表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
悪魔襲来編
14/23

上級悪魔

「紹介ありがとう。猫の獣人よ。ご存知の通り、私は悪魔。上級悪魔のシルヴァーニ・カニスキラだ。よろしく頼むよ、人間」

 

 上級悪魔、と聞いた途端、レナが足を後ろに引く。その顔は恐怖に歪んでいた。


「…………てめぇが剛力熊を操ってたのは何でだ?」

「ほう? 人間風情が上級悪魔に対して随分な口の聞き方だな?」

「黙れ。質問に答えろ」


 冷徹に告げる。シルヴァーニは興味深げに表情を変えると、


「良い目をしている。何百何千という戦闘を潜り抜けてきた者の目だ。だが、まだ若いな」


 シルヴァーニは間を置くと、愉快そうに告げる。


「ーーーー少々、自信過剰すぎる」


 その瞬間。

 俺は全身の魔力を振り絞った。

 

 上空から高速で闇色の巨大な剣が落ちてくる。それを"強化"した左手で受け止めようとする。


 迸る魔力に耐えきれずに、大地が割れ、空間が歪んだ。砂煙が巻き上がる。


 だが。


 俺は、その場に立っていた。


 掲げた左手はボロボロになり、大量の血が流れ出ている。この戦闘では使い物にならないだろう。


 だが、それでも立っていた。奴の攻撃を耐えきった。


「へえ?」


 シルヴァーニが愉快げに声を発する。

 

「中々の魔力量だ。俺の"黒劔"に耐えられるとはな」


 本当なら、『瞬間移動』でかわすこともできた。だがあれをかわしてしまえば多分レナに直撃していただろう。

 …………痛ってえな。あの野郎、叩き潰してやる。


「だが、自信過剰であることは訂正しないぞ?」


 シルヴァー二が目で追えない速度で投げナイフを繰り出した。

 俺目がけて、ではなく。


 レナへ向けて。


「……………ッ!」


 恐怖を跳ね除けてレナが鉤爪を振るおうとするが、間に合わない。


 投げナイフが直撃する。

 その直前。


 『瞬間移動』した俺が投げナイフを剣で跳ね飛ばした。

 その瞬間、シルヴァー二は驚愕の表情を浮かべる。やはり天使から貰った能力だけあって、奴もこの能力には驚くらしい。


 奴がこの力を訝しむ間に5秒のインターバルを置き、一度『瞬間移動』を決行。

 転移場所は。

 シルヴァー二の、目の前。


「!!」

「ーーーー自信過剰なのは」


 右手だけで上段に振りかぶった剣を。


「ーーてめえだ!!!」


 全力で振り下ろした。


 だが、奴を殺すことは叶わなかった。

 真下から操られている剛力熊が跳ね跳んで、シルヴァー二の盾となった。

 クロスガードした剛力熊の腕ごと首を斬り裂く。

 咆哮すら上げなかった。一瞬で剛力熊は死を迎えた。


 その間にシルヴァー二は後ろに下がっていた。


「チィ…………!!」


 ここで仕留めたかった。『瞬間移動』の能力は奇襲には最適。だが、一度認識されてしまえば奴は警戒するだろう。


「奇怪な術を操るようだな、人間!」


 大木を破壊してシルヴァー二が突撃してくる。とんでもなく速い。

 咄嗟に剣で蹴りを抑えようとするが、その瞬間、奴の体がブレた。

 残像すら残すほどの速さ。

 当然ながらそれに反応出来るはずもなく。

 脇腹に飛び蹴りが炸裂した。

 ミシミシ、と鈍い音が響く。骨が、折れた。


「がぁっっ…………!!」


 苦悶の声を上げながら吹っ飛ぶが、奴は砲弾のように吹っ飛ぶ俺に追随して、


「遅いぞ、人間」


 殴り飛ばした。俺の吹き飛ぶ軌道が変更され、大木に叩きつけられる。同時に大木がへし折れ、地面へと落ちた。

 俺は左手は使い物にならない。更に今の攻撃で肋骨を何本も骨折した。

 対するシルヴァー二は、無傷。

 


 桁違い。

 

「こいつ…………!!!!」


 怒りが湧き上がるが、それに任せて襲い掛かるような真似はしない。

 行動は冷静に、最善の選択を繰り返せ。

 元軍人の爺さんに教えてもらったことを思い出す。


 そうだ。この場には俺一人ってわけじゃない。レナもいる。勝てない相手からはひとまず逃げるのが最善だろう。

 だがその前に、一つ確認しなければいけないことがある。


「…………おい」


 悠々とこちらに歩いてくるシルヴァー二へと、質問する。


「この剛力熊を操ってたのはてめえだよな?」

「何を今更」

「じゃあ、フレイムドラゴンを操って、犬獣人の村を滅ぼしたのも、てめえか?」

「よく知ってるじゃないか」


 緑髪の悪魔シルヴァー二は、当たり前のことのように告げた。

 

 激情を噛み殺し、冷徹に質問する。


「…………何故、滅ぼした」


 シルヴァー二はその質問を受けて首を傾げながら、本気で分からないのか? とでも言いたそうな口調で。


「何を言っているんだ、俺は悪魔だよ? 人間は殺すに決まっているじゃあないか」


 思考に、空白が生じた。

 

「まあこの街を滅ぼす過程でたまたま目に入ったから、といった方が正しいのか。ライラの街には少々重要な品があるものでな」


 その思考は、徐々に紅く染められていく。


「キ、サ、マーーーーー」


 こいつは、たったそれだけの理由で、スコットの村を滅ぼしたのか。

 目障りだったから、ただそれだけ。

 ただそれだけで、数多くの笑顔が失われた。

 

 俺は、そんなものを許してしまってもいいのか。

 そんな理不尽を許容してもいいのか。


 ーーーー人間の誇りに賭けて、こいつを絶対に許すわけにはいかない。


「人の命をーーーー」


 魔力を滾らせる。剣は握らない。俺が最も信頼を預ける武器へと手を掛ける。

 ホルスターから抜いたのは、鈍く光る地球の戦いの代名詞。


 拳銃。ベレッタM92F。


「ーー何だと思ってやがる!!!」


 引鉄を、引いた。生物には絶対に超えられない『音速の壁』をいとも簡単に越え、凄まじい轟音を響かせながら銃弾がシルヴァー二へと迫る。

 生物には、絶対に反応できない一撃。

 『銃鬼』の手によって完璧な軌道に乗せられた弾丸は。


 かわすことなど、許されない。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ