首都東京侵撃戦②
首都。おれこの間までいたんですよね。
武蔵小金井ですけど。
飛行を続け、準一は東北地方から関東へ向かい、東京を視界に入れると、幾つかのカメラ映像を見る。少しの範囲だが、市街地は、戦火に包まれている。
既に戦闘状況が始まっているのは一目で分かる。
舌打ちし、準一は出力系のスロットルをギリギリまで押し、フットペダルを踏み込むと椿姫の飛行形態用の外部ユニット、その2つのノズルが青の火を噴き出し、一瞬の爆発的加速の後航空燃料を燃焼しての白い煙を噴き、新型ユニットとでの併用に寄っての超加速。
だが、準一にとって苦ではない。
椿姫はまっすぐ東京へ進む、だがレーダー上には此方に向かって来るであろう編隊。ベクターか、戦闘機か。
サブモニターに識別が出る。
コンピュータのデータバンクに該当機あり
「イーター……空戦用にユニットを」
イーターは陸戦機。無理やりユニットを付けた突貫機。なれば敵ではない。
迫るイーター5機を網膜照準システムでロック。
パネル操作、ミサイル発射可能。
左旋回、同時。ミサイルをばら撒く。ミサイルは全て煙を噴きながらイーターに向かう。
イーター。回避機動、同時に迎撃用の小口径バルカンをAAWオート。だが弾丸の着弾前にミサイルは四散。
小型の追尾弾頭が幾つも飛び出しイーターを追う。
最早、その弾頭に狙われた突貫機のイーターに逃げる術はない、5機は機の数か所以上に弾頭の直撃を受け、四肢は爆ぜコクピットブロックは爆発。
撃墜を確認し、準一は椿姫を再び東京へ向け、再加速。
『こいつぁ……とんだとりモンだぜ』と上陸し、八王子のアルぺリスへ向かったマリンのパイロットは、コクピット内でせせら笑う。
マリンの眼前には、シートに包まれたアルぺリス。牽引車ではなく、ヘリで輸送する予定だったのだろうが、ヘリは落とされている。
アルぺリスが寝かされているのは、工廠隣の大きな野外のベクター可動施設。
移送に携わった整備員達は腰を抜かし、機甲艦隊から派遣された携帯火器を装備した歩兵隊はマリンにロケット砲を向けるが、マリンは対人制圧用の散弾をばら撒く。
『用事はこいつだ』
パイロットは言うと、マリンの右手でアルぺリスのシートを捲り、投げ捨てる。露わになったアルぺリスは、建御雷を装備しており、コクピットブロックの胸部ハッチは開いている。
無人だ。とパイロットは笑みを浮かべた。準一を案内した女性整備員はマズイ、と思いながらも何も出来ない。ベクター相手では勝ち目はない。
アルぺリスの追加装備実装、これを秘密にして行ったツケだ。護衛の為の部隊は歩兵しかない。
マリンの左手が、アルぺリスにゆっくりと近づく。
『一気に大手柄だぜ』
パイロットがそう口にした瞬間だった。
アルぺリスの両サイドアーマーに、取り付けられていたワーヤーガンが起動。仰向けのアルぺリスからワイヤーが打ち上げられ、それはマリンを縛り、ワイヤーの引きと同時、マリンはアルぺリスに無理やりくっ付く。
『こ、こいつ! 無人じゃねえのかよ!』
依然として、アルぺリスのハッチは開いたまま。
アルぺリスはデュアルアイに深紅の光を灯し、ゆっくりと上半身を起こす。
その様子を見て、整備員達は驚く。
もがくマリンは、ただ小刻みに揺れるだけでワイヤーに縛られたまま、次の瞬間にはアルぺリスの左腕がマリンを貫き、その小さな動きすらなくなる。
見て居る整備員の誰もが、一体何が。と思うが、アルぺリスが回答を出すわけが無い。ただ純白の翼を背負う巨人は、ゆっくりと立ち上がり、東京湾へ目を向ける。
まさか、無人で戦闘に?
と思った時だった。
アルぺリスにロケット弾数発が命中。怯む事無く、ロケット弾の直撃を盾で防いだアルぺリスは、そのロケット弾を撃った脅威に目をやる。
戦闘ヘリ3機。ベクター2機。市街地にもかかわらずアルぺリスにまっすぐ進撃中だ。
ヘリが無誘導ロケット弾発射可能体勢に入る。ベクターもロケットランチャーを構える。
アルぺリスはただ、左の掌を向け、微動だにしない。
直後、発射され、ロケット弾が迫るが建御雷、その6ある砲の一番上の2門が起動。紫色の光が収束され、一気に放出される。
まるで蛇の様に、這う、生き物の様にベクターに迫ると、舐め回す様に切り裂く。
爆発はせず、溶けた装甲が落ちる。
それに興味が無いかのように、アルぺリスはジャンプし、ヘリにワイヤーガンを撃ち込むと、それを振り回し他の2機を破壊。
残ったベクター一機は逃げようとするが、アルぺリスが眼前に迫り、腕の仕込みトンファーを起動させ、アルぺリスへ突き出す。
アルぺリスは左のワイヤーを打ち上げ、それを左手で操り、ベクターの腕を絡め取ると、膝を上げ、絡めた腕の関節を折り、回し蹴りを決め、ベクターはテナント募集の4階建ての建物に激突。
ベクターは頭部を向けるが、アルぺリスに頭部を踏みつけられ、そのままハッチを引きはがされ、生身のパイロットに、腕部の対人用20mm3連ガトリングガンが撃ち込まれ、肉片が飛び、血が噴き出す。
それを腕に浴びたアルぺリスは、ただ動かず。待つようにして動きを止める。
人の居なくなった東京。完全ではないが、最早ゴーストタウン状態だ。八王子へ向かう為には、確実に敵部隊と当たってしまう。出来れば、機械魔導天使の部隊とは当たりたくない、が本音だ。
準一は出来る限りの部隊に支援を頼む。差し向けられたのは、改修に改修を受けた悪鬼。どんなものか、と思っていれば、悪鬼のパイロットはかなりの凄腕で、準一の障害となるモノを片っ端から倒していた。
そして、初の準一との共闘でありながら、コンビネーション、いや準一への合わせも抜群。準一は驚いていた。
そんな、準一達の眼前を航空自衛隊の戦闘機編隊が、航跡雲の軌跡を描く中、椿姫に通信が入る。
「八王子から?」
女性整備員から。出てみると、通信はかなりノイズが走っている。もはや聞こえる訳ない、と切ろうとした時、微かに聞こえた。
「アル…スが…あなた…誰もいない…倒し」
アルぺリスが、俺無しで。倒した? まさか、無人で? ありえない。なぜなら、準一がそんな事命令していないからだ。
そんな馬鹿な事、あるわけが無い。
装備している砲、その砲口を眼前の障害へ向け、発砲。障害は排除され、八王子への道が開け、悪鬼は早く行け、とジェスチャー。椿姫は一度敬礼し、八王子へ加速。
そして、爆発などの煙が一度風で晴れ、準一の目に飛び込んできたのは翼を広げ、椿姫を見据えるアルぺリス。
椿姫が目の前に降り、ハッチが開き準一が出るやいなや、アルぺリスは膝を付き、準一に左手を差し出す。
帰りを待っていた、騎士か。はたまた別の何かか。
いや、考える余裕はない。さっさと出なければ。
恐らく、対人戦闘は八千条巳六が対応している。なれば、自分の役割は機械魔導天使や機動兵器の排除。
アルぺリスに乗り込み、ハッチを閉じ、準一は機を飛翔させ、花火の様に爆発の広がる東京湾へ向かった。