トラック泊地侵攻 ③
九州弁娘登場
一応、この辺の方言を喋らせているけど……
まぁ、大丈夫か
久しぶりに艦隊戦が書けるので嬉しいです
空母赤城に着艦したベクター輸送用ヘリ、アストロンはベクターではなく何かパーツの様なモノを運んで来た。
ヘリから降りて来たのは、中華系アメリカ人の幼女。カールのかかった長い金髪の彼女は、白衣のポケットに手を突っ込み、飛行甲板の端から、友人と共に釣糸を垂らす準一を見つけると、苦笑いする。
「ちょ! 準一!」
幼女に呼ばれ、準一は顔を向ける。準一の隣の中年男性と若い青年が「知り合いか?」と聞き、準一は頷き、釣竿を預け幼女に近寄る。
「久しぶりだな。アリシア」と準一が言った直後、幼女、アリシアは回し蹴りをするが、準一に腕に止められる。「とめんなちゃ! この野郎!」
準一は脚を下ろさせ、アリシアを見る。「何怒ってんだよ」
「怒るに決まっとうやろ! 折角あんたの為に作ったんに! 何で取りにこんの!」
「色々あるんだよ。それより、その作ったのは、使えるのか?」
聞くと、アリシアは「ふんッ!」とそっぽを向き「当たり前やろ」と仁王立ちになる。
「あたしがマジで作ったんやけ。椿姫、それも、あんたのカスタム機専用の長時間飛行形態。折角持ってきたんやけ、大事に使いよ?」
分かってるよ、と言うと上がって来た作業用ベクターがそのヘリのウィンチから降ろされたソレを、椿姫の元に運ばせる。
『特級少尉。このユニットは付けておく、それまで待っていてくれ。まだ時間はかかる』
了解しました。と言うと準一とアリシアは空母艦内へ向かった。
「ねぇ、榛名の後部甲板のでっかいブルーシートって?」アリシアが聞くと準一は笑みを向ける。「まだ秘密だ」
「あらあら、あなた1人。置いてけぼり?」と教室でレイラ・ヴィクトリアが頬を膨らませていた結衣をおちょくる。
「あら、そういうお姫様も、最近放置気味じゃありませんか?」
結衣は立ち上がり、レイラに向き合う。「あら、喧嘩を売ってますの?」
「残念ながら、大特価安売りバーゲンセール中ですよ」
「買いましたわ」
結衣とレイラは互いのデコをぶつけ取っ組み合いになる。綾乃と真尋は一歩下がった場所で頭を抱え、野次馬の本郷義明、三木原凛他クラスメート達は「めずらしい喧嘩だな」とどんな展開になるか、楽しみにしている。
「喧嘩だって!? そりゃよくないよ!」
このノリ、久しぶりだな、と生徒たちは入り口で燥ぎ回る校長代理を見る。
「喧嘩は派手に! クラスの中なんて狭い空間での喧嘩なんてナンセンスよ!」
本当に騒ぎを大きくしたいんだろうなぁ、と誰もが思った。
「さぁ、この騒ぎを馬鹿騒ぎまで大きくした挙句、最近騒いでない鬱憤を一気に晴らして、帰って来るであろう朝倉準一を血祭に―――!」
叫ぶ代理、その肩を2年3組担任の大庭が叩く。「代理」
「あら、どうかしたの?」
「いや、忘れているなら言いますが、今の時期を考えて下さい」
「え? 何かあったっけ?」
ため息を吐いた大庭は代理を見る。「文化祭」
あ、と代理は声を出す。
「忘れてた」
だろうと思ったよ、と皆は思うと大きく息を吐いた。
「あなた最初はツンデレ妹だったでしょう!」
「そんな過去は忘れた! あなたこそ、ヒロインのクセに登場数少ないのよ!」
焦点のずれた罵り合いは、他の者達のため息を誘発させた。
赤城艦内のブリーフィングルームに、同じメンバーが集められ、2度目のブリーフィングが始まった。まず、青年が言葉を言うと、アリシアが前に立つ。
「椿姫の新型装備と共に、敵情報を持って来てくれた。アリシア・メイヤン(美艶)だ」
アリシアは、ハワイの装備研究基地に所属し、八王子とも深く関わりのある人間で、準一とは割と仲が良い。
「まず、敵の情報を教えるわ。まず、敵には何らかの方法で魔法を発動させる術がある」
言うと、アリシアは投影ディスプレイに1つの画像を写す。「米軍の無人偵察機がトラック泊地を撮影したモノよ」
その画像を、皆は食い入るように見た。
「見てわかるとおり、この白いものに覆われたのは日本の大和だ」
皆は息を吐く。大和がそこにある事実、は安心できた。だがこの状況は。
「海面も基地も、大和も。恐らく、表面が凍っている。氷結魔法は確かだが、直ぐ後の画像だ」
次の画像では、大和は綺麗に消えていた。
「この直前、トラック泊地には広範囲に霧が広がっていた」
とアリシアが言った直後『艦隊前方に霧だ』と館内放送が流れ、皆はモニターに映された艦隊前方の霧を確認する。
「確認だ。ヘリを一機飛ばしてください」と内線を繋いだ青年の後、赤城の飛行甲板からは一機のヘリが霧に向かって飛び、姿は消える。
通信は霧に入った時点で途絶。艦隊司令は、取り敢えず霧に入ろう、と指示をする。
空母甲板では準一が椿姫に乗り込む。背中には高速飛行形態への移行の為のユニットを背負っている。
まだ戦闘機は上げない、何が起こるか分からないからだ。
その代り、神守が戦闘態勢に入り、2機は背中合わせで対空警戒を開始。
『各員へ。外へ通じなくなった』
霧に入った瞬間、艦隊にこの放送が流れ、各艦は戦闘態勢に入る。
雪風CICでレーダーを見ていた男が目の色を変える。「右舷より、飛行物体接近。……ミサイル!」
声を聴き、雪風のVLSが開き、対空ミサイル2発が放たれ、右舷より迫るミサイルに命中。
ミサイルビーコンが消え、一息つく間もなく、赤城の左を航行していた雪風も、左舷からのミサイルに気づき迎撃。
ここまで、ミサイルは結構近づいた距離から撃たれている。何故、分からなかったのか。レーダーを掻い潜った? いや、そんな装備ではない。
答えが出る前に、上空からミサイル数十発以上が降る。榛名、雪風、島風は対空ミサイルで落とせるだけ落とし、神守、椿姫が対空防御を援護する。
圧倒的弾幕の前にミサイルは全て落とされる。
「艦隊後方! 飛翔物20! ミサイルと思われる!」
艦隊後方、そこには艦は無い。最後尾の艦は空母赤城。神守が後ろに向き、ショルダーアーマーから対空ミサイルをばら撒き、椿姫は砲狙撃用の砲を構え、ミサイルに撃つ。
迎撃は成功。すると、攻撃が止む。
直後、空母赤城の左に水柱が立ち、空母は揺れる。
「状況報告!」揺れる艦内で聞く。「魚雷です!」
航跡確認、と神守の操縦者から通信。「魚雷だと……? 一体」艦長、艦隊司令は驚く。一体どうやって。
「霧を利用した、姿を消す魔法です」
椿姫から通信が入り、司令は「霧?」と聞き返すと辺りを見る。四方八方霧に囲まれて、まるで霧のドームに居る様だ。
「多分」と艦橋に上がって来たアリシアは、自身の頭を撫でる。「高位な魔法。姿を消させて近づけたんやろうけど、多分一回が限界」
次の姿を消しての一撃は無い? と聞き返すとアリシアは頷く。「高位魔術師で複数いるとは?」
「多分ありません。霧は特異な魔法で、少しの発動でかなりの広範囲を覆えます。この量では、恐らく一人」
「でも早めに進んだ方がいい」
分かった。と頷くと司令は艦隊を最大速度で進ませる。直後、レーダーに反応。ミサイル。雪風、島風、榛名はミサイルを上げ迎撃に当たる。
赤城も後部のVLSを開き、対空ミサイルを飛ばす。
ミサイルの爆発する光を見ながら、司令官は顎を撫でる。
「しかし参った。これでは弾薬を消費するだけだな」
それだけならいいけどな、と思いながら準一は機を警戒にあたらせる。
「準一、今回の敵、機械魔導天使の可能性はあるん?」
「いやないな。多分だが。天使が使えるなら、一気に勝負を仕掛ければいい。使用しているのは、簡易回路。一気にケリを付けるなら、簡単に壊れるくらい高度な魔法を使っているんだろう」
「だからちまちまと?」
司令の言葉に準一は肯定の返事をする。しかし、そうであっても問題はどこにミサイルを発射しているのがいるかだ。辺り一面霧に覆われ、それは魔法による現象と判明している以上、目に映る現実は虚構である、と考えた方が良い。
そして、ミサイルを撃っているであろうそれは、魔法の霧を盾にどんな方法で攻撃を無力化するか分からない。
それを理解している司令官は頭を悩ませる。
「一気に突破……特級少尉。どう思う?」
司令の言葉に準一は息を吐く。「止した方が良いかもしれません」
「あくまで、勘、ですが、ミサイルを撃って来ているソレは、霧の魔法でその空間内ならどの角度からでも撃てる筈です」
それが? と司令は聞き返す。
「現在、このトラック泊地へ侵攻する艦隊の周囲、辺り一面水平線までは霧が晴れています。で、進んでいる方向ですが、徐々に霧が迫っている。このまま行けば、艦隊は完全に敵の術中にはまってしまうかもしれません」
既に術中だろうに、とアリシアは思いながら外を見る。
「では、霧に入った時点で敵はどこからでも攻撃が?」
「ええ。ですので」
準一は椿姫を立ち上がらせる。「ここで、敵を倒しましょう」
大和は表面が凍りついた状態だったが、艦内は無事で、大広間に大概の人間は集まり、戦闘員は銃火器で武装し、皆防寒具を身に着けていた。
「さて、我々は現状整理といこうか」の九条の声の後、皆は声の主を見る。「大和のまともな航行データ、出せるかい?」
ええ。と艦橋要員は投影ディスプレイを皆が囲むテーブルに映し出す。
「鹿児島を抜け、沖縄へ差し掛かり、その先10km程で航行データは途切れ、現在の状況です」
答えると、女性船員が手を挙げる。「あの、ここって本当にトラック泊地なんでしょうか?」
「と、いうと?」
「いえ、大した根拠ではないんですが、先ほど甲板から泊地の施設を見て居たんですが、格納庫もドックも開きっぱなし、建物も何もかも空っぽなんです。まるで、舞台のセット。ハリボテ、いえ、詳しく知らない誰かが、見よう見真似で造り出した、ありもしない虚構」
確かにな、と別の誰かが呟くと皆はざわつき始める。
「はいはい静かに。ところでカノンちゃん、フォカロルは?」
九条に聞かれ、女性船員の横のカノンは首を振る。「残念ながら、ハッチすら開きません」
「準一君との連絡は?」
「取れませんでした」
九条は大きく息を吐く。艦内は寒いので、吐く息は白い。「こんな事なら、無理にでも準一君を引っ張って来るんだったな」
1人が何でそうしなかったんです、と聞いた。皆も同じ意見だったので、代弁した感じだ。
「ああ、ハッキリ言って、まともに休めるかな、と思ってさ。ほら、彼って任務ばかりで学校だって楽しめてないだろ?」
言うと「とは言っても」と九条は皆を見渡す。「残念ながら、今回も彼には骨折ってもらわなきゃならんな。この状況を脱するには、朝倉準一特級少尉の力が必要だ」
直後、内線が入り、副長が出る。そして顔色を変え、九条に耳打ち。
九条、副長の2人は顔色を険しくしたまま外へ、カノン達も続き甲板に出ると、1機のベクターが大和の横に居た。
『大和乗組員へ。全てこちらの手筈通りだ。何もしなければ、何もしない』
その声の後、10機以上のベクターが大和を囲む様に着水する。
『日本国籍・機甲艦隊所有の弩級戦艦大和は、我々反日軍がいただく……直に牽引船が到着します』
大和を奪うつもりか、と理解し九条は息を吐く。
『しかし朗報です。あなた方の大好きな朝倉準一ですが、この事態収拾の為に艦隊と共に進撃中です』
皆がよかった、と思うと『ですが』とベクターからの声は続く。
『こちらの手配した魔術師の攻撃により、艦隊の足は止まっています』
そんな、とカノンは声を出した。すると、ベクターはしゃがみ、カノンを見る。
『噂の……朝倉準一の僚機ですか。私は、張・狼。以後、お見知りおきを。ああ、そうそう。言い忘れていましたが、ここは広範囲に広がった空間魔法の範囲内、私からのアドバイスは、気をお強くお持ちください。眠ってしまわぬように』
一瞬、強い風が吹き、ベクターは立ち上がった。