エルフ
久しぶりの更新です。時間がかかりました。眠かった。
手がかなり鈍りました。
碧武九州校に掛けられていた空間魔法は、派遣された2人の高位魔術師。七聖剣の2人によって解除された。発動した術者は、式神を使用し、遠隔操作。それ故に効力の衰えを嫌ってか、複数体の式神と、式神と同じ術式の式機神を投入していた。
式機神は15m級の対ベクター戦用の戦闘式神。
派遣された2人。1人は来栖春樹。もう1人は、西園寺永華。
来栖春樹は、碧武九州校生徒会長揖宿洋介と同系統の魔法『自在浮遊剣』を使用した、機械魔導天使、及び生身での白兵を得意とする。
一方、西園寺永華は式神、黒式・白式、での戦闘を得意とする。
術を解除し、2人は来校していたシスターライラに挨拶をした。
ナースは襲い掛かってくることは無く、その向こうから見覚えのある女性が姿を現す。吸血姫、クイーンシェリエス。
笑みを浮かべたまま、自分が持てるように小さくしたロツンディフォリアを持っている。
「やっぱり駄目ね。あなたの血は使えないわ」
やれやれ、と言いたげなシェリエス。準一は目を細める。「あの魔法はあんたの仕業か。何が狙いだ」
「吸血鬼よ。血以外に何が?」
「その血を何に?」
代理が聞く。シェリエスはロツンディフォリアを床に刺す。
「知ってるかどうかなんて、どうでも良いのだけれど。今、碧武九州校は私の差し向けた人間の襲撃を受けているわ」
準一は顔色を変えなかったが、代理は驚く。
「そこで使おうと思ったのよ。あなたの血を使って、そっくりな式神を作ろうと」
その術は、2人とも知っていた。対象となる人物の血を採取、別に血じゃなくてもいいのだが、身体の一部を札に貼り、特殊術式と詠唱により、そっくりな式神が出来上がる。高位魔術の一種だが、出来る人間は少ない。
「でも、あなたの血は、あなたのモノじゃない。血が使えない、つまり、他の部位も使えない」
この術に於いて、体内の血液は最低限その対象の人間のモノでなくてなならない。そうでなかった場合、皮膚、髪や他のモノも血と同様、使えなくなる。
「いいわ。術は解除してげる。……それまで、ゆっくりしたら?」
一瞬、フラッシュの様に光り空間が割れ、準一と代理は目の前が暗くなり、目を覚ました時、準一は東京の総合病院。代理は校長室。
七聖剣の1人である八千条巳六は、朝倉準一をも凌ぐ生身での白兵戦闘能力を有し、使用魔法はヨアヒムと同じ。展開魔法装甲。特殊な事情故、彼の腕には魔法発動の儀式場と同等のモノが埋め込まれてある。
その為、彼の右腕は『儀式場』と呼ばれている。
戦闘スタイルとしては、展開魔法装甲を使用し、元々高い身体能力での近接戦闘戦。身体能力で言えば、準一の方が高い。
展開魔法装甲の他には舞華と同じ、炎系統の魔法。爆発を引き起こすモノを使用。
通り名はある。
『紫炎の破壊者』
彼の魔法、装甲も炎も紫であり、尚且つ戦闘時の破壊力から来ている。
「まさか、朝倉準一。こうも簡単に敵の術に嵌るとはな」と、病室から出て屋上のベンチに座る準一に近づき、八千条巳六は嫌味気味に言う。
「事象変換魔法が発動しなかった。想定外だ」
クイーンシェリエスが発動したと思われる魔法。事象変換魔法での防御が聞かなかった。
彼女の目的は、自分の血だった。
「貴様の通り名『死を呼ぶ者』が聞いてあきれるな」
巳六が言うと、準一は立ち上がる。
「別にいいだろ。何だ、ここまで来て俺に嫌味を言いに来たのか?」
どうだか、と巳六は遠くを見る。現在の場所は武蔵小金井。武蔵小金井駅からほど近い。
「お前には少し同情する。流石にな」
「何の話だ?」
準一は目を細め、巳六を見る。
「ここ最近の事だ。お前は、碧武九州校に転入してからというもの、圧倒的に特殊な魔術師との戦闘が多くなった。今回も、吸血姫にアルシエル、氷月千早。お前に関わりがある人間だ」
「別に、あんたに同情されるいわれはない」
「冷たいな」
「あんたは嫌いだ」
参った、と巳六は息を吐く。190以上ある彼は、手すりによっかかろうとするが、あまりにサイズが違うのでそれを止める。
「聞いたか? 万が一の事態に備えて、機甲艦隊はとうとう淡雪を投入するらしい」
八千条巳六の言う万が一の事態。それは、事が進み過ぎた後で起こるかもしれない、首都での戦闘。だが望ましくない、戦闘になる前に火種は消さなければならない、だが火の粉、艦船や航空機やその他はやってくるが、淡雪は大和以上の火力だ。
全てにおいて総合的な迎撃能力は高い。
「ま、投入といってもビックサイトの目の前において、いざって時に使う気らしい」
そのいざ、と言う時に備えているのだろうが、明らかに東京湾、もしくはその沖合での戦闘を想定している。
「そんな話、どっから聞いたんだ?」
「ツテを辿ってな。『紫炎の破壊者』は伊達じゃない」
準一はゆっくりと巳六の横に立つと、手すりに左手を置く。
「他に動きは?」
「あると言えばある。特に、お前に関係する事だ」
俺に? と聞くと巳六は手紙を取り出し、準一に渡す。開くと、アリシアからのモノだ。
九州弁で、解読ギリギリの字で書き殴ってはいる。ただ一言だけ。
『八王子に置き土産!!』
取りに行くか。準一は病室に戻り着替えると八王子工廠へ向かった。
「テンペストの部隊長にネバダのテストパイロット。それに揖宿家の子息」
来栖春樹は、会合会に使用される会館に集まった戦力たる生徒、その3人を見て驚きの声を出す。「驚きだな。ここまでレアな人材が」
「春樹」
スーツ姿の西園寺永華は、縁の黒いメガネを取り、レンズを拭き春樹を見る。
「何だ永華」
「何だじゃないわよ。驚く前にさっさと本題に入ってよ」
へいへい、と春樹は揃った生徒を見渡す。揖宿、エディ、ロン、綾乃、カノンの5人。
「聞くが、碧武には魔術師の会合会があり、魔術師は他にも居るって聞いたんだが」
春樹が聞くと揖宿が答える。
「本来なら戦力として組み込むはずなんでしょうが、彼らの魔法ではオーダーレベル以外の任務は無謀です」
「成程」
納得し、春樹は有事の際の説明をする。簡単に言えば、予測される首都圏での大規模戦闘、その際に九州校のこの選抜メンバーは、各校の選抜メンバーと共闘。
八王子工廠に着いた準一は、待っていた女性整備員に大きなシートに覆われたソレを見せられた。ベクターの稼働訓練に使われるその空間にあるそれを、作業用のベクターがシートを退ける。出て来たのは、射撃武装。
「これは?」
準一が聞くと整備員は資料を捲る。「アルぺリスの新装備です。名は建御雷」
言われ、それを見る。
発射口らしき部分やそのほかの部分には、何かしらの装飾がされてある。
日本らしい建御雷、と言う名でありながら装飾は西洋の騎士に施されるものに近い。
「アリシア技術大尉が必要になるかもって、鹵獲や破壊した機械魔導天使のパーツをかき集めてせっせと作ってましたよ」
それを聞き、準一は苦笑いする。「そりゃ、申し訳ない事したな」
「ぶーたれながら、文句も言いながらも結局やっちゃいますからね。技術大尉は。ツンデレですよ」
「ツンだけですよ。デレはありません」
「あら、昨日ここに居た時まではちょいちょいデレてましたよ?」
デレてた? と準一は無意識に聞き返す。
「はい、最近構ってくれないとか、遊んでくれないとか、頭撫でてくれないとか」
何とも妹に似た奴だ、と思いながらアルぺリスを召喚する。
「では……お願いします」
「はい、では次取りに来るまでに完全にしておきますね。建御雷ですが、取り付けはマウントアームで行いますが、内部システムの同調だけは少尉の仕事です。マニュアルを渡しておきます」
準一は受け取り、一ページ目を捲る。椿姫の飛行形態への移行の為の外部ユニットのマニュアルと同等の厚さだ。
「多いですね……」
見ながら、1つの項目に目を止める。
建御雷を使用するにあたっての儀式場、と書いてある。
「儀式場……」
呟くと、準一は踵を返し区画を後にする。
「相変わらず、信じられない勘の良さね。確かめてはいないのでしょう?」
八王子まで、準一を迎えに来たシスターライラは微笑む。
準一が工廠から出てライラに聞いたのは、もしかして、呪いに掛ってるんじゃないか?
「まぁ、確かめてないな」
「ちょっと、それいいかしら?」
ライラは準一の持っているマニュアルを受け取ると、準一が目を止めたページを捲る。
「ああ……儀式場ね」
何かに納得したライラはマニュアルを返す。
「吸血姫の呪いだろ? やっぱり」
「ええ。まさかシベリアでの攻撃が時間差で。ツケが回って来たわね」
長く息を吐き、準一は儀式場の項目を見る。
ツケが回って来た。時間差で、流し込まれたシェリエスの血が効いてきた。効果としては、過去のジェイバックと同じ、魔力に混濁を起こす。
吸血姫はまず、シベリアでの戦闘時、準一の体内に血を流す。そして、その血を媒介とし、準一自身を魔法発動の為の儀式場とし、事象変換魔法を無視した、あの幻惑、おかしなナースのいる病院へと誘った。
「だからあの九州弁の技術大尉は建御雷ってのをあなたにあげたんでしょ? 随分と、魔法に詳しいのね。その大尉は」
「勤勉だからな。しかし、これで俺もエリーナと同じ状況だ」
機械魔導天使を発動し、使用できても肝心の魔法は発動できない。つまりは、準一の加速、硬化は使用できない。
「じゃあどうするの? 今回は吸血姫に神聖なる天使隊、それに氷月千早。全てがあなたを狙って来るわよ?」
分かっている事だ。
「お前……知ってんだろ? アルぺリスのアレ」
「ああ……ファルシオンね。政府から使用許可はおりたの?」
「そりゃな。魔法が使えない以上、ファルシオンしかない。デストロイドアローもオーバーブラストアーチェリーも魔法の1つだしな」
成程ね、と言うとライラは時間を見る。
「そろそろ頃合いね。どうする? もしかすると、魔法を使えるようにできるかもしれないわ」
「あんたの護符じゃ無理……って事は」
「世界最高峰の治癒魔法が使える人のところよ」
そう言って準一とライラは、1日掛けてヨーロッパへ飛び、アルプス山脈の草木が程よく生えた平原に居た。ハイジがいそう。
「あ」と声を出したのは、少し小高い場所に立っている家から顔を覗かせた、帽子を被った金髪の少女だ。目があい準一が手を挙げると、少女は手に持っていたバスケットと置き、下まで駆け降りると準一に抱き着く。
「久しぶり! もう、一年ぶりかしら」
「そのくらいだな。ここはどうだ?」
「平和よ」
やり取りを見ながら、ライラは唖然としている。
「あら? こちらのシスターは? 準一様の知り合い?」と抱き着いたまま少女が聞く。
「ええ……知り合いだけれど。あなた、いつからこの子と知り合いになったの?」
ライラは準一に聞く。
「いつからって、こいつは俺がここに連れて来たみたいなもんだし」
準一のそれを聞き、ライラは少女を見る。「そうなの?」
「はい。私たちを収容所から助けてくれたんです」
少女が言うと、ライラはジト目で準一を見る。
「流石、特級少尉殿は凄いわね。どこへ行っても女が居るみたい」
「言い方悪くない?」
「そう? 正しいでしょ?」
はぁ、と息を吐くと、ライラは辺りを見渡す。ぼやっと霧に隠れている。
準一に抱き着いていた少女は、帽子を取る。すると、長い金髪の横髪から、特徴的な耳が見える。
「じゃあ準一様、とシスターさん。いらっしゃい。私たちエルフの楽園へ」
エルフの少女、アネモネが微笑むと霧が晴れる。家が幾つも立ち並ぶそこは、少し古めかしいが街だ。
ここは、エルフが人目を気にせず暮らせるたった一つの場所だ。
エルフの特技は、その高度な治癒魔法だ。準一はそれを使ってもらおうと、街の診療所に入り、外で待つアネモネとライラはベンチに座っている。
「へぇ、彼が好きなの?」
「はい。大好きです」
「どんなところが?」
ライラが聞くと、アネモネは迷わず答える。
「初めてなんです。私、初めて可愛いって、綺麗って言われて」
両手を頬に当て、アネモネはニヤニヤしている。何やら、その場面を思い出している様だ。
「それに、ここに居るエルフの3割は準一に助けられてますからね。感謝してますし、中には私と同じように恋心を抱く者も少なくありません」
「成程ね……」
「あなたは?」
「え?」
「準一様の事。好きなんですか?」
「そうね……嫌いじゃないわ」
良かった、と言いたげにアネモネは胸を撫で下ろす。
「彼に結婚してって言ってみたら?」
「そんな、恐れ多いです」
恐れ多い? とライラは聞き返す。
「はい、彼は私たちを助けてくれたばかりか、身を隠す手伝い、そしてここまで連れて来てくれたんです。そんな彼と結婚? 同じ立場になんて立てません」
「でも好きなんでしょう?」
「そりゃあ……大好きですけど。私は人間ではありません。エルフです。まともな人間社会では生活できません。私なんて、精々彼の召使いとなって、誠心誠意ご奉仕……したいんですけど、準一様は駄目だって」
ライラはアネモネを見る。かなりの美少女だ。そんな彼女に様付けさせ、尚且つ彼女は自発的なご奉仕を申し出ている。
かなり美味しい役どころなのに、なんで否定するんだろうか。
黒妖聖教会のシスターには理解できない。
「もう私は、準一様に残りの人生と、身体も心も差し出す準備は出来ていますのに」
「身体って……エッチな事もいいのかしら?」
当然です。と覚悟を秘めた瞳をライラに向ける。一方ライラはアネモネの身体を見る。細いラインに出るところは出ている。
完璧なプロポーションだ。
「成程ね、こんな完璧なご奉仕召使いを連れて帰った暁には、妹の制裁が来るわけね。分かるわ。妹もエロいものね」
顎に手を当て、ライラが言うと出て来た準一が頭にチョップを落とす。
「バカ」
「バカはあなたよ。さっさと連れ帰りなさいよ。お持ち帰りしなさいよ。何でもやりたい放題よ」
「発想がきたねぇんだよ」
「こんくらい貪欲じゃなきゃ、やってられないわよ。で、成果は?」
準一は腕をまくって見せる。
「儀式場の破壊には成功した。んで、あとは吸血姫の血を取り除く作業だったんだが」
「ダメだったわけね」
「正解だ。だがまぁ、数回は加速、硬化魔法が使える。マシになったもんさ」
言うと、アネモネを見る。アネモネは、何かワクワクしている。
「えっと……どしたの?」
「い、いや。私を、お持ち帰りしないの?」
準一は肩を落とす。「まぁ、時間がある時な」
「既成事実、子作りね」とライラは親指を立て、グッジョブとアネモネを見る。アネモネも「頑張ります」とピースする。
「何その目、まさか興味ないのかしら?」
「じゅ、準一様。な、何でもやりたい放題よ。私なら」
アネモネが言うと、準一はゆっくりと
「言っておくがな。俺はそんなモン。興味なんてありはしないんだよ」
と答えるが、鼻血がダラダラ漏れている。
「嘘つけ」とライラ。準一は無言でポケットティッシュの一枚を鼻にねじ込む。
「興味……あるの」とアネモネ。「言っただろう、無い」と準一は答え、鼻を押さえる。
「触りたい放題よ?」
ライラが耳打ちすると、準一の鼻血は詰めていたティッシュを押し戻し、勢いよく噴出した。
「嘘。実は興味ある」
準一はそれだけ言うと、出血多量で倒れこむ。