もう一人の妹(義妹) 義妹vs実妹編①
翌日の早朝、学生寮エリア駅には日本人離れした容姿の少女が居た。碧武の制服(準一曰く、女子のはコスプレみたいな制服)を着てキャリーバッグを横に置いている様は転入してきた感を醸し出している。
名は朝倉カノン。出身国不明。年齢16歳。
ちなみに準一の実家である福岡県某所の朝倉家の養子である。
カノンは駅で腕の時計を見ていた。時間は5時。待ち合わせの時間だ。
「カノン」
名前を呼ばれカノンは前を見る。
そこには探していた人物が歩いて来ていた。
「兄さん!」
カノンは笑顔で兄さんと呼んだ準一に駆け寄る。
準一は目の前まで来たカノンに「久しぶりだな」と一言。
「はい!」
本当に嬉しそうにカノンは返事をする。
「兄さん、変わってないですね」
「あのな、俺は家から居なくなって一週間しか経ってないぞ。つか昨日も言ったろこれ」
言った準一の顔はとても優しい笑顔で、結衣にも見せた事のない顔だった。
「一日でも会えないとなると私は寂しいんです」
カノンは笑顔で言う。
「そうかい。じゃ、行こう。学校でどこに住むか言われると思うけど、まずは荷物を俺の部屋に置いた方がいい」
「分かりました」
「そういやカノン朝ご飯は?」
準一が聞くとすぐにカノンのお腹が鳴る。
「あ・・・」
カノンは顔を真っ赤にし「食べてないです」と俯く。
「作ってる。一緒に食べよう」
微笑みながらの提案にカノンは大喜びする。
ご飯を食べ終えた2人は、先に学校へ向かった。カノンは準一に付き添ってもらい職員室で自己紹介。校長代理に顔を見せ、住む事になる寮を教えてもらい、生徒会室へ行きメンバーに紹介。
それらを終えたカノンは、HR時間まで職員室で待機、学校について説明を受けていた。
準一は適当に校舎をブラブラとし、登校してくる生徒を窓から見下ろしていた。
別に意味は無いので準一はすぐに飽きる。そして時間が迫って来たので教室へ向かった。
「会いたかった。朝倉」
準一は、教室に着くなり、待ち構えていた本郷義明に捕まった。
「ああそう」
準一は席に向かおうとする。本郷は手を握りとめる。
「な、なんだよ」
準一が向くと「お前、好きなものは?」と聞かれる。
「えっと・・F-15かな」
「違う! 戦闘機じゃない! 飯だ! おかずだ!」
準一はちゃんと説明しやがれ、と思った。
「そうだな・・から揚げかな」
「そ、そうか。よし任せておけ! 最高のから揚げを作って今夜遊びに行くぞ!」
頬を赤く染め決心した本郷。
準一は思った。今夜遊びに行くってなんだ?
「ほ、本郷」
「義明でいい。水臭い」
「義明。お前・・・から揚げ作ってくれるの?」
聞くと本郷は最高の笑顔を作る。
「ああ! お前に相応しくなるように花嫁修業中だ!」
聞いて準一はしゃがみこみ顔を手で覆う。
どうしてこうなった。
目の前の本郷義明に聞きたかったが、折角ここまでしてくれているので好意を無駄にしたくはなかった。
「お、おい。大丈夫か朝倉」
本郷は言いながらしゃがみ準一の肩に手をやる。
余談ではあるが、準一はある筋の情報を得ていた。この本郷との近しい関係を一部勢力(女子)が喜んでいるらしい。
どうやら、屋上での2人きりの食事も見られていたようで、密かに話題を呼んでいる。らしい。
だからだろう、準一は自分の後ろから聞こえる音を幻聴とは思わなかった。
カメラのレンズが動く音。
振り向くと碧武広報部部長、2年3組、カルメン・ディニンズ、女子、がカメラを構えていた。
「いいわー。いいわよ。この構図。堪んないわ」
カルメンは言いながら角度を変えシャッターを切っている。
準一は、結衣に救済の目を向ける。
結衣は小さく頷くと席から立ち上がり「カルメン」と名前を呼ぶ。
「あら、結衣どうしたの?」
「いや、ほら、勝手に写真撮るのはまずいよ。ね?」
結衣が言うとカルメンはポケットに手を入れ3枚の写真を取り出す。
「へぇ、まずい? これを見てもまだそんな事が言える?」
見た結衣は驚愕した。
写真はまず一枚目が初日、教室で視線に晒され肩を落としている準一。
2枚目は、仲良く下校する結衣と準一の写真。互いの顔を見ている状態なのでとても仲がよさそうになっている。
3枚目は、本郷に啖呵を切った時の写真。いつもと違い、カッコいい準一が写っている。
準一も立ち上がって覗き込み「いつ撮った」と思いながら結衣の顔を見る。
結衣は頬を赤く染め、カルメンに要求の視線を送っていた。おもちゃを欲しがる子供の様な視線を。
「あたしが写真を撮るの許可するならこの写真あげるよ」
「許可する」
即答だった。
裏切ったな。準一は思った。
「はい、許可は降りました。たっぷり撮影しよう」
カルメンは準一、本郷の2人にカメラを向ける。同時、チャイムが響き担任の大庭教諭が入室する。
「チッ」とカルメンは舌打ち。
本郷は準一に「じゃあな」と言うと一年生棟に帰って行った。
「あー。それじゃあ今日は転入生が来てます。歓迎してください」
大庭が言う。
準一は知っている。カノンだ。しかし、同じ教室になるとは思っていなかった。2年3組はクラスの規定人数を1人オーバーしているからだ。
「どうぞ」
大庭の後、男女問わず全員が息を呑む。
期待しているのだ。
すると教室の扉がスライドし、ブロンドの髪の美少女が入室する。男子がざわめいている。女子も然り。
入って来たカノンは、準一を見つける。
「じゃあ、自己紹介してくれる?」
大庭に言われ「はい」と返事をする。
カノンは教卓の前に立って一度咳払いをする。
「朝倉カノンです。どうぞ、よろしくお願いします」
微笑みながらの紹介に準一、大庭以外は動きを止め、一斉に準一に向く。
準一は困った顔をして「朝倉で反応したのだろうが、結衣だって朝倉だぞ」と思いながらカノンに向く。
すると「朝倉」と準一に大庭から声が掛る。
「はい」
準一が返事をする。
「お前、この転入生朝倉の兄なんだから、しっかり面倒見ろよ」
「分かりました」
準一は返事をして一番心配な人物を見る。
結衣である。
結衣は案の定混乱していた。
「兄さん」
カノンは準一に声を掛ける。
「なんだ」
「よろしくお願いしますね」
世の男ならイチコロな笑顔でカノンは言う。
結衣はただ混乱していた。
妹って? 妹って何?
あれ?
あたしが妹じゃないの? あなたが妹なの?
「はい、私が義妹ですよ」
結衣に向いてカノンは言った。
この時、まだ誰も知らなかった。この出会いが、妹と義妹の意地のぶつかりあいに発展する事など、誰も知らなかったのである。