくすべてを薙ぎ倒せてこその"上級"悪魔だ。
「ライラの石像は、必ず回収して見せる」
そう言って、ひとまずの住処である洞窟に戻っていった。
◇
俺は、洞窟に戻る奴を見ていた。
『瞬間移動』で森の外まで逃げてレナを街に戻らせた後、高速でスニーキングをし、シルヴァー二を尾行した。
足音を完璧に消し去ったその尾行は最後まで奴に気づかれることはなかった。
そして、得られたものは寝床だ。
奴は剛力熊が住処にしていると言われていたこの洞窟を一旦の寝床にしている。
そして、もう一つは、奴の言葉から得られた。
"ライラの石像"を狙っていること"。
街から出ていく人間は皆殺しにすること。
尾行による収穫を確認してから、俺は『瞬間移動』を使い、街へと急いだ。