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傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
悪魔襲来編
11/23

とある悲劇と猫耳の少女

 スコット・ウルフスタンは、ついこの前、自らの住む村を滅ぼされた。

 犬獣人のとある一族の住む山村で、規模は小さかったがそれなりに幸せに暮らしていた。

 彼は持ち前の剣技を活かして冒険者となり、近くにあった小さな迷宮を踏破したりもしていた。

 "魔物心読"という不思議な能力もあった。時折、魔物の心が読めるだけの力だったが。

 でも、彼は貧乏だった。なぜなら人の少ない村では冒険者の需要は少ない。当然のように冒険者ギルドもなかった。

 依頼は村長の家で受けるしかなかった。

 その村には彼を含めて3人しか冒険者はいなかった。

 それでも彼は、たった一人の家族である妹のために必死で働いた。

 だが、彼は徐々に大した成果が出せなくなっていった。依頼は失敗が続き、ランクを一つ落とされた。

 彼は荒んでいった。妹を養うために、悪事に手を染め始めた。横暴な振る舞いをすることが増え、金のためならなんでもやった。


 そんな彼はある日、妹に説教された。自分が養っている妹に。そんな方法で稼いだ金はいらないと。そんな金を使うぐらいなら私が稼ぐ、と。

 だが、まだ幼い妹に金が稼げるはずもない。

 結果、彼は改心した。

 冒険者として復帰をした。必死にやれば依頼で成果は挙げられたし、そのおかげでCランクに昇格することもできた。


 そんな順風満帆なある日、村が襲われた。

 昔から温厚な竜だと言われてきたフレイムドラゴン。その竜は森で見かけることもあったが、危害さえ加えなければ素通りもできた。魔物に分類していいのかすら分からない、そんな竜だった。


 それが目の色を変えて、ただ暴れていた。狂気。何かに操られているようにも見えた。しかし"魔物使役術"でドラゴンを操れた事例など聞いたことがなかった。だから原因は分からない。


 ただ結果として村は襲われた。スコット含む3人の冒険者が指揮をし、村の男衆と共に立ち向かった。

 

 彼は勝てなかった。


 物理攻撃が全く効かないフレイムドラゴンに、自慢の剣技は意味をなさない。

 冒険者の一人が魔術師だったため、戦線はギリギリで保っていたが、彼が死んでからは総崩れだった。


 村は滅ぼされ、山に逃げ隠れた女衆と子どもたちは殺された。スコットはそれでも妹だけは逃がそうとした。

 

 その結果が今だ。妹は死に、彼一人がしぶとく生き残った。見逃された要因は彼には全く分からない。

 村を滅ぼされ、守るべき者も何もかも失った彼に残ったのは、"魔物心読"によって読めた竜の心だけだった。


 ーー10月18日。午後一時。ライラの街。襲撃。殲滅。


 まるで誰かに指示されたかのような内容だった。そう思ってモンスターテイマーなどを探ってみたが、怪しい者などいくらでもいる上、竜がテイムできるような者はやはりいなかった。


 いるかも分からない黒幕より、まずはフレイムドラゴンそのものを追わなくてはならない。

 そう思い、スコットはライラの街へと向かったのだ。


 その話は、誰も信じてはくれなかった。

 英雄を名乗るその青年以外は。

 

 ◇

 

 俺は冒険者ギルドに向かっていた。

 あれだけ格好良く言い放ったはいいものの、セシルが依頼から帰ってくるまではやることがないのだ。

 そのため簡単な依頼でも受けようかと思ったのだ。


 ギルドに入り、依頼掲示板を眺める。

 うーん…………何受けようかな。こうして見ると色々な依頼がある。

 魔物の討伐依頼。

 魔物の素材を求める狩猟依頼。

 迷宮の地図作成や踏破依頼。

 採集や採掘依頼。

 後はこの街にはないが、未開の地の探索依頼などがあるらしい。


 …………これにするか。


 その依頼を掲示板から剥ぎ取ろうとすると、誰かの手と重なった。

 細い指だ。どうやらこの人も同じ依頼を受けようとしたらしい。すごい偶然だな。

 とりあえず話し合おうと顔を上げると、絶句した。


 明るい茶色の髪をショートカットに切り、大きな碧眼の眼は、顔の造型の可愛らしさを強調している。

 柔らかな髪からは猫耳がぴょんと覗いていて、程良い大きさの胸を経て下を見ると、猫の尻尾が生えているのが見える。

 可愛らしい見た目なのにどこかしらクールな雰囲気を醸し出す、18歳くらいと思われる獣人の少女だった。


 彼女はジト目で絶句している俺を見る。


「何よ?」

「いや、可愛いなって」

「は、はああああ!? 何よ突然! ふさけてるの!?」


 素直に本音を告げるとクールな印象を受けた少女は顔を紅くしてあたふたとし始めた。

 こういうこと言われたことないのかな。

 なにこの子マジ可愛い。


「なあこの猫耳触っていい?」

「な、馴れ馴れしいわね。ダメに決まってるでしょ!」

「うわーふさふさする。すげえなこれ」

「ふにゃあ…………じゃなくて! ダメって言ったじゃない!」

「えーでも気持ちよさそうだったじゃん?」

「そ、そういう問題じゃないもん!」


 顔を紅くして涙目で反論してくる。最初のクールな印象とは真逆だ。このギャップがいいな。


「分かった分かった。よしよし」

「にゃああぁ…………」


 頭を撫でてやると、気持ちよさそうに表情を緩めるので問題ないだろうと判断する。

 その途中でハッとした表情をすると、「うー」と言いながら涙目で睨んでくる。なにこの子マジ可愛い。


 そろそろ本題に戻すか。


「君もこの依頼受けたいのか?」 

「そ、そうよ。私が受けるから辞退しなさい!」

「んじゃー2人で受けるか」

「ふぇっ?」

「おーいジムさーん。この子と一緒にこの依頼受けるわ」

「おう。ギルドカード出しな」

「うぅ…………頭が追いつかないよぅ」


 さて、まずは依頼に集中だ。セシルの奴は街に戻ってきてから口説く。

 フレイムドラゴンに関しての情報も夜調べよう。


「さあ行くぞ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 当然だが、待たない。



 

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