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黒曜石と転移利用

 他より使い勝手のいい魔法。それが霧だ。

 大和の氷結が良い例だ。

 大和が動かなかったのは、霧の幻惑により凍っている、と錯覚させたからだ。それは、大和周囲の気温低下も同じ。寒い、と皆を錯覚させたからこそ、寒く感じた。

 出現していた幻のトラック泊地は、見よう見まねで作った幻想。

 その説明を、機甲艦隊の人間は黒妖聖教会のシスターライラから聞いた。

 


 大和を霧の魔法から救ってはや1カ月。10月に入り、碧武校は文化祭前日を迎えた。生徒の熱気は最高潮。活気あふれる文化祭準備も今日が最後、明日は生徒だけでの公開。その翌日こそ、一般公開。

 2年3組は大正っぽい恰好の女子生徒が接客する、という一種のコスプレ喫茶。教室内には、撮影禁止の張り紙。

 そりゃそうだ、張り紙が無ければ店内はさぞ大変なことになるだろう。

 ちなみに、接客は顔の良い男子と、女子生徒。他は厨房担当。

 そして、準一は準備期間かなり頑張ったので(主に男子に対しての料理指導)仕事は無く、全ての時間店を回れる。


 正直、準一を参加させないのには理由があった。

 準一が参加すると、料理の味にとんでもない差が生まれてしまうからだ。


 それを配慮してのお役御免だ。正直、準一としても回ってみたかったのでいいタイミングではあった。取り敢えず、現在の2年3組では慌ただしく料理が進んでいる。

 まだ前日なのに、当日並みの賑やかさだ。


「あ、弟」


 舞華、と声を掛けられ廊下で振り返った準一は絶句した。着物姿でスケキヨマスク。


「お前……怖い」


 準一が言うと舞華はマスクを取る。「怖いとは何だ。私は美人だ」


「怖いのはマスクだよ」

「何だマスクか。で、お前は何を一人で廊下を歩いているんだ? 友達居ないのか?」

「ああ、それに近い」


 可哀想に、と舞華は口元を押さえ、準一に近寄る。「仕方ないからお姉ちゃんが一緒に回ってやろう」

 そんな事を望んではいなかったが、舞華はもう一緒に回る気で、準一はただ引っ張られた。





「神への忠誠! 愛を! 加護を! そして筋肉最強神話! 世界は、筋肉マッスルによって成り立つ!」


 叫ぶマッスルに続いて、同好会メンバーは一斉に空を仰ぐ。この空の元、上半身裸なのは説明不要のマッスル同好会。

 筋肉なんたら神話がどうたらこうたら、と騒いでいるただの変態集団だが、以前披露した筋肉をメインとした喜劇はかなり好評で、それを足掛かりにメンバー集めに奔走している彼らだが、現在は文化祭に向けてのステージイベント。


 MUSCLEマッスル PARADISEパラダイス  SUPERスーパー DYNAMITEダイナマイト


 なる謎の演劇に向けて練習中。

 

「舞華。あの連中は無視しろ」

「分かった」


 準一は、マッスル同好会をスルーした。





 その後、舞華と別れた準一は、学校に遊びに来ていたシスターライラと合流し、ショッピングエリア内にあるテトラ・レイグレーのアルバイト先であるメイド喫茶に入った。

 当然、シスターライラからすればメイド喫茶は初めて、しかし準一はこなれたモノで


「いつもの」


 と注文。若干引き気味のシスターライラは平然を装いつつ「同じものを」と頼む。

 

「かしこまりましたー☆」


 多分、あの語尾の☆がウザいであろうシスターライラは顔を顰め、ただメイドさんの背中を見送る。


「そんなにメイドが珍しいのか?」

「そういうわけではないのだけれど……あなた、通い詰めてるの?」


 実は週1、のペースでこっそりロン・キャベル、揖宿洋介、子野日雄吾の3人と来ている、なんて言えないので


「いや、言ってみただけだよ」


 といつもの、と頼んだことを誤魔化した。

 ふーん、とシスターライラは信じていないが準一を呼んだ理由を説明する。


「あなたを呼んだ理由は、これ」


 シスターライラは懐から黒い石、だろうが、それは石器。ナイフに似ており、テーブルに置く。


「これは?」

「あなた知らない?」


 知らないから、これは? と聞いたのだが、と準一はライラを見る。


「黒曜石よ」


 黒曜石は知っている。まぁ、それを見せて来た、という事は、確実に魔法が絡んでいるのだろう。と考えつき、また厄介毎か? と準一は息を吐く。


「これと同じタイプ……まぁ、これは黒曜石を研磨し造り出したレプリカなんだけれどね」

「まて、先に確認するが、またあんたからの依頼か?」


 シスターライラは首を振り、真剣な顔つきで、準一を見据える。


「手助け、に近いわ。情報提供よ」

「……分かった」

「ありがと。で、この黒曜石を削り出したナイフだけれど、ある特殊な術者によって、特殊な詠唱を受ける事によって、特殊な武器へと性能が変化するの」


 ここで、メイドさんが注文。いつもの、と言ってもただのオムライス。


「いいですかー、愛情たっぷりー」


 とメイドさんはケチャップを1本全て使い切る。適当にぶっかけてるだけだけど。


「うわぁ」とシスターライラは引いている。一体、準一に対してなのか、ケチャップをぶちまけたメイドに対してなのかは定かではないが。


 メイドさんは頼んだ品を持って来て、すぐに退散。気を取り直したシスターライラは説明を続ける。


「過去、中東で戦ったでしょ? 魔法と科学を無理やり繋げた。拠点防衛用・大量破壊兵器・サジタリウス」

「分かった」


 と準一はコップを持ち、ライラを見る。「当ててやる」


「どうぞ」

「その黒曜石だが、その特殊な過程をこなす事により、サジタリウスの魔法、太陽か月かの光を攻撃へ転移させられる。違うか?」

「大正解」


 少し息を吐き、シスターライラは外を見る。


「これの厄介な所は、サジタリウスと違って、位が神ではない」

 

 ただの黒曜石をそうさせているだけ、それだけでは、同じ効果があろうとくらいまでは上がらない。


「だから、関連資料」


 そう言って、ライラは資料を取り出し、準一に渡す。ペラと捲り、準一は驚く。


「あなたと交戦経験のある人間でしょ?」


 資料の写真は、過去、碧武を襲撃したアイアンゴーレムを使う仮面男。リンフォード。

 

「まさか、こいつのゴーレムがその黒曜石?」

「その通り。ゴーレムの全身が、攻撃の発射機も同然。太陽と月、どちらかが出ているだけで相当な脅威よ」


 準一は機になった事があるので、資料を返し、聞く。「誰がこれを?」

 資料の写真は航空写真。無人機からの撮影ではない。


「本当は教えちゃダメなんだろうけど、私は貴方を信用しているから」


 艶やかな唇が、笑みを浮かべると同時に光り、準一は息を吐き、返答を待つ。


「反日軍よ。何処だと思った?」

「教団かと」


 残念、と前のめりになっていたライラは背もたれに背を付ける。


「確か、横浜の中華街の……そう、ウォンバット。その店から経由されて来たわ。ほら、ヨアヒムって居たでしょう?」

「ああ」

「あの男の日本での隠れ家よ」


 とは言っても、長崎、神戸、横浜のこの3つの中華街は、アジア系諸外国からの工作員・スパイの根城である。大抵は、逃げ遅れたか、姿を見せれば殺されるかだ。


「で、どうしてそのウォンバットは黒妖聖教会にこれを?」

「そりゃあ決まっているでしょう?」


 言ってみて、と準一は苦笑い。


「あなたと関わりがあるからよ」


 大概、面倒な仕事は準一に回って来るが、それには理由がる。日本国内での厄介毎、は五傳木千尋を含む4名が担当している。他、朝倉準一を含む3名が海外での厄介毎、言ってしまえば機甲艦隊の任務を担当。

 とは言っても、朝倉準一はタイミングの良さに定評があり、国内での厄介毎がある時、皆が留守にしている中や、現場に偶々居合わせたりする。

 

「俺に回って来るって事は」

「海外での可能性ありよ。でもま、今は文化祭を楽しんだら?」 


 コップの水を一口飲み、シスターライラは微笑む。


「七聖剣さん」

 





 学校下の格納庫では、転移利用、その為の儀式が終了した。彼女、エルシュタ自身が申告した期限の迫り、アルぺリスとは契約できず、尚且つ他の案が見つからなかった為、ブラッド・ローゼンのコアになる事で、生きる道を選んだ。

 しかしそうであっても、過去の神聖なる天使隊の襲撃時、ハンニバルの紙の十字架と呼ばれる高位魔法により、血と薔薇を奪われたブラッド・ローゼン、当然、魔法は使えない。

 だが、転移利用はあくまで魔法戦闘を有利に進める為のモノ、魔法が使えず、ベクター用の射撃武装で身を固めたブラッド・ローゼンからすれば堕天使は、必要などない。

 一度だけ、アルぺリスに接触を試みたエルシュタだが、アルぺリスが拒絶。

 

「初めからこうすれば良かったのでは?」


 格納庫でカノンに言われ、準一は隣を見る。「代理の方針だからな。お前、文化祭準備は?」


「終わってますよ。接客だけですから」


 ああ、そう。と準一はブラッド・ローゼンを見る。

 

 正直少し接客に関して心配な部分があった。それは結衣が人見知り、と言う点だ。

 結衣は人見知りがあるので、少しオドオドするかもしれない、もしかしたら変な輩に何かされるかもしれない。

 贔屓目なしに見ても、可愛いからな。

 と心配していたのだが、クラスの女子は完全フル武装。カノンに至っては、袖口にすぐ抜ける様に小型の制圧用拳銃を仕込み、脚の靴は何とほぼ鈍器。

 いや、そんなものを使えるのはカノンだけだが。


「兄さん。私が接客中に変な輩に掴まったら助けて下さいね」

「その時はお前が隠し持ってるって聞いた拳銃を抜いて、発砲すればいい」

「えー、いやです。兄さんに助けてもらいたいんです」


 俺店のシフト入ってないから無理だって、と思う準一だが何か言おうとする前に校長室に呼ばれる。



 校長室に入ると、同行していたカノンは代理に掴まり手錠をされる。


「あの……代理?」とカノン。代理は「ふふん」と笑い扉を指さす。「準一君、エスコート」


 代理の声の後、校長室のクローゼットからマリア、ジェシカ姉妹が姿を現す。恐らく、姉を奪われた、に近い状況であろうジェシカは準一を威嚇している。


「エスコートって、何をすればいいんです?」

「適当に、案内してあげて」


 分かりました。と準一は2人を連れショッピングエリアへと出向いた。


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