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傭兵の異世界召喚記  作者: 雨宮和希
悪魔襲来編
10/23

異世界の英雄

 昼食を食べにギルド兼酒場の冒険者ギルドへと向かっていた。

 冒険者ギルドはライラの街の中央部に位置している。その近くの広場での出来事だった。

 人だかりができている。好奇心から、つま先立ちで中央を見やると、


 スコットが、セシルに土下座をしていた。


 頼む、もう時間がないんだ、と。

 それに対してセシルは苦い顔で答えている。


 俺は隣にいる冒険者風の青年に話しかけた。


「これはなんの騒ぎだ?」

「あん? スコットの奴がまた『魔眼』に頼みこんでんだよ。フレイムドラゴンを討つには戦力が足りねえって分かってんのにな」

「街を救うためだっけ」

「どうせそんなもん口実に決まってる。フレイムドラゴンが本当に襲ってくるはずねえだろ。あれは危害を加えない限りは温厚な魔物なんだ。奴の村が滅ぼされたのだってどうせ危害を加えたからだろ」

「でもスコットは違うって言ってるんだろ?」

「信じられるかよそんなもん。身勝手な復讐のために『魔眼』の協力を求めてるんだろ。普通はそう考える」


 なるほど。それが普通の意見なのか。

 他にも2人に同じことを聞いてみたが概ね冒険者風の青年と同じ意見だった。やはりこれが一般論なようだ。


「頼む、頼むよ。後2日しかねえんだ! あんたも街が襲われてる光景なんて見たくねえだろ!?」

「…………見たくありませんし、倒せるのなら倒したいですが、この街の戦力じゃあ明らかに戦力不足です。例えあなたの話が真実だったとしても、Aランクが2人しかいない現状では無理なんです。…………すいません。僕はこれで」


 そう言ってセシルは後ろを向き、街門を目指して歩いていく。依頼を遂行しに行くのだろう。

 スコットはそれでも土下座の態勢のままだった。

 それを合図にしたように人だかりが消えていく。皆、スコットに軽蔑の視線を向けながら。


 俺は土下座から動かないスコットに話しかけた。


「おい」


 奴は顔を上げた。泣いている。どうでもいいが男の犬耳はただウザいだけだな。


「ああ……ルーキーの兄ちゃんか。俺を笑いに来たのか?」

「お前、時間がないって言ってたな」


 スコットの話を無視して、俺の言葉を続ける。


「…………? ああ時間がねえんだ。あの竜がこの街を襲ってくるのは遅くても2日後なんだ。誰も信じちゃくれないけどな」

「襲ってきてからじゃ遅いのか?」

「遅いに決まってる! それで犠牲になるのは俺たち冒険者じゃなくて、ただの民間人なんだぞ!!」

「本当は、襲って来ないからじゃないのか?」

「…………お前も信じてはくれないのか。……………………いやこんな話されてもどうせ俺も信じないけどな。あの温厚なフレイムドラゴンが、街を襲いに来るなんて」


 フレイムドラゴンはやはり温厚で通ってるらしい。


「だが俺は確かに、竜の心を見たんだ」


 そう言って、スコットは下を向きながら拳を握りしめる。


「おい」

「…………」

「顔を上げろ。そして、俺の目を見ろ」

「……何だよ?」

「お前は、嘘をついてないんだな?」


 確認する。スコットが嘘をついていれば、俺には確実に分かる。俺は今まで、何百何千人と嘘つきの目を見てきた。俺の尋問は、たかがホラで乗り切れるようなものではない。


 この眼は、真実を見抜く。


「ああ。誓ってもいい。俺は、嘘をついていない」


 それは、透き通るような眼だった。


「お前にこの街を守る義理はないはずだ。聞けばこの街に来てから一ヶ月も経ってねえらしいじゃねえか? 何故そうまでして守ろうとする。お前の話を聞かない連中なんか見捨てればいいじゃねえか」

「…………見捨てようと、そう思ったこともある」


 犬獣人の小悪党顔の男は、語る。


「でも、俺にはそれが出来ねえんだ。妹と約束しちまったもんでな」

「どんな約束だ?」

「今までは、小悪党みてえなことばっかりやってたけど、これからは、人に誇れるような生き方をするって…………今はもう死んだ妹との約束だ」

「その妹は、」

「ああ、村を滅ぼされたときに死んだ。だから見捨てられないんだ。俺はここでこの街を見捨てたら、人に誇れるとは思えねえ。……でも、俺1人じゃ奴は倒せねんだ…………!!! 強い魔術師とかを連れてくれば良かったんだろうが、俺にはそんなツテも金もなくて……!」

「分かった」


 俺は淡々と告げた。


「お前は嘘をついていない」

「信じて、くれるのか」

「ああ」

「ありがとう……」

「お前は、『実体』さえ見えるならフレイムドラゴンとでも戦える冒険者を集めておけ」

「…………それくらいならできるが、でも肝心の」


 スコットの言葉に割り込んで答えた。


「セシルの奴は俺が説得してやる。戦力の不足も俺一人で埋めてやる」

「……そんなこと出来るのか?」

「出来る」


 俺は泰然と胸を張る。ただひたすらに誰かを護れる強さを追い求めた傭兵を、なめるな。今まで俺が、何人の敵兵を殺し、何人の民衆を救ってきたと思っている。


「俺は英雄だ。この街を救う理由なんざ、それだけで充分だ」



 ーーーー『銃鬼』は立ち上がる。



 


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